番外編



修行期間中のある日のこと。ドラクルたちが生活している島に、一艘いっそうの棺船がやって来た。

「久しいな。手合わせ願おうか」
「願いません願いませんうわあああん」

背負った愛刀「夜」の柄に、手をかけながら、ミホークはタタンを見据える。その強い視線から逃げるように、タタンは半べそをかきながらスザクの後ろに隠れた。頂上戦争の影響で、タタンはミホークに少し苦手意識があった。

何だ何だと他のメンバーも集まってくる。一部始終を見ていたリーゼは、ぴんと来たように口を開いた。

「好きな強者と決闘ミホークだ」
「好きな惣菜発表ドラゴンみたいに言うな」
「おうおう、どうしたミホっちゃん。そっちから来るなんて珍しいじゃねェか」

コットンがリーゼにツッコミを入れたとき、エースの相手をしていたドラクルが、ゆったりした足取りで歩いてきた。スザクとタタンを背後に庇うように、ミホークの正面に立つ。

「フォレスト冒険団に稽古をつけていると、お前からの手紙にあったのでな。話があって来た」
「話?」
「おれと来い。小鼠娘」
「こねずみむすめ?! 私のことですか?!」

ドラクルの後ろから、顔をのぞかせていたスザクが、首を傾げる。同じようにひょこりと顔を出して、様子をうかがっていたタタンを見つめ、ミホークはそう言い放った。目を見開くタタンに対し、ミホークは軽く頷いて見せる。

「おれにも今、稽古をつけている男がいる。あいつを更に叩き上げるために、何が必要か。そう考えた末に思い当たった。おれと互角に戦った貴様なら、あいつの相手に不足なし」

スザクは口元に指を当てて、ふむ、と考え込む。ミホークがゾロの修行相手だということは知っていたが、ここまでゾロのことを考えているとは。

スザクがちらりとタタンを見ると、戸惑ったような視線と目が合う。タタンはスザクの服の裾をきゅっと掴んで、答えを求めるように、ミホークとスザクを交互に見ていた。

「タタンはどうしたい?」
「ええと……」

スザクがそう問いかけると、タタンはためらうような言葉で返事をして、迷ったように口をつぐむ。そしてミホークを上目遣いで見上げ、恐る恐る口を開いた。

「私も、強くなれますか?」
「何を学び、何を得るかは、貴様の心力次第だ」

こくりとタタンが唾を飲み込む。そして、スザクの服から手を離し、とことことミホークに近づいた。小さな体が、ときおり少しだけ震える。拳をぎゅっと握りしめて、タタンはミホークの目を見つめ返す。

「期間は、どれくらいですか?」
「1ヶ月。その間、おれの城に住んでもらう」
「……分かりました。お世話になります……!」

タタンが上体を深く倒し、ぺこりとおじぎをした。意外な展開にセイラやフレアは目を丸くする。スザクもちょっとだけ驚いたが、タタンの成長が見えた嬉しさの方が勝った。


「着替えとか足りそうか?」
「はいこれ、お弁当。行く途中に食べてね。一応ミホークさんの分も作っといた」
「寂しくなったら、いつでも電話するんだよ」

突如決まった末っ子の船出。荷造りをするタタンを、6人はさりげなくサポートする。フォレスト冒険団に入ってから、タタンが自分たち以外の人間と行動するのは初めてだ。

「もし嫌なことや怖いことをされたら、すぐに言うのよ。助けに行くわ」
「皆さん、ありがとうございます」
「あの人見知りなタタンがねぇ……。すごい決断したね」
「ちょっと怖いですけど、他の人と戦うのって、いい経験になると思うので。私、もっと強くなりたいです」
「今でも充分強いと思いますが、上昇志向は良いことですね」

リュックと愛用の槍――穿山せんざんを背負い、ランチボックスが入ったバスケットを大事そうに抱えて、タタンは立ち上がる。

「行ってきます!」

緊張と楽しみが混ざったような顔で、タタンは島から旅立っていった。

***

偉大なる航路グランドライン前半。「楽園」と呼ばれるその海には、クライガナという島がある。

灰色の雲が垂れ込めているせいで、辺りは薄暗い。生い茂る針葉樹の森。崩壊して黒ずんだ家々。苔むしてひび割れた石畳。闇の底へと沈んでいきそうな、白壁の古城。ジメジメとした湿気が、肌を撫でていく。

