冒険団メンバーの過去編



本が好き。物語が好き。いろんな世界を、いろんな時代を、自由に冒険することができるから。
遠い昔に生きていた誰かが、空想して書き留めてくれたものを、受け取ることができるから。

西の海ウエストブルーにある島――オハラで、私は産まれた。そこには全知の樹と呼ばれる巨大な木があって、世界中から運び込まれた本が集まっていた。物心ついたときにはもう、オハラ図書館は私にとって、身近な場所だった。

「あら、セイラ。今日もよく読むわね」
「また頭が痛くならないようにな」
「はーい!」

遠い海の向こうで生まれた、海の上を歩けるヒーローの絵物語。嘘をつき続けた冒険家の民話。赤い壁の上に住む、発火する種族の昔話。人を笑顔にする、解放の戦士の神話。気になる本を手当り次第に積んで、読みふける毎日。詰め込んだ情報量に、幼い脳が耐えきれず、頭痛で転げ回ることもよくあった。

「大きくなったら、ここで働きたいな」

大好きな本に囲まれて、本の整理や手入れをして、本を未来に繋いでいく。それはずっと、ずっと昔から、願っていたことのように思えた。図書館には研究所としての役割もあって、優しい考古学者の人たちが集まっていたから、余計にそう思ったのかもしれない。


そんな私には、小さな友達がいた。

「もう大丈夫。綺麗になったよ」
「ごめんね、セイラさん。ハンカチ汚しちゃった」
「平気よ。洗えば落ちるもの」

濡らしたハンカチで、ロビンの髪を拭いてから、さらさらの頭を撫でる。今日は実をぶつけられたらしく、艶のある黒髪が果汁で汚れていた。こんなに可愛い子をいじめるなんて、ひどいことする子がいるものだ。

ロビンは私より8つ歳下だけど、考古学の知識がとても豊富な女の子だ。私の知識は物語や小説がメインだから、考古学は彼女から教えてもらうこともある。

申し訳なさそうに俯いている彼女を、元気づけたくて、私は"魔法"を使うことにした。

「ロビン、見てごらん」
「?」

前に読んだ童話を思い浮かべると、私の手のひらにマッチ箱が現れる。不思議そうにきょとんとするロビンに向けて、箱から取り出したマッチをシュッと擦ると、小さな火が灯る。

「わぁ……!」

現れたのは、きらきら光る星々の幻影だ。ロビンの周りを踊るように、くるくると舞い、ロビンの目にもきらめきが灯る。

小さい頃、好奇心のままに食べた悪魔の実。"トショトショの実"と呼ばれるそれは、物語に登場する道具や力、生き物等を実現する力があった。全然美味しくなかったけど、誰かの空想が現実になるのは、とても楽しい。

火と共に幻影は消えてしまうけど、ロビンの表情には明るさが戻っていた。

「セイラさんの魔法、すごく綺麗」
「ふふ、ありがとう」
「……私も、セイラさんみたいな魔法が使えたらよかったな」

寂しそうに微笑むロビンの隣に、腰を下ろす。ロビンも悪魔の実の能力者で、体の一部を花のように咲かせる力を持っていた。確かに最初はびっくりするけど、本をたくさん運んだりできる便利な能力だ。

「私みたいな魔法って、どんなもの?」
「誰かを元気にしたり、笑顔にしたりできるもの」
「それなら、ロビンはもう使ってるよ」
「え?」

カバンに入れていた薬草図鑑を取り出し、ページをめくる。小さなマーガレットのような花の写真が載ったページで、私は手を止めた。

「ねぇ、ロビン。カモミールは知ってる?」
「う、うん。胃腸の調子を整えたり、冷え性や安眠に効く薬草だよね」
「そう。その他にもカモミールには、隣に植えてある植物を、元気にする力があるの」

