エピソード・オブ・スザク
「え!? スザクって
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言ってないし聞いてない!」
「説明を求めます」
ふとしたときに、スザクの過去が話題になった。そこで初めて明かされた事実に、リーゼが目を丸くして、すっとんきょうな声を上げる。きょとんとした顔で小首を傾げるスザクに、リーゼとダイナは詰め寄った。
「かくかくしかじかなんだけど……。そんな大したもんじゃないって! 王位継承権なんてほぼ無い第3王子だし。そもそも私とコットンさんが旗揚げして1週間後に革命起きたから、実家そのものが無いし」
「王族である時点で大したものなのよ」
「しかもある意味、亡国の王子様なんかい」
「すごく大したことあるじゃないですか……!」
ひらひらと手を振りながら説明するスザク。それに対し、セイラは困ったような笑みを浮かべ、フレアはあっさり語られた内容を噛み砕きながらツッコミを入れる。タタンも驚きを隠せない様子で、汗を浮かべながら言った。
それを眺めながら、コットンが口を開く。スザクがいつか話すだろうと思って、口を出さないでいたが、今なら話してもいいだろう。そう判断したのだ。
「『大臣数名と、スザク以外の王族が処刑』。更に『絶対王政が廃止された』と新聞に載ったときは、スザクがエネル顔になってたな」
「あの可愛い顔で?」
「この可愛い顔で」
「しかも革命を起こした張本人が、スザクの先生だったらしい。私も何度か話したことがあるが、物静かで理知的な女性だった」
「そりゃエネル顔なるわ」
「衝撃的なことが起こり過ぎてるわね……」
リーゼとセイラの言う通り。旗揚げした頃と言えば、スザクが11歳のときだ。まだ幼い子どもが、仲が良いとは言えなくても、家族と実家を失う。しかもそれを手引きしたのが、家族よりも親しくしていた恩師。そりゃ1ページまるまる使って描かれた驚愕の表情にもなる。
「スザクがノブレス・オブリージュをモットーにしてたのは、そういうことだったんだ」
「うん。『本当の王様』は何か、自分の中で答えを見つけるのが、私の夢なんだ」
「ワンピの王様、名君も暗君もいるから、参考資料には事欠かなそう」
納得した様子で、漫画の内容を思い出すようにしながら、フレアが言う。名君と言えばコブラ王やネプチューン王、そしてリク王。暗君と言えばワポル、黒炭オロチ、フレバンスの国王等だろうか。スザクに限って後者は無いだろうな、と6人は思った。
自分が持つ知識や技術を仲間に教え、鍛えてくれた存在。それなのに戦いでは、自分から真っ先に飛び出していく。台風の目のように皆を巻き込んで救い上げ、太陽や一番星のような光で照らし、南十字星のように道しるべになってくれる船長。それが6人にとってのスザクだった。
――もし、あなたに出会わなければ。
コットンは思う。
「今の自分を愛して生きようなんて、思わなかった」
フレアは思う。
「世界は想像してるより、広くて楽しいって、気づかなかった」
セイラは思う。
「この海で誰かと、心の中を打ち明けられる嬉しさを、知らなかった」
リーゼは思う。
「自分が自由に生きる権利を、守れなかった」
ダイナは思う。
「夢を追う勇気と高揚を、忘れたままだった」
タタンは思う。
「誰かのために自分が強くなれるなんて、思いもしなかった」
自分たちを見つけ出してくれた、誰よりも優しくて芯の強いリーダー。皆のために動いてくれる、大切な船長。そんな彼女を守れるように、彼女の信頼に応えるために。自分たちも強くあろうと、6人には密かに決意する。
1人は皆のために。皆は1人のために。