それは希望よりも熱く、絶望よりも深いモノ
フォレスト冒険団が指名手配されるようになってから、変わったこと。海賊だけでなく、海軍にも狙われるようになった。
「前方に海軍の船見えた!」
「逃ぐるが一の手! 遠距離持ちは船を守る準備!」
リーゼの報告に、スザクが大剣を構えながら、大声で指示を出す。タタンは緊張した顔で槍を握りしめ、コットンは銃を構えた。セイラも、能力をいつでも発動できるように体勢を整える。遠距離攻撃担当ではないフレアとダイナは、船内に避難した。
「こらそこ! 海軍の電伝虫に向かって決めポーズすな!」
「すまない、前世の癖で……。カメラを向けられると反射的にポーズを取ってしまう……」
「コットンさん、レイヤーさんだったものね」
「リーゼも、タタンを巻き込んでギャルピースしないの! 船内で大人しくしてなさい!」
「いやぁ新衣装お披露目のチャンスかなって」
「手配書はブロマイドじゃないよ!」
「めんご!」
飛んでくる大砲を撃ち落としつつ、やたらかっこいいポーズを決めてみせるコットン。表情管理もバッチリなせいか、海軍の方から黄色い悲鳴が聞こえた気がした。スザクは大剣で打ち返しながら、コットンとリーゼにツッコミを入れる。今回も余裕をもって逃げ切った。
またあるときは、海賊と交戦。一瞬の隙をついて、敵がタタンの背後に回り込み、その細い首にナイフを突きつけた。
「こいつがどうなってもいいのかァ!?」
「ひっ」
「やめろーーッ! 命が惜しくないのか!?」
「オイオイオイ死ぬわアイツ」
「冷静になれ。そのナイフを静かに下ろしてその子を離すんだ」
「何舐めたこと言って……」
冷や汗を流して叫ぶスザク。敵を指さして、キャッキャと声を上げるリーゼ。説得を試みるコットン。誰も人質の心配をしていないことに、敵が苛立ったとき。震えていたタタンが、大きく息を吸い込んだ。
「……ひ、ぅ、うわああああん!」
タタンが泣き出した瞬間。バチバチバチッ! と覇王色の覇気がほとばしる。突然頭をガツンと殴られるような、重く激しい覇気をまともに食らい、敵の意識は一瞬で刈り取られた。甲板に大柄な体が叩きつけられる。そんな敵を、スザクたちは同情の眼差しで見下ろした。
「だから言ったのに……」
「タタンは恐怖や焦りでパニックになると、強めの覇王色の覇気をぶっぱなす悪癖があるんだ」
「タタンの覇気を食らいたくなかったら、蝶よりも花よりも丁重に扱いな!」
敵たちを戦闘不能にし、動けないように縛り上げる。ダイナの手腕によって、海賊たちは甲板に次々と転がされていた。亀甲縛り等、少々いかがわしい縛り方があるのは、彼女の趣味だ。
「ねぇねぇどんな気持ち? 今どんな気持ち? 女の子ばっかりで楽勝だと思ったら、ボッコボコに返り討ちにされて海軍に引き渡されるのどんな気持ち〜!?」
「リーゼ。反復横跳びしながら煽らないの。いい子だから、おやめ」
「はーい!」
「さすがセイラさん。リーゼの止め方を分かってる」
「まずは海賊も使っている、賞金首の換金所に引き渡しましょう」
海賊にちょっかいを出すリーゼ。それをたしなめるセイラ。スザクとダイナはその様子を眺めながら、淡々と処理を済ませていく。
「そういえば思ったんだけど。海軍も海賊も、何か動きが遅くない?」
「私も思いました」
「こんなもんだったっけ」
「修行の成果が出てるのかもしれないな」
2年前よりも、難なく敵を排除できるようになり、彼女たちは極めて安全な航海を続けていた。ドラクルの並外れた速さに慣れた影響だろう。場合によっては一瞬でカタが付くこともあった。
***
「お、手配書見っけ」
「写真更新されてる〜」
「コットンさんめっちゃ盛れてる」
その日、フォレスト冒険団はとある島に船を停めていた。自分たちは今後も「冒険団」を名乗るつもりだが、世間には「海賊」と認識されてしまっている。念のため変装をしてから街に出ると、海賊の手配書が貼られている掲示板を見つけた。
手配書を確認する彼女たちに、注目する者は誰もいない。コットンのメイクや体型を変える方法のおかげで、彼女たちの見た目はほぼ別人になっているだからだ。前世コスプレイヤーの技術が光る。
「買い物終わったら自由行動。何時に船に帰るかと、外泊するときは、小型電伝虫で連絡よろしく!」