ミホークの後について、シッケアール王国跡地に足を踏み入れたタタンは、青ざめた顔で辺りを見回した。

――どうしよう。来たばっかりなのに、帰りたい。

おばけが出そうな雰囲気に、タタンの足がすくむ。時間が止まったような静寂も、不気味なイメージをふくらませていた。それに気づいたのか、ミホークが振り返る。

「何故怯える」
「ここ、おばけとか出ませんか……?」
「あの様な強さを持っていながら、あやかしを恐れるか」
「おばけは物理攻撃効かないじゃないですかぁ……!」
「おれは7年ほど前からここに住み着いているが、あやかしの類に会ったことはない」
「そ、そうなんですか……」
「7年前まで生々しい戦争が起きていたため、墓場だらけだがな。おれがこの島を住み処と決めた頃は、まだ血と煙の臭いを放ち、死体が足の踏み場なく転がっていた」
「それ言わないとだめな情報でしたか!?」

ほっと安心したのも一瞬のこと。表情を変えずに、淡々と恐ろしいことを告げられ、タタンは涙目になりながらツッコミを入れた。詳しく話されたせいで、うっかりスプラッタな情景を思い浮かべてしまう。

ミホークがスタスタと歩いていくため、タタンは置いていかれないように小走りになった。こんな怖いところに置き去りにされたら、絶対に動けなくなってしまう。早くもスザクやセイラたちが恋しくなり、タタンは小さく鼻をすすった。


古城の中に入り、食堂らしい大きな部屋や調理場等を案内される。視界の端に白い影が何度か見えて、タタンははじかれたように振り向く。しかし、そこには何もいない。

階段を登り、長い廊下を進んだ先にある部屋を、タタンは与えられた。

「浴室は隣の部屋にある。食事が欲しいとき、足りない物があるときは、おれに言え」
「は、はい。あの、起きる時間は決まってますか?」
「決まっていない。好きに過ごせ」

扉が閉められ、部屋の中に1人たたずむ。掃除は既に終わっているらしく、埃の臭いなどはしなかった。

白い壁、深緑色のカーテンがかかった窓。金色の燭台。4本の柱に天蓋がついたベッド。古めかしくも威厳のある部屋は、見慣れないせいか少し落ち着かない。テーブルにリュックを下ろし、タタンは荷解きを始めた。

「……?」

そのとき、トントンと扉を叩く音がした。タカノメさんかな。タタンはそっと扉を開けて、顔を出す。左右を確認するが、廊下には誰もいない。

ぞわわ、とタタンの背中が寒くなる。タタンは扉を閉め直し、リュックからぬいぐるみを取り出した。昔にコットンが作ってくれた、ポメラニアンのぬいぐるみだ。ふわふわのそれを抱きしめて、タタンはベッドの上で丸くなる。さらりとしたシーツは、石鹸のような清潔な香りがした。

「お、おばけなんていないもん。おばけなんてうそだもん……」

静かな部屋に、自分の声だけが響く。タタンはベッドから下りて、リュックを再び探り、もう1つの宝物を取り出した。前に古道具屋を訪れたとき、セイラが買ってくれた、カリンバという楽器だ。

ベッドに横になり、木の箱に並んだ細い金属棒を、親指の爪で弾く。ぽろん、ぽろんと澄んだ音色が流れ、タタンの心を少し落ち着かせてくれた。たどたどしい手つきで音を鳴らしながら、ぬいぐるみに顔を埋めて、タタンは呟く。

「……ポメ助。私、ここでやっていけるかな」

1ヶ月。1週間が4回と少し。31日。途方もなく長い時間に思えて、心細い。カリンバの音を聞いているうちに、タタンはいつの間にか目を閉じていた。

***

翌朝、知らない部屋にタタンは瞬きをする。そうだ。タカノメさんに連れられて、タカノメさんが暮らしてるお城に来てるんだった。シャワーを浴びて服を着替え、時計を確認する。時刻は5時半。慣れないベッドだからか、いつもより眠りが浅かったようだ。

