番外編



「ミホタタでしょ」
「キドタタです」
「はい! ゾロタタ! ゾロタタ!」

何かと人が集まりがちな食堂で、熱のこもったやり取りが響いた。スザクとダイナ、そしてリーゼが席につき、顔を合わせている。お茶の湯気はもう、ほとんど見えなくなっていた。

「何話してるんだ、あの子たち」
「『タタンは誰とくっついたら一番萌えるか』、話し合ってるんだって」

オーブンを開けて、おやつのスコーンを取り出しながら、フレアがコットンに答える。セイラは洗い物をしながら、会話に耳を傾けているようだ。コットンは細い眉を寄せると、テーブルにいる3人に向けて声をかけた。

「君たち。身内を使って、nmmnカップリング妄想をするのは感心しないぞ」
「妄想するだけならタダだし許して〜」
「コットンさんなら誰がいい?」
「……関係性重視で選ぶなら。コビーやドレークが相手だと、初々しくて可愛らしいんじゃないか」
「なるほど、盲点」
「無意識で海軍組を外してたわ。リーゼ不覚」
「それならスモーカー中将も捨て難いですね」

新たな燃料の追加により、スザクたちはわいわいと賑わう。その側には手帳やスケッチブック、文字が綴られた紙が並んでいた。コットンの視線に気づいたのか、3人は各々の持ち物を手に取る。

「せっかくだしプレゼン聞いてってよ」
「タタンに聞かれたらどうするんだ。困るだろう、タタンが」
「甲板で槍の鍛錬してたからダイジョーブ!」

リーゼが親指を立ててウインクする。コットンは仕方ないなと言うように、ため息をついてから席に着いた。フレアが、粗熱を取ったスコーンを皿に乗せて運び、セイラはクロテッドクリームとジャムを用意する。ダイナも一旦席を立ち、紅茶のお代わりをポットで持ってきた。

「味付きはアールグレイ&オレンジピール、レーズン、ココア&チョコチップの3種類! クリームとジャムで食べたい人は、プレーンがあるよ」
「プレーン! クリームとジャムを取り返しがつかなくなるくらい盛りたい!」
「好きにお食べ〜」
「苺とブルーベリーとブラックカラントがあるわよ」

スコーンを横半分に割ると、ほっくりとした湯気が立った。リーゼはバターナイフを手に取り、苺ジャムと、もったりとしたクリームをたっぷり盛りつける。白と赤のコントラストが目を引くそれに、リーゼは大きめに口を開けてかじりついた。

「美味しーい! なめらかでコクがあるのに、意外とあっさりなのふしぎ〜。苺の甘酸っぱさと合う〜」
「クロテッドクリームの乳脂肪分は60%くらいで、意外とバターより低カロリーなんだよ。生クリーム以上バター未満の乳製品だね」

幸せそうに口角を上げるリーゼ。フレアの豆知識を聞きながら、コットンたちもスコーンを口にする。外側はカリッとしていて、中はふんわりほろほろ。小麦の香りが心地よく漂う。

「紅茶とオレンジピールって、何でこんなに合うんだろうな。爽やかで美味い」
「口の中の水分持ってかれるけど美味し〜」
「お茶と一緒にいただくお菓子だから、パサパサ気味なのは仕方ないわね」

コットンの呟きに頷きながら、スザクはレーズン入りも頬張った。ダイナはチョコチップ入りを飲み込んでから、紅茶で口内と喉を潤す。

「そういえば、何でタタンでカップリング妄想してたんだ?」
「タタンって、可愛くて優しくて控えめで、でもしっかり芯が強いとこもあって、いい子じゃん?」
「そうだな」
「そんな乙女ゲームのヒロイン適性があるタタンなら、誰と相性が良さそうか、話しがいがあると思うんだよ。あとあんなにいい子なのに、恋の予感が無いのちょっともったいない。個人の感想です」
「そう言うスザクは、タタンが実際に彼氏を連れて来たら何て言うんだ?」
「『君がうちのタタンの彼氏か、はじめまして。コットンさん、ショットガンをくれ』」
「ガチおこじゃん」
「鮮やかな手のひら返しですね」
「妄想するのは良いとして、現実になったら心が追いつかないタイプか」

口の端についたクリームと、スコーンのくずを舐め取ってから、リーゼが話し出す。それを引き継ぐようなスザクの説明を聞きつつ、スザクの複雑な胸の内を見たコットンは、納得したように言葉を返した。