植物のお医者さんと言われるカモミールは、野菜のコンパニオンプランツとしても知られている。ぱちぱちと瞬きをする彼女に、私は微笑みかけた。

「私はロビンが隣にいてくれるだけで、元気をもらってるよ。賢くて優しい、私の自慢のお友達。私のカモミール」

そう伝えると、ロビンの頬がぽっとバラ色に染まった。照れたように、腕に顔を埋める彼女が可愛らしくて、私はほんわり笑う。そのときロビンの方から、キュルキュルと小さな音が聞こえた。

「もしかして、お腹すいてる?」
「……ご、ごめんなさい」
「ちょうどよかった。一緒に食べようと思って、持ってきたお菓子があるの」

カバンから包みを取り出して開くと、ショウガとシナモンの香りがほのかに漂った。星やハートや人の形をしたそれは、手作りのジンジャークッキーだ。

「読んだ物語に出てきて、食べたくなっちゃった。半分こしましょう?」
「……うん! ありがとう、セイラさん。いただきます」

ロビンは少しだけ、言葉を詰まらせたように見えたけど、柔らかく表情がほころんだ。嬉しそうな笑顔に心が和む。甘くて少しぴりっとしたクッキーを食べながら、お気に入りの本の話をする時間は、とても穏やかに流れていった。

***

15歳のときに、司書として働き始めてから1年後。燃える全知の樹の中を、私は走っていた。何冊もの本を、胸にしっかり抱きしめて。

「セイラも逃げなさい! 学者ではないお前なら、助けてもらえるはずだ!」
「嫌です! 私はこの図書館の司書です! 私にも本を守らせてください!」

中には考古学者の人たちが、まだたくさん残っていた。優しいその人たちを、大切な本たちを置いて、避難船に乗るなんてできなかった。今ならそれが、正しい判断だったと分かる。

煙をなるべく吸い込まないように、ハンカチをマスクのようにして口を覆う。広がる炎の熱で汗が流れる。あちこち駆け回って本を運ぶうちに、息が荒くなる。

「文献を図書館の外へ!」
「1冊でも多くの本を! 一節でも多くの文章を残せ!」

ゴウゴウと音が唸る。やめて、お願い、燃やさないで。奪わないで。消さないで。煙が目にしみたせいか、涙が止まらない。泣いたって火は消えてくれないのに。

数千年かけて残されてきた、人々の言葉が、知識が、記録が、あっけなく壊されていく。咳き込みながら、私は必死で本をかき集めた。悪魔の実の能力を使う余裕も、効果的な能力を思いつく力も、何も無かった。ただ目の前にある本を、焼失させないようにすることしか、できなかった。

「……やめて、……いや、嫌だ……!」

バキバキと音を立てて、全知の樹が倒れていく。炎に囲まれ、煙に包まれて、方向感覚が無くなっていく。煙を吸ったせいか、意識が薄れた。その後のことはよく覚えていない。



「《男らしくふるまいましょう、リドリー主教。きょうこの日、神のみ恵みによってこの英国に聖なるロウソクを灯すのです。二度と火の消えることのないロウソクを》」

老女のような、誰かの声を聞いた気がした。この言葉は、どこで聞いただろう。初めて聞くはずの名前や、国らしい名詞が、なぜかひどく懐かしい。

ああ、思い出した。レイ・ブラッドベリのSF小説『華氏451度』に出てくる台詞だ。本は燃やされ、本を所有していれば逮捕されるディストピアを描いた小説。本と共に、自ら焼け死ぬことを選んだ老女が、作中で引用していた台詞。何だか、今の状況に似ている。

そこで目が覚める。まだ目を閉じているのかと思うくらい、真っ暗な空間だった。手を伸ばすと、つるりとした固いものに指がぶつかる。狭くて細長い箱の中に、入れられている気分だ。

ガラガラと何かが崩れる音がして、光が差し込んでくる。眩しさに目を閉じてから、ゆっくり開けると、自分の体がガラスの棺に入っていることが分かった。蓋を持ち上げて体を起こすと、周りには赤レンガの破片が転がっている。