朝ごはんの準備、お手伝いした方がいいかな。そう思って扉を開け、きょろきょろと左右を確認する。石造りの廊下を歩くと、コツコツと靴の音が響いた。

昨日教えてもらった調理場は、どこだったっけ。昨日の記憶を振り返りながら、階段を降りて廊下を進む。いくつかのドアを開けながら、目的の場所を見つけた。ほんのりといい匂いが、ドアの隙間から漂っている。

そうっとドアを開けると、台所に向かうミホークの後ろ姿が見えた。帽子を脱ぎ、エプロンを身につけた姿は、戦場で見たよりもずっと身近に感じられる。タタンは部屋に入り、ドアを閉めてから声をかけた。

「お、おはようございますっ」
「……まだ朝食はできていないが」
「あ、あの、お手伝いに来ました。何かできることはありますか?」
「……なら、鍋を見ていろ」

渡されたお玉を受け取り、タタンは鍋の前に立つ。ことこと煮込まれていたのは、トマトのポタージュだ。爽やかな酸っぱい匂いがふわりと鼻をくすぐる。ときおりかき混ぜながら、隣の様子を見ると、ミホークが野菜を切っていた。素早く流麗な手つきに、つい見とれてしまう。

今日のメニューは、こんがり焼かれたベーコンと生野菜のサラダ。全粒粉のパンにスープだった。

「美味しいです……!」

サラダから口にしたタタンは目を輝かせた。ミニトマトはくっきりと甘酸っぱい。レタスやパプリカ、細切りされた人参は、シャクシャクとした歯ごたえが心地よかった。

「お野菜がすごく新鮮ですね。パリッとシャキシャキで、みずみずしくて美味しいです!」

野菜のみずみずしさが、ベーコンの塩気や脂を、さらりと流してくれるようだ。香ばしいパンはざらっとした舌触りで、ぷちぷちした食感が混じる。酸味と旨味が溶け込んだスープが、とろりと体を温めていく。

夢中でもぐもぐ食べていると、空になったお皿に、ころんとミニトマトが転がされた。顔を上げると、フォークを持ったミホークがこちらを見ている。金色の目が、少し細められていた。

「やる」
「あ、ありがとうございます。いただきます」

思わず頬が緩む。もしかしたらこの人、思ってたより怖くないのかもしれない。そう思いながら食べたミニトマトは、さっきよりも少しだけ、甘酸っぱさが増した気がした。


朝食を終えてから部屋に戻る。置きっぱなしだった槍を持って、ミホークが待つ広間に行こうとしたとき、上から真っ白なおばけが現れた。

「〜〜〜!?」
「ホロホロホロ! マヌケな反応だな!」

声にならない悲鳴を上げて、ぺたんと尻もちをついたタタン。それを高笑いしながら、見下ろす影がいた。

ゴーストを模した日傘を持って、宙に浮いている。ウェーブがかかったピンク色のツインテールが、ふわふわと揺れた。ケープと、美脚を惜しげも無く晒したミニスカート、そしてブーツの赤色が目を引く。頭には王冠が乗っていた。

(だ、誰……!? 宙に浮いてる女の子!?)

震える足で何とか立ち上がり、タタンは槍を構える。それをからかうように、イタズラっぽい笑みを浮かべて、女は自分の能力を使った。

「"ネガティブホロウ"!」
「ひゃあ!」

悲鳴を上げて縮こまるタタンの体を、するりとゴーストがすり抜ける。目を潤ませたタタンが、怖々とした様子で顔を上げた。

「うぅ……おばけ、こわい……」
「お、お前、私の能力が効かねェのか!?」
「へ……!? ご、ごめんなさい、何ともないです……!」

ゴーストに怯えているが、それだけだ。ネガティブ思考に陥った様子も、心を折られた様子も無い。そんな人間、今まで1人しか見たことがない。人は生きているだけで、前を向いてるハズなのに!