「ちなみに私がプレゼンしたいのは、ミホーク×タタンなんだけど」
「歳の差いくつだと思ってるんだ」
「24。妄想の中だから許して」

手帳を開いたスザクにコットンが突っ込む。前置きをしてから、スザクは話し始めた。

「まず頂上戦争でのドキドキ(恐怖)の出会い。それをきっかけに始まった、シッケアールでの修行期間。戦場ではなく日常を通して、お互いのことを知っていく2人……」
「意外な一面を見つけ、言葉を交わし、『この人、本当は怖くないのでは……?』と気になっていくタタン。タタンの素直さと無垢な優しさ、そして健気さに少しずつ癒され、孤独と疲れた人生に一筋の薄明光線が差し込むミホーク」
「おずおずとふれあう指と指、優しさが開いてく愛の扉、そして交わされる幸せなキス! エモくない?!」

「気持ちは分かるが、美女と野獣始まってなかったか?」
「おとぎ話みたいで素敵ね。私は好きよ」
「その世界線のミホークさんなら、タタンのこと大事にしてくれそう」

熱弁をふるい、椅子から立ち上がるスザク。コットンは冷静に突っ込みを入れ、セイラはおっとり微笑みながら紅茶をすすった。フレアもピュアな内容に引き込まれたようで、内容を膨らませ始めている。

「私はユースタス・キッド×タタンを推したいです」
「最近ダイナさんが注目してるキャラじゃん」
「はい。地に伏しても汚されても、折れない魂に美しさを感じます」
「推しの強度テストをするな」
「ダイナさんの最近の推し、ダイナさんの昔からの推しに左腕落とされてるんですけど」
「キッド曇らせは原作がやってるでしょう。やめて差し上げなさい。ハッピーエンド大好きなタタンが泣くわよ」

コットン、フレア、セイラに突っ込みを入れられながら、ダイナは立て板に水のごとく語り出した。

「タタンは威圧的な人が苦手ですし、強面で短気で民間人にも被害を出して、怒鳴るキッドに出会ったら、とても怯えるでしょうね」
「見た目は闘牛とハムスターだしな」
「でかつよとちいかわだ」
「何でくっつけようと思った」

リーゼとスザクにも突っ込まれるが、ダイナの勢いは止まらない。

「純度100%の妄想で行きます。もしワノ国の戦いに参加して、ビッグマム戦にタタンもいたら。最初はべそをかきながらも戦うタタンに、苛立ちつつ気になって仕方ないキッド。そんなとき、一応産みの母であるビッグマムから、アプローチがかかる……」

***

「親に向かって何だい、その態度は!」
「い、今さら親みたいな態度取らないでください! 私を産んでくれたことは感謝してます。おかげでスザクさんたちに会えましたから。でも、私のこと失敗作だって、産むんじゃなかったって言ったあなたが……私の親を名乗らないでください!」

「"二度と母親ヅラすんじゃねェ、クソババア"だってよ」
「そこまで言ってません!!(泣)」
「ひ弱そうなビビリだと思ってたが、ハッキリものが言えんじゃねェか。そういうヤツは嫌いじゃねェ!」

***

「キッドは気の強い女性が好きでしょうから、タタンの奥底にある芯の強さにも惹かれるはずです。気に入ったタタンにちょっかいを出し、追いかけては逃げられ、スザク等に妨害され、それでも不屈の精神で追い求める」
「最後にはタタンを攫い、海賊らしく全てを奪い尽くすような、情熱的な愛し方をする。その中で垣間見える、仲間を思いやる熱い面。冷静に、そして哲学的に物事を捉えられる面。それらを知り、キッドに向き合っていくタタン。ときに彼を叱り、寄り添い、唯一無二の存在になっていく」
「荒くれ者で乱暴な男が、1人の少女の影響で、少女が愛するもの――例えば道端に咲く花を踏み潰さなくなる。そんな愛ゆえの変化が見られそうだと思いませんか」
「あとタタンは体が頑丈ですし、キッドとの体格差も夜の営みも充分耐えられると思うんです。キッドに啼かされ、くたくたになるまで愛を叩き込まれ、それでも気絶できなくて、ぴえぴえ泣いて。その涙に煽られたキッドがのしかかって種つ、」

「ちょっっっと待て」
「愛ゆえの変化のとこ、ドラゴンと妖精みたいで可愛いなと思ったのに、最後の猥談で台無し!!」
「私が、そんなケダモノにタタンを渡すわけないでしょうが!!」
「R-18タグ付けないといけなくなるでしょ! これ全年齢だよ!」
「落ち着いてください、妄想ですよ」