スザクの声がけを合図に、それぞれが別行動をとる。洗剤等の日用品や、食料に調味料を買った後は、個人が欲しいものを見ていく。コットンは1人で、町に1軒だけあるという質屋を目指していた。
「……そろそろ、手放すか」
色あせたビロードの、小箱の蓋を開く。そこには小さな指輪が入っていた。幼い子どもの指にしかはめられない、おもちゃのような大きさの指輪。存在感のある1カラットのダイヤモンドが、澄んだ虹色に輝く。
これを作るために、どれだけの血税が失われたのだろう。苦い思いと共に蓋をして、コットンは小箱を懐にしまい込む。
今のコットンは黒い短髪のウィッグを被り、グラデーションがかかった薄い青色のサングラスをかけていた。もともと控えめな胸にはサラシを巻き付け、黒い革のコートをかけた肩には、パッドを入れている。190cmという高身長も相まって、クールな魅力ある男性にしか見えなかった。
ブーツのかかとを軽く鳴らし、地図を見ながら彼女は進む。人の気配が無くて静かな道のため、足音が耳に残るようだった。路地裏に入ったところで、嫌な寒気がした。
「!」
太ももにベルトで固定していたホルスターから、拳銃を引き出す。その腕に細いものが絡みつき、頭上で固定された。とっさに武装色の覇気を足にまとわせ、思い切り振り抜く。
「おっと。2年前と違って、足癖が悪くなったな」
長い手足による遠心力が、上乗せされた蹴り。それを正面から受け止めて、男は口の端を吊り上げた。
ふわふわした羽のコート。短く刈り込んだ金髪。目尻がつり上がったような形のサングラス。がっちりと鍛えられた上半身には、白いシャツを羽織り、ワイルドな雰囲気を漂わせている。
なぜ、ここに。無表情の下に動揺を隠し、コットンはかつての幼なじみを――ドフラミンゴを見上げた。
「狙撃専門だと思ってたぜ。意外と動けるじゃねェか。なァ、コットン?」
「……近接格闘ができないと、言った覚えは無いな。それに一芸だけで渡れるほど、この海は甘くないだろう。ドフィ」
「違いねェ。フッフッフ」
変装は完璧だった。しかし、見聞色の覇気で探られては誤魔化せない。はっきり名前を呼ばれ、コットンは観念した。腕にまとわりついていた糸が緩み、解放される。
「1人か? 他の奴らはどうした」
「君に教える必要は無い」
「つれねェな。おれとお前の仲じゃねェか」
微かに足を後方にずらす。ドフラミンゴは1歩踏み出して、コットンとの距離を縮めた。壁際に追い込まれ、コットンのこめかみに冷や汗が浮かぶ。
「……私に、何か用か」
「おれと来い。コットン」
ドフラミンゴの大きな手が、コットンの首すじから頬をするりと撫でた。ぞわっとコットンの体に鳥肌が立ち、警戒するように強ばる。
「……断る、と言ったら?」
「この町にいるお前の仲間を、町の人間ごと切り刻む。鳥カゴを使えば簡単だ」
「……は……?」
「できないと思ってるのか? 今ここで、証明してやろうか」
ドフラミンゴが片手を軽く持ち上げる。その瞬間、コットンの目に見えたのは、穏やかに生活していた人々が細切れにされる未来。何の罪も無い人たちが、理不尽に傷つけられ、泣き叫ぶ光景。
スザクが、フレアが、セイラが。リーゼが、ダイナが、タタンが、手足を落とされ、体をバラバラに切断される。その温かく柔らかな体が、赤黒い血に染まる姿。
「やめろ!」
鋭い声が路地裏に響く。ドフラミンゴの腕を掴み、コットンは息を弾ませていた。焦りと恐怖、そして怒りが、黄色い瞳の中で入り混じる。その目をのぞき込みながら、ドフラミンゴはささやいた。
「……なら、どうすればいいか、分かるよな?」
この程度で彼女の気を引けることに、ドフラミンゴは愉快な気持ちが隠せない。ただ同様に、神経をかするような苛立ちもあった。コットンが自分以外を想っていることを、見せつけられているような気分だった。
コットンはうつむき、目を強く閉じる。指先に力が込もる。仲間たちの命と、自分の自由。それを天秤にかけられたら、道は1つしか残されていなかった。
「……君と行く」
全身を細い糸で縛られるような、息苦しさを感じる。蜘蛛の巣にかかった蝶も、こんな気分なのだろうか。身動きが取れず、もがけばもがくほど自由を奪われる。
「だから、仲間にも、誰にも、手を出さないでくれ」