女――ペローナは、目の前の少女に歩み寄る。その顔は、前に新聞で見かけたことがある。フォレスト海賊団の戦闘員で、1番高額の懸賞金がかけられていたはずだ。

「お前、そっちの船でいじめられてんのか?」
「そんなことないです! 皆さんすごく優しいです!」
「ならいいけど。元気出せよ。話聞くぞ」
「あ、ありがとうございます……?」

なぜかさっきよりも優しげな態度になったペローナに、タタンは首を傾げた。その顔をしげしげとのぞき込み、タタンの頬を両手で挟むようにして、ペローナは言う。

「よく見たら、お前なかなかカワイイ顔してんじゃねェか。気に入った! 私の召使いにしてやろう!」
「え? えと……?」
「私はゴーストプリンセス、ペローナだ! お前は?」
「わ、私、タタンです。よろしくお願いします。ペローナさん」

***

「今日からひと月、この娘とも戦ってもらうぞ。ロロノア」
「誰だこいつ」
「はっ、初めまして。タタンと言います。よろしくお願いします……!」
「おれは、ロロノア・ゾロだ」

ミホークが連れてきた少女を見下ろして、ゾロは訝しげに片眉を上げた。自分より少し歳下だろうか。大きな藍色の目が、緊張と不思議な光を宿したように見上げてくる。ペローナとはまた少し違う、ふわふわしたピンク色の髪。細い手足と華奢な体。槍を両手で握りしめた姿は、小動物のようだった。

「……こいつ、戦えんのか?」
「あァ」

ミホークの横で、タタンもこくこくと首を縦に振る。鋭い切れ長の目。ベリーショートにした緑色の髪。あちこちに傷を作った、筋肉質な体。左耳には3つのピアス。馴染み深い原作キャラを前に、タタンはドキドキしていた。

――すごい。本物のゾロだ……!

ミホークが仁王立ちで見守る中、タタンは鞘付きの槍を構える。ゾロも2本の刀を構え、タタンに向き合った。

「いつでも来い」
「はいっ、行きます……!」

素早い動作で飛び込んでいく。向けられた槍を刀で止め、払う。鈍い音を立てて槍と刀がぶつかり合う。

「あ、あのっ! ゾロさん!」
「あ?」
「私、こう見えて丈夫なので、思い切り来ていただいて大丈夫です!」

手加減をされていることは、すぐに分かった。ミホークと戦ったときよりも、動きが読みやすく、緊張感が無い。全ての動きをかわし、受け止めながら声をかけると、ゾロの眉間にシワが寄る。タタンの力量を知らない今、本気を出せないのだろう。

――私も本気を出した方が、誠実かもしれない。

鍛錬のためにも、ゾロの全力を引き出させる。そう決めたタタンは、グッと足に力を込めた。一瞬感じ取れた気迫に、ゾロが目を見開いたとき。胸の辺りに衝撃が走り、体が傾く。

「が……ッ!?」

仰向けに倒れたゾロを押さえるように、小柄な体が跨る。鞘に収められた槍の先が、ゾロの喉元でぴたりと止まる。

「……大丈夫ですか?」

槍を離しながら、ちょっと心配そうに聞いてくるタタン。今、何が起きた。目にも止まらない速さに驚いたのか、ゾロはまじまじとタタンを見上げた。

「……そういやお前、何か見覚えあるな。新聞に載ってたやつか?」
「は、はい。フォレスト冒険団の戦闘員です」
「ならそうと言えよ。余計な気遣いしちまった」

降りろと言うように、肩に手を置かれ、タタンはゾロから離れる。立ち上がったゾロは、1本残っていた刀を口にくわえ、三刀流の構えを見せた。タタンの心に浮かぶのは、怯えではなく高揚感。アニメでよく見るポーズが、今目の前にある。

「悪かったな。思い切り行くぞ」
「はいっ!」

槍と刀が、再びぶつかる。さっきよりも重く激しい音が、辺りに響き渡った。

***

ミホークの家事や畑仕事を手伝ったり、ゾロの修行の相手をしたり、ペローナの着せ替え人形にされたり、タタンはほどよい忙しさに囲まれて生活していた。

「おれの名を知っているか」
「? タカノメさん、ですよね?」
「それは異名。我が名はジュラキュール・ミホークだ」
「……私、今までお名前間違えてたんですね!? ごめんなさい、ミホークさん……!」
「構わん」

