古本屋店主のゆったりライフ
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雪のように白い壁に、淡い青緑色の屋根。クリスタルガラスのドアノブを回して入ると、木製のベルの音が来客を告げる。微かに漂うのは、バニラのように甘い、古い紙とインクの匂い。壁に取り付けられた本棚には、色あせた背表紙の本がぎっしり詰め込まれている。
床や本棚、ガラス扉がついたキャビネット、店主が使う机と椅子。振り子がついたホールクロック。客用に置かれた、ふかふかのクッションが置かれた長椅子。使われている家具は、どれも使い込まれた飴色に輝いている。キャビネットの中には、宝石になる前の原石やヴィンテージのブローチ、オルゴールにドールハウス等がきちんと並んでいた。
ある程度の年月を重ねてきたものたちが、ひっそりと息をしているような、不思議な場所。今日もその古本屋で、お客様の訪れを待つように、オレンジ色のランプがぽつりと灯る。
***
ハミングをしながら、てきぱきと、腕に抱えた本を本棚にしまっていく。そのとき木製のドアベルが、からんころんと柔らかな音を立てた。
「……邪魔するぞ、古本屋」
「あ、お兄さん。 いらっしゃいませ!」
入り口をくぐるように入ってきたのは、黒いロングコートを来た、背の高いお兄さんだ。島の外の人らしいけど、ちょくちょくお店に来てくれるから、常連さんのような顔なじみになりつつある。
いつも被っているのは、黒い斑点のついた、ふかふかの白い帽子。それを見る度に連想するのは、動物図鑑で見たユキヒョウやゴマフアザラシ。今日はワノ国の食文化に関する本で見た、"マメダイフク"というお菓子を思い出した。
「新しく仕入れた本がありますよ〜。ぜひ見ていってくださいね」
「……あァ」
言葉数が少なくてぶっきらぼうに見えるけど、怖くはない。何せこの人、『海の戦士ソラ』のサイン入り初版本と愛蔵版を、うきうきそわそわした様子で買っていったことがある。いつも医学書を1冊か2冊買うイメージだったから、そのギャップが可愛らしく見えた。
本を棚に並べ終え、キャビネットに置いてある小物の手入れをする。そのときお兄さんが本棚の前で立ち止まり、1冊の本を手に取っていた。
「お目が高いですねぇ。その本、今は絶版になっちゃってる貴重な名著ですよ」
少しお兄さんに歩み寄って、横から声をかける。お兄さんは瞬きをしてから、私に気づいたように顔を向けた。どこかを漂っていた意識が、彼の中に引き戻されたような、そんな反応だった。
「噂だと焚書にもされちゃったみたいなんですけど。綺麗な状態の全巻セットをお迎えできて、すごく幸運でした。医学に詳しくない私でも読みやすい逸品です!」
初めてこの本を仕入れたとき、あまりに嬉しくて抱きしめてしまった。そのときの気持ちを顔と声に乗せて伝えると、お兄さんは少しだけ切れ長の目を丸くして、ふっと目を細める。
「……知ってる」
その一言だけ呟いて、お兄さんは棚に置かれた医学書全巻を、ごっそり引き抜いた。
「会計を頼む」
「はい!」
チョコレート色の木目が美しいレジスターの、ボタンをカチカチと押して、会計をする。お金を受け取って、丁寧に包んだ本を渡すと、お兄さんは大切な宝物のように抱えてくれた。
「ありがとうございましたー!」
少し上体をかがめて出ていく背中に、声をかける。机に頬杖をついてお兄さんを見送りながら、私はにこにこと頬を緩めた。