外敵から身を守る効果がある、『三匹の子ぶた』のレンガ壁。そして、中に入ったものの状態を保存する『白雪姫』のガラスの棺が、守ってくれたらしい。無意識に能力を使っていたのだろうか。

何気なく辺りを見回して、私は凍りついた。

「…………あ、あぁ……」

そこは一面、真っ黒な炭の塊だった。

クローバー博士。オルビアさん。考古学者の人たち。本。図書館。全知の樹。オハラ。バスターコール。ロビン。――『ONE PIECE』。

「あ゛あああああああぁぁぁ……!!」

頭の中に、たくさんの情報が流れ込んでくる。髪をかきむしりながら、私は叫ぶ。滝つぼに放り込まれたような衝撃と痛みが、脳内を襲った。痛い。苦しい。何で私だけ。生き残るくらいなら、もっと助けられた人たちが、いたはずなのに。

のたうち回りながら、どれくらい経っただろう。ようやく感情が静まり始め、私はよろよろと身体を起こした。あふれる涙を何度も拭い、鼻をすする。まだ私の命が残ってるなら、転がったままではいられない。

「……『天狗の隠れみの』」

海軍やサイファーポールに見つからないように、姿を隠す道具を身につける。それから親指を床に押し付け、そっと唱えた。

「『みどりのゆび』」

柔らかな双葉が、ぽつりと芽吹く。そこから淡い緑が広がり、可憐な花々がつぼみを開いた。真っ黒だった周囲が、色とりどりの花畑に覆い尽くされていく。優しい香りが辺りを包む。

生きたまま焼かれるのは、辛かっただろう。熱くて苦しかっただろう。せめて綺麗な花の中で、安らかに眠れますように。

遺体を踏まないように、図書館だった場所を出る。海兵はいない。まだ来ていないか、もう現場確認を終えて去ったか、どちらだろう。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。

「……探しに行かなきゃ」

まだ生きているあの子を。たった独りで海に出ることになったあの子を。8歳なのに、理不尽な理由で指名手配されているあの子を。

いずれルフィたちに救われる運命でも、その間、彼女が苦しめられなければならない理由は無いはずだ。世界から向けられる悪意から、幼い彼女を守ることに、何の罪がある。あるなんて言わせない。

「『ピーター・パン』、"妖精の粉"」

金色に光る粉が、私の頭上から降り注ぐ。飛べると信じて地面を蹴れば、ふわりと身体が浮いた。そのまま真っ直ぐ向かうのは、溶け残った氷の道が示す先。

「……私、あなたのカモミールに、なれるかな」

以前ロビンに伝えた言葉を、ロビンと過ごした温かな時間を思い出す。ロビンのお母さんにはなれないけど、お姉さんみたいな存在にはなれる。ロビンが元気に過ごせるように、隣にいたい。その思いを胸に、私は海の上を飛んでいった。

***

――来ないで!
――あなたなんか、知らない。
――私に触らないで……!

「……ぅ……」

バチッと目が覚める。夢か現実か分からなくて、力が入らない身体を無理やり動かすと、ジャラリと鎖の音がした。さっきまでのは夢か。

あれから能力を駆使して、ロビンを見つけたはいいものの。呆然とした顔で私の名前を呼んだ後、強ばった顔で拒絶されてしまった。伸ばした手もパチンと叩かれ、更にロビンの涙を見たせいで、足が動かなかった。

私の中で、そのときのことがよほどショックだったのだろう。無理やりにでも彼女の手を掴んで、側にいればよかったのかな。でも嫌がるロビンに無理強いはできなかった。もっと早く、側で守ればよかった。たらればなんて意味ないのに。

それで、どうしてこうなってるんだっけ。

そうだ。ロビンを助けられないなら、せめて優しいことのために力を使いたくて、あちこち旅してたんだ。感謝されたり気味悪がられたり、追加の要求をされたり、色々な反応を見たな。