ドフラミンゴを見上げるコットンの目に、覚悟を決めたような光が灯る。ドフラミンゴの手が動く前に、コットンは手に持っていた拳銃を、自分のこめかみに突きつけた。
「かすり傷1つでもつけたら、私はこの頭を撃つ」
例え糸でがんじがらめにされたとしても、彼の手のひらで踊るつもりは無い。こけおどしとは思えないほど、コットンの眼差しは厳しかった。ドフラミンゴが遊び半分で、町の人間に切り傷をつけようものなら、すぐに引き金を引いてしまう。それほど張り詰めた表情だった。
「約束するさ」
節くれだった大きな手が、コットンの手に重ねられる。ゆっくりと腕を下ろさせてから、ドフラミンゴは拳銃を取り上げた。カツンと音を立てて、石畳の上に拳銃が落ちる。
「おれは、お前さえ手に入れば、それでいい」
長い腕で、コットンの細い体を抱きしめながら、ドフラミンゴは呟いた。31年ぶりの抱擁は、息が苦しくなりそうなほど力強い。その声には隠しきれない喜びがあった。ふわりと甘い、バニラが混ざったようなフゼア系の香りに包まれる。
――欲しかったおもちゃを、プレゼントされた子どもみたいだな。
棒立ちでされるがままになりながら、コットンは思う。ドフラミンゴは彼女を抱きしめたまま、糸を操って浮かび上がった。
灰色の雲に覆い尽くされた空を、1人の男が飛んでいく。雨が降らない曇り空を、見上げる者は誰もいない。空中ブランコのように移動する中で、あっという間に町が小さくなっていく。
人形のように抵抗しないまま、コットンは唇を噛み締めて、遠ざかる島を見つめていた。
***
「ただいまー! この島すごいね! 美味しいクレープ屋さんとかオシャレなカフェとか見つけた!」
「めっちゃ好みの雑貨屋さん見つけた。いい買い物したわ〜」
「野菜も果物も新鮮なのばっかり。調味料も新しいの買えてよかったよ」
「うふふ、新しい本買っちゃったわ」
「皆さん、おかえりなさいませ。お買い物を満喫できたようで何よりです」
「あれ? ダイナさんだけですか?」
「コットンさんは、まだ帰ってきていませんね」
「珍しい。質屋の鑑定が長引いてるのかな」
「まあ、遅くなるようだったら連絡あるでしょ。コットンさんだし」
スイーツ巡りをしていたリーゼ。可愛い雑貨をいくつかお迎えしたスザク。それに同行していたタタン。買い出しついでに市場を見てきたフレア。本屋でじっくり過ごし、気になるものを数冊購入してきたセイラ。先に戻ってきたダイナは、帰ってきた5人をお茶と共に迎える。
午後のお茶の時間が過ぎ、フレアが夕飯を作り終えても、コットンは帰ってこなかった。電伝虫にも連絡は無く、6人の間にそわそわした空気が漂い始める。
「え、待って遅くない?」
「夕ご飯の時間までに、コットンさんが帰ってこないのって初めて、ですよね?」
「コットンさんって、夜遊びどころか誰よりも門限守ってるよね?」
「あのコットンさんが何の連絡もしないなんて、何かあったんじゃないかしら……」
試しにスザクが電話をかけてみるが、繋がらない。聞こえるのは電伝虫が鳴く音だけで、電話の向こうにいるはずの相手は出ない。全員が夕飯を食べ、入浴を終えても、電話はかかってこなかった。
***
翌朝。トロイメライ号を出たスザクたちは、町を駆け回っていた。とりあえずリーゼには、船で留守番してもらう。コットンの手がかりを求め、5人はあちこちを探した。
「質屋の人に聞いてみたけど、黒髪に青いサングラスの男性は来てないって言ってた」
「路地裏に、コットンさんの銃が落ちてました……!」
「落ち着いて聞いてください。ドフラミンゴの目撃情報がありました」
「うわすっっごい嫌な予感する!」
タタンからコットンの銃を受け取り、スザクは情報を整理する。見えてきたのは1つの可能性。いつどこに行くか、何時頃に帰るか。それをしっかり連絡するはずのコットンが、未だに音信不通。これはただ事では無い。
それを裏づけるように、セイラが能力を使った。
「『白雪姫』、"魔法の鏡"」
セイラが壁に向かって唱えると、金の額縁に入った楕円形の鏡が現れる。皆が息を詰めてじっと見守る中、セイラは真剣な顔で鏡に告げた。
「鏡や、鏡。壁にかかっている鏡よ。フォレスト冒険団の副船長が、どこにいるのか、教えてちょうだい」
嘘を言わない鏡が、水面のように揺れ、何かを映し出す。そこにはベッドに寝かされているコットンと、その頬を優しく撫でる手があった。被写体からカメラを引くように、全体が映されていく。