普段通りの冷静な顔で、とんでもない話を平然としだしたダイナ。そんな彼女の話をせき止めるように、コットンは声を上げた。フレアは真っ赤な顔で非難するような声を出し、スザクは椅子が倒れそうな勢いで立ち上がる。テーブルを叩くリーゼも見回してから、ダイナはすましたような表情で淡々と答えた。

「気を取り直して、エントリーナンバー3番リーゼ! ゾロ×タタン行きまーす!」

スケッチブックをフリップのごとく掲げたリーゼが、朗らかな声を上げた。そこには美麗な作画で、凛々しいゾロと愛らしいタタンのイラストが描いてある。

「シッケアールで一緒に修行して、接点が生まれた2人。ドレスローザ後の宴でも、タタンはゾロのところに行ってたよね。あの人見知りのタタンが、私たち以外の人に自分から近寄ってくって、けっこう大きいと思う!」
「冷静沈着でちょっとぶっきらぼうな硬派お兄さんと、ひよこみたいに懐いてるちびっこの組み合わせがめちゃカワイイ! お互いを認めて高め合ってくのもよし。兄貴分と妹分でもよし。くっついたら美味しい!」
「あとタタンが好きな異性のタイプって、『仁義を重んじる人』でしょ? 義理堅いゾロって、いい線行くと思うんだよね〜!」

現実に基づいた解釈と爽やかな妄想に、全員は清涼剤を顔面から浴びたような気持ちになる。神絵師リーゼによるイラスト数枚が、彼女の妄想に華を添えていた。

「確かに可愛い」
「あの2人、お兄ちゃんと妹みたいな感じで可愛いわよね」
「あの宴のとき、ゾロも珍しくくだけた感じというか、柔らかい感じでタタンと話してたな」
「一番爽やかそうなカプだ」

フレアとセイラが、頬を緩ませながら頷く。コットンやスザクも関心を抱いたように、リーゼに対して感想を伝えた。

「カップリングとは少し違うけど。私だったら、しらほしちゃんとタタンの組み合わせを見てみたいわ」
「想像しただけで可愛い」
「似たもの同士だし気が合いそう」

和気あいあいと話していたとき、食堂のドアが控えめな音を立てて開く。綿菓子のような、ふわふわのポニーテールを揺らして、ひょこりと顔を出したのはタタンだ。鍛錬が終わったのか、頬がほんのり紅潮している。

「あ、皆さん。ここにいたんですね」
「タタン! どうしたの?」
「練習終わったので、お水をもらいに来ました」
「紅茶とスコーンもあるよ。プレーンとか、紅茶の葉っぱ入りなら、タタンも食べやすいと思う」
「いただきます。フレアさんとセイラさんが作るお菓子、全部美味しいですから」

タタンが嬉しそうに目を細めて、顔をほころばせる。フレアが上手く誘導している間に、スザクたち3人は手元の資料をササッと片付けた。

タタンは水分補給を済ませてから、紅茶とオレンジピールのスコーンを手に取る。クリームとジャムはつけずに、半分に割ったうちの片方を、1口かじった。

「外はカリッとしてて、中はふわふわ……。口の中でほろほろほどけて、素朴で美味しいです。ほのかに香る紅茶と、オレンジピールの爽やかなほろ苦さ、優しい甘さがぴったりです……!」
「タタンって、丁寧な感想いっぱいくれるから、作りがいがあるなぁ」
「お菓子も夢小説もね」

スコーンを両手で持って、もぐもぐ食べている様子は、小動物のようだ。ほんのりピンクに染まった、柔らかそうな頬が動いているのを、皆は癒されながら眺める。

「ねぇねぇ、タタンはイッショウさんの他に、好きな人っている?」
「り、リーゼさん。突然どうしたんですか?」
「気になっただけ〜。いいじゃんたまには恋バナしよ♡」
「え、ええと……。フォレスト冒険団の皆さんが好きです」
「うちの末っ子超可愛い〜〜〜〜!」
「嬉しいけど、違う違うそうじゃない」

リーゼが気軽に話を振ると、タタンは頬をさっきより赤らめながら、はにかむように微笑んだ。スザクは感極まったような甘い声を上げ、タタンをぎゅうっと抱きしめる。

リーゼは照れながらも、右手を鎖骨辺りに、左手を右の脇腹辺りに当てて答えた。とある歌手のCDジャケットを真似たポーズだった。
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