16歳のときにロビンと離れてから、6年経つ。22歳になった現在、旅の途中に襲われて、不意をつかれて海楼石の鎖を巻き付けられたんだっけ。「売ったら大金になる」って言われたし、シャボンディ諸島とかでオークションに出されるのかな。やだなぁ。ここで終わりかあ。何だったんだろうね私の人生。

じめっとした場所にいるからか、思考も湿気を帯びてくる。ロビンに嫌われたまま、永遠に別れるのは辛いな。ロビンは優しいから、果てしない逃亡生活に私を巻き込まないように、遠ざけたのかもしれない。いや、私がロビンを重荷に思って、捨てる人間だと思われてた可能性もある。辛い。

「……ハハッ」

乾いた笑いが口から零れる。泣けばいいのか笑えばいいのか分からない。大好きな人々と就職先は海軍に焼き討ちにされ、大切な友達は守れず、他人ばかり助けて、今は鎖に繋がれて囚われの身。バカみたいだ。

「あーあ、何でこんな世界に転生しちゃったかなぁ」

もっと平和な世界がよかった。前世と同じような、現代日本が舞台の世界とかさ。何でよりによって、こんな修羅の世界に産まれちゃったんだか。

「どうせ死ぬなら、最後にニューゲートさんのお姿を拝見したかったなあ」

前世の最推しを思い出すと、じんわり涙が浮かんでくる。ナワバリの国や島を、無償の善意で守るところ。家族を、息子たちを大切に思い、深い愛情で包み込むところ。大きな身体と広い心でもたらされる、圧倒的な包容力。意外とケチなところも人間らしくて好きだし、そもそもお金が無いのは自分の取り分を故郷に寄付してるからだし。

長命種族になって、ニューゲートさんの揺りかごから見守り、墓場まで連れ添いたかったな。4番隊辺りに所属して、「娘」と呼ばれるのもアリ。ニューゲートさんに「家族」と呼ばれたら、私の中では一生の誉れです。

前世で見た素晴らしい夢小説や夢絵を思い出して、心を慰めていたとき。激しい揺れが船を襲った。

「……なに……?」

海楼石の鎖のせいで、どうすることもできない。諦めて目を閉じ、前世で見た夢漫画の内容を思い出すことに集中する。そうしているうちに、上で微かにざわめきが聞こえ、やがて複数人の足音が近づいてきた。今いい夢見てるから邪魔しないでほしい。

私を捕らえた船長が、切羽詰まったようにぺらぺらと、誰かに話す声がした。

「あれは便利な力を使う魔女です! 病気を治すことも雨を降らせることも、財宝を出すことも息をするようにやってのける! こいつ1人あれば、この先の旅は安泰だ! あれを差し上げますから、どうか命だけは……!」

「黙れ」

人体が叩きつけられるような、重い音が聞こえた後、船長の声が聞こえなくなる。チャリ、と金属が擦れる音がして、そっと手首を持ち上げられた。薄らまぶたを開けて見ていると、手首の枷に鍵が差し込まれる。海楼石から解放され、身体に力が戻ってくる。

「意識はあるか?」

私を抱き起こしたのは、女形のような装いをした、美しい男性だった。ほつれなく結い上げられた黒髪と、抜けるような肌の白さのコントラストが目に刺さる。ほんのり乗せられた紅が、彼の唇を彩っていた。

「……天国からのお迎えでしょうか?」
「むしろ真逆の存在だな」

夢の続きを見てるのかしら。白ひげ海賊団の16番隊隊長、イゾウさんにとってもよく似た美人さんだ。微笑みながらそう問いかけると、大丈夫かと言いたげな目で見つめられた。そのままふわりと抱き上げられ、身体が宙に浮いたまま移動する。

素敵な夢だな。お姫様抱っこしてるのが、ニューゲートさんだったらなお良かったけど、贅沢は言わない。そんな状況になったら天に召されてしまうし。ふわふわと雲の上にいるような心地で、私は目を閉じた。