そこは船室のようだった。どこか豪華な内装で、コットンが寝かされているベッドはやけに大きい。そこに腰掛けているのは、ピンク色のコートを羽織った、大柄な男だった。
「ヌマンシア・フラミンゴ号。ドンキホーテ海賊団船長、ドフラミンゴの船室。船の行先は、ドレスローザ王国」
鏡が真実を告げる。それを聞いたスザクは、耐えられずに叫んだ。
「うちのコットンさんに何してくれとんじゃああああああ!」
***
コットンが、ドフラミンゴにさらわれた。
『ドレスローザ国王、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。フォレスト海賊団副船長、"鷲の目"コットンとの婚約発表!』
世界経済新聞によって大々的に発表されたニュース。それを見た6人は全員頭を抱えた。
「……『麦わらとローの海賊同盟』のニュースと、『ドフラミンゴ、王下七武海を脱退』のフェイクニュースも出たわけだけど」
「このタイミングだと、上陸する頃にはドレスローザ編に丸被りですね」
「王下七武海の女なんて、共犯扱い待ったなしよね??」
「まさかあいつ、コットンさんを地獄への道連れにするつもりなの!?」
「最悪だ〜〜〜! ドレスローザ編は関わりたくないけど、コットンさんをインペルダウンに行かせるのはもっとダメだ〜〜〜!!」
ドレスローザ編。1日の出来事が2年近くに渡って描かれた、いろいろと濃い話。因縁やら思惑やらが絡み合い、主に1人のキャラクターのせいで「湿度が高い」と話題の話でもある。
関わるつもりは無かった。むしろ関わりたくない。ルフィたちに任せて1日待てば、ドフラミンゴは倒れる。その時コットンを迎えに行けばいい。そう思っていたのだが、考えが甘かった。
「しっかり初恋拗らせおじさんじゃんか!」
「コットンさんも、まさかこうなるとは思ってなかったでしょうね……」
「完全に自然消滅してると思ってたもんね」
「してなきゃおかしいでしょ。10歳で完全に離れ離れになって、えーと……30年だっけ?」
「31年ですね」
「長いですね……!?」
「いなくなった右腕候補のために、13年間ハートの椅子を空けてた男だけどさ……。さすがに31年は無効であれよ」
食堂のテーブルを囲み、全員であれこれ話す。スザクが頭を抱えてうなだれていたとき、目の前に置いていた電伝虫が、「プルプルプル」と鳴き声を上げた。待ち望んでいた、コットンからの通信だ。
「コットンさん! 無事?!」
受話器を引っつかんで耳に当てる。スザクの耳に聞こえてきたのは、アルトに近い中性的な、コットンの声では無かった。
『フォレスト海賊団の船長、スザクだな?』
スザクの顔から、全ての感情が抜け落ちる。受話器越しの男の声に、他の5人の間にもピリッと緊張が走った。
「……そうだけど、何」
『おれはドンキホーテ・ドフラミンゴ。王下七武海の1人であり、ドレスローザの国王だ』
抑えたように、淡々とした声を出すスザクに対して、ドフラミンゴの声は余裕と笑みを含んでいるように聞こえる。まるで本人が目の前に座っているかのような、存在感があった。
『今日はいい取引を持ってきた。話をしようじゃねェか』
「……話?」
『まず、お前らの副船長であるコットンは、おれのもとにいる。コットン自身がそれを望んだ。おれの女が、今まで世話になったな』
「……」
『お前らには謝礼を払う。月に4000万ベリーだ。更に、特別におれの配下の海賊と、同様の扱いをしてやろう』
月に4000万ベリーとなると、1年で4億8000万の大金が手に入る。更に王下七武海という立場から守られ、恩赦を与えられるということだ。
「……確かに、条件は悪くないね」
『だろう?』
「だが断る」
スザクははっきりと告げた。自分に対して有利な条件を出したいけすかない奴に、真正面から「No」を叩きつけた。
「まず、コットンさん自身が望んでそっちにいる点がダウト。コットンさんは、報告・連絡・相談をきちんとする人だよ」
その3点が守られていないということは、コットンは自分の心からの意思で行ったわけではない。コットンが頷かざるを得ないような状況を、ドフラミンゴが作ったのだろう。そうスザクは判断した。何せ彼女とは、11年の付き合いだ。それくらい分かる。