食器を洗うミホークの隣で、磨かれたお皿やフォークを丁寧に拭きながら、タタンは慌てて謝る。ミホークは気にした様子も無く、黙々と洗いものを続けていた。

「小鼠娘。お前は何故、更なる強さを求める」

手についた泡を水で流し、ミホークはタタンに問いかける。不意にかけられた声に驚きながら、タタンは質問に答えようと口を開いた。

「私、スザクさんたちといる時間が、とても好きなんです」

もう怖くなくなった、ミホークの金の瞳を見て、タタンは話す。仲間たちと過ごす、温かな時間を思い返しながら。

「ご飯を食べたり、お話したり。読んだ本の感想を言い合ったり……。そんな何気ない日常が、どんな宝物より大切で、守りたい。平穏な日々をずっと過ごせるように、強くなりたいんです」
「……平穏な日々、か。同感だ」

ミホークがフッと口元を緩める。初めて見る彼の微笑みは、思っていたよりも柔らかく、タタンの心臓がとくんと跳ねた。ほわほわした優しい気持ちが、胸いっぱいに広がる。

「ところで。夜になると、お前の部屋から微かに音が聞こえるが、あれは何だ」
「う、うるさくしてごめんなさい……!」
「苦情ではない。気になっただけだ」
「か、カリンバっていう楽器を鳴らしてました……」

無表情だが、怒っているわけではないらしい。それに少し安心しながら、おずおずとタタンは答える。ぬいぐるみのポメ助とベッドに入り、カリンバを鳴らしながら小声で歌う。寂しい気持ちは初日より薄れているが、1人でリラックスするために、大切な時間だった。

「今度聞かせてみろ」
「え、あんまり上手くないですよ?」
「技術は求めていない。好きに弾け」

その日以来、ミホークは夜になると、広間で静かにワインを飲む。そんな彼の近くで、タタンはカリンバをぽろぽろ鳴らすようになった。

***

約束の1ヶ月が過ぎる。終わってみたら、長いようで短かったなと、タタンは振り返った。ゾロとの戦闘訓練。ミホークとゾロの戦いを見学。空いた時間に休憩や自主練習。そしてペローナとのおしゃべり(タタンは大体聞く専門だった)。

迷子になったゾロを探しに、ペローナと森へ出かけたこともある。両手の指の数を超えた辺りで、タタンは数えるのをやめた。おかげで見聞色の覇気に磨きがかかった気がする。

「小鼠娘。好きな野菜はあるか」
「じゃがいもが好きです!」

ミホークの印象もだいぶ変わった。料理の味見をさせてくれたり、タタンの分の野菜を少し足してくれたりする。そして、畑にじゃがいもの苗を植えてくれる等、気づきにくい優しさでふれてくるような人だった。

「私を置いてどこ行くんだよ! ずっとここにいろよ〜!」
「駄々をこねるなゴースト娘」
「まだ戦い足りねェ。あと1ヶ月延ばせ」
「あわわ……」

荷物をまとめたタタンに、ペローナが泣きつく。ぎゅーっと抱きしめられたうえに、ゴーストたちに周りを取り囲まれて、タタンはおろおろと手を動かした。

すっかり慣れたおかげで、可愛く見えるゴーストたちも涙を浮かべている。指先で拭おうとするが、タタンの手はゴーストたちをすり抜けてしまった。

ゾロは不満そうに顔をしかめて、タタンの手首を掴んでいる。ここまで彼らと仲が深まるとは、思っていなかった。タタンが助けを求めるように、ミホークを見る。ミホークは呆れたようなため息をついて、ペローナとゾロを眺めていた。

「……お前が望むなら、こいつらを引き剥がして出発するが」
「上等だ受けて立つぞ」
「やだ〜〜! まだこいつとベーグルサンド食べてないし、ホットココアも飲んでない! 着せたいカワイイ服もまだあるんだーー!」
「あ、あの、もう少しここにいちゃだめですか?」
「甘やかしは不要だ」
「私も、まだ皆さんと過ごしたいです」

ミホークの承諾を得てから、タタンはスザクに連絡をする。タタンとミホークが、クライガナを出港したのは、それから1週間後のことだった。
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