***

目が覚めても、夢は終わっていなかった。

「気がついたか。気分はどうだ?」
「ここは天国ですか」
「むしろ真逆の場所だよい」

背中にはまっさらなシーツと、柔らかな布団の感触。気さくそうな表情で見下ろしてくるのは、パイナップルの葉を思わせる金髪の男性。鍛えられた胸板には、三日月と十字架を組み合わせたようなマークが刻まれている。

顔立ちは原作よりも若いけど、この人、不死鳥マルコだ……! 白ひげ海賊団の1番隊隊長で船医さん! ニューゲートさんの右腕とも見なされてる、前世のフォロワーさんの最推し! 本物だ〜声が良い〜〜!

「ここは白ひげ海賊団の船、モビー・ディック号の中だよい。おれはマルコ。一応、船医だ。お前のことは、人攫い屋の船から保護したんだよい。覚えてるか?」
「は、はい。和装の美人さんに助けていただきました」
「そいつは16番隊隊長のイゾウだよい。後で礼を言っとくといい」
「はい……! あの、介抱までしていただき、ありがとうございます……!」

ベッドから上半身を起こし、深々と頭を下げる。顔を上げると、どこか驚いたように瞬きをしているマルコさんがいた。

「あの、何か?」
「あ、いや……。そう丁寧に礼を言われるのは久しぶりでな。お前、海賊の船にいるってのに、怖くねェのか?」
「命を助けてくださった人たちなので、怖くありません」
「いい人のフリをして、お前を好きなように扱うかもしれねェぞ」
「それなら、海楼石の手錠を嵌めたりするはずです」

拘束されていない腕を開き、私は彼の目を見つめた。マルコさんは私の目を見つめ返し、ふっと楽しそうに笑う。柔らかい笑みに、思わずきゅんとした。この表情、前世のフォロワーさんに見せたら、喜びの舞をしそう。

「驚いたよい。箱入りのお嬢さんに見えたが、意外と肝が据わってるんだな」
「これでも6年、一人旅をしてきた身ですので」
「そうかい。お前、名前は?」
「セイラといいます。よろしくお願いします」


その後、イゾウさんに改めてお礼を言った私は、イゾウさんのもとで詳しい事情を話すことになった。

「話せる範囲で構わないからな。人攫い屋に捕まったきっかけは分かるか?」
「はい。恐らく、私の能力が目的だと思います。私は悪魔の実の能力者なので」
「そういや、魔女とか言われてたな。何の実を食ったんだ?」
「トショトショの実です。超人パラミシア系で、物語に出てくる道具や力等を実現できます」
「ハズレ扱いになってる実だが、使いこなせるやつがいたのか」

向かい合わせに座ったイゾウさんが、目を丸くする。確かに、物語の内容を知っていないと使いこなせない実だ。教養が無い人が食べても、ただのカナヅチになってしまうだろう。

「あんたの故郷はどこなんだ?」
「……もう、ありません。滅ぼされました」
「……そうか」

スカートの裾をぎゅっと掴み、うつむく。オハラのことは、言わない方がいいだろうな。炎の熱さや煙の息苦しさ等を思い出しそうになり、私はかぶりを振った。そのとき、少し気まずい沈黙を破るように、ドアが開く。

「かわい子ちゃんが来たと聞いて!」
「サッチ。後にしてくれ」
「わぁ……!」

入ってきたのは、詰襟の白い服を着た男の人だ。首には黄色いスカーフを巻いていて、少し長めの茶髪を1つ結びにしている。すごい! まだボリュームあるポンパドールにしてない時期のサッチさんだ! とってもレアだ〜!

「かわいいレディ、おやつをどうぞ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」

テーブルに置かれたお盆には、ドライフルーツが混ぜ込まれたケーキが乗っていた。カップの中では、透明感のあるオレンジ色の紅茶が、薄く湯気を立てている。子どもの頃、ロビンと手作りのおやつを食べたことを思い出して、切なさで胸が詰まった。
6/10ページ
スキ