「それに……」
スザクのこめかみに青筋が浮かび、握りしめた右の拳がぶるぶると震えた。
「てめえの汚ぇ金で……! うちの副船長の自由が買えてたまるか! バカ野郎!」
大事な仲間の自由と尊厳に、値段なんてつけられるはずが無い。スザクにとってはどれほどの大金や財宝を積まれようと、端金同然だった。
『フフ……フッフッフ! それなら、交渉は決裂だなァ!』
「別にいいよ。こっちで勝手に取り戻すから」
ガチャンと受話器を叩きつけ、通話を切る。肩で息をしていたスザクは、大きく深呼吸を繰り返してから、仲間の方に顔を向けた。
「ごめん。天夜叉にケンカ売っちゃった」
「気にしなくていいよ。むしろよく言った案件」
「きみは勇気ある人さ」
「アラビアンナイトな世界で繰り広げられる、創世の魔法使いの物語かしら?」
フレアとリーゼが励ます隣で、タタンとダイナがうんうんと頷く。スザクたちのセリフから、セイラは前世で読んだ漫画を思い出していた。
スザクは考えを巡らせて、頭の中でシミュレーションをする。何が最適か叩き出してから、スザクは全員に告げた。
「より早く、より確実にコットンさんを助ける。そのために、彼女の奪還はリーゼとフレアに任せたい。私とダイナさんは、サボがメラメラの実を無事にゲットするか確認するために別行動。何かあったとき動きやすいように、セイラさんとタタンは船で待機!」
「イエッサー!」
「任せて!」
「かしこまりました」
「分かったわ」
「はい!」
目指すは愛と情熱とオモチャの国。囚われの副船長を取り戻す戦いが、幕を上げた。
***
一方その頃。サウザンド・サニー号では、全員が新聞を囲んでいた。
「1つ懸念があるとすれば、フォレスト海賊団だ。なぜドフラミンゴと向こうの副船長が、このタイミングで婚姻関係を結んだかは分からねェ。ただ、ドフラミンゴとの繋がりから利益を得ようとしているなら、あいつらとは敵対することになる」
麦わらの一味と同盟を組んだ、トラファルガー・ローが言う。ドフラミンゴとコットンの、婚約発表の記事。そして、フォレスト海賊団として指名手配された当初の切り抜きが、テーブルに並べられていた。
「フォレスト海賊団の船員を捕まえて、情報を吐かせる必要がある」
「でもあいつら、悪いヤツらには見えなかったな。おれのこと助けてくれたし」
頭の後ろで両手を組みながら、ルフィはローに答えた。思い出すのは頂上戦争のこと。ふわふわした小さい女と、コックみたいな女が助けてくれたことは、ルフィの記憶に残っていた。
「ヨホホホ! 魅力的なお嬢さんばかりですねえ。ぜひともパンツを見せていただきたいです」
「わたあめみたいなヤツがいる! こいつら、どんなヤツらなんだ?」
船員は女性のみ。頂上戦争で白ひげ海賊団の味方になった。フォレスト海賊団について、分かっているのはそれだけだ。ブルックとチョッパーが興味津々な様子で、手配書をのぞき込む。
「元はフォレスト冒険団という名前で、活動していた団体よ。あちこちの島を観光しながら、村を荒らす海賊を倒したり、人攫いを捕まえたりする一面もあったみたい」
ロビンが説明をしながら、切り抜かれた手配書をそっと指先で撫でた。『絵空事の魔女』と書かれたそれには、黒髪の女性の写真が載っている。写真を見つめるロビンの目は、温かな懐かしさと、苦い後悔のような感情が、混ざり合っているように見えた。
「……賞金稼ぎみたいなこともしてたんだな」
サンジもまた、1つの手配書から目を離せずにいた。『百人力』と記されたものに、印刷された写真。そこには海兵を蹴り飛ばす女性が写っている。短い茶髪は見慣れない。しかし、ぴょこんと伸びた白いアホ毛と、いきいきとした青い目は、記憶の中の彼女と変わらなかった。
「そういや船長の……スザクだったか? たまに新聞で、観光や冒険の記事を書いてなかったか?」
ウソップが首を傾げながら、顎に手を当てる。話を聞く限り、悪い集団ではなさそうだが、実際に会ってみないと人となりは分からない。更にあの頂上戦争を生き残ったメンバーだ。一筋縄ではいかないだろう。
ああだこうだと話す麦わらの一味。ローは1人静かに、1枚の手配書を見据える。つけられた異名は『業火』。写真には、燃え盛る炎と1人の女が映っていた。