島だ、冒険だ、観光だ!


東の海イーストブルー、ドーン島。ゴア王国の中央部からは忘れ去られている僻地に、とある平和な港村がある。

「来ましたフーシャ村!」
「はじまりの村だー!」
「聖地巡礼のときのお約束よ。景観を荒らさない。お店の営業妨害をしない。騒がない」

船から降りたスザクとリーゼが、両方の拳を天に突き上げ、はしゃいだ声を上げる。それをセイラが柔らかな口調でたしなめた。タタンはわくわくしたように、辺りを見回している。

「ほんとに風車がいっぱいですね……!」
「食糧調達はここを出る頃にするとして、まずはどこに向かいましょうか?」
「酒場行きたい! マキノさんに会いたい!」
「それはお昼頃の予定でしょ。私、牧場行きたい!」

ダイナの質問に、リーゼとフレアが手を挙げて答える。7人は気になるお店をのんびり覗きながら、まず牧場に向かうことにした。

「わ〜漫画で見た通りだ! 牛乳、チーズ、バター、ヨーグルト。生クリームにクロテッドクリーム……。夢が広がるな〜」

フレアは柵に手をかけて、牧草を食む牛たちをキラキラした目で見つめている。その隣ではコットンも、癒されているような目で牛たちを眺めていた。

「牛さん可愛いですね」
「そうだな」

タタンが声をかけると、コットンは優しく目を細めて答える。横に並んだリーゼは、持ってきたスケッチブックにせっせと鉛筆を走らせていた。

「あっちでソフトクリーム売ってた」
「あっ、スザクずるい」
「船長〜おごってくれたりしませんか〜?」
「お小遣い渡してるだろ。自分で買ってきなさい」

スザクはバニラ味のソフトクリームをぱくりと口にしながら、甘えるようにしなだれかかるリーゼの頭に、軽く手刀を振り下ろす。フレアは指さされた方向に小走りで向かい、セイラたちはそれをほっこりした気持ちで見送った。

「見てくださいスザクさん、たんぽぽの花が咲いてます」
「ヤダかわいい」
「スザクって乙女よね。見た目は乙女ゲームの俺様系攻略対象なのに」
「レ〇ナ・キングスカラーみたいな声で、杉〇佐一みたいなこと言わないでよ。腹筋に効く」

***

いかりのマークが描かれた壁に、『PARTYS BAR』と記された看板。1軒の酒場の前で、7人はどきどきしながら、その看板を見上げていた。

「漫画の1話で見たとこだ……」
「FILM REDで見たままです……」
「服装だらしなくないですか?」
「ねえ私の前髪とか変じゃない?」
「大丈夫だ。可愛いぞ」

スザクとタタンが感動したように、店の外観に見とれる。フレアとリーゼは心配そうに身だしなみを整え、それをコットンが確認していた。背中を押すような眼差しで断言され、2人は安心と照れが混ざったように頬を染める。

「フレアは、マキノさんも推しだったのですか?」
「推しとはまた別で好き。優しいお姉さんなの好感度高いし、何よりエースに礼儀を教えてくださった方ですよ。失礼が無いようにしないと」
「推しの親御さんに会いに行くような心境なのね」

ダイナに尋ねられ、フレアは真剣な顔で主張する。セイラが微笑ましそうに見守る中、スザクは深呼吸してからドアを開けた。いつまでも店の前に突っ立っているのはよくない。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」

スカーフからのぞく、緑がかった黒髪がさらりと揺れ、快活な笑顔の女性がカウンターから出てくる。清廉な雰囲気をまとうこの女性は、店主のマキノ。主人公であるルフィの、姉代わりのような存在だ。

「はわ……本物だ……」
「華奢な美人さんだ……」

4人と3人に別れて丸テーブルにつく。フレアとリーゼは両手を口元に当てて、感動を何とか抑えようとしていた。メニューを開けば美味しそうな料理名が並んでおり、迷いながら選ぶ。

「ルフィが食べてたの、このステーキっぽい」
「シャンクスが食べてたのこれかな。ご飯系だったよね」
「久しぶりにお酒飲もうかな」
「注文お願いします」

チャーハンに、食べやすい大きさのフライドチキン。シーザーサラダや玉子焼き。ハムとサラミの盛り合わせがテーブルに並ぶ。果実酒やジュースが注がれたグラスをかちんと合わせ、7人は飲み物や料理を口にした。

「美味しいです!」
「おいし〜!」
「リーゼが涙目だ」
「すみません、これのレシピって教えてもらえませんか?」
「料理好きのフレアが積極的だ」
「ふふっ。いいですよ」

楽しそうに、幸せそうに食べる7人を見て、マキノはふんわり微笑む。作り手として、こんなに喜んでもらえるのは嬉しかった。

「皆さんは、旅の人ですか?」
「はい。『フォレスト冒険団』という名前で、あちこちを巡っています」
「そうなんですね。海賊の方は来たことあるんですけど、冒険する方が来てくれたのは初めてです」

朗らかに語るマキノを見て、コットンはハムをつまみながら、少し眩しそうに微笑む。リーゼは会話する2人を眺めながら、ぱらぱらのチャーハンを頬張っていた。マキノさんの笑顔でご飯が進む、と言うように。


「ごちそうさまでした!」

残さず食べ終わり、しっかり代金を払って店を後にする。風に吹かれてのどかな村を歩きながら、それぞれ満たされたお腹を軽くさすった。景色に目を向ければ、いくつもある風車がゆっくりと回っている。

「マキノさんの手料理、マジでおいしかった……。しあわせ……」
「チキン、外がカリッとしてて、中は柔らかくて、噛むとあったかい肉汁がじゅわっと出て、スパイスがきいてて美味しかったです……!」
「タタン、食レポ上手いな」
「お腹すいてきた」
「スザクの燃費が悪すぎないかしら?」
「レシピ教えてもらったから、頑張って再現するね」
「楽しみにしています」

「この後どこ行く?」
「できればコルボ山行きたい。盃兄弟のツリーハウスとエースの国が見たい」
「今世では初めましての、山賊の根城はだめだろ。死ぬぞ」
「さすがに人様の土地は入れないものね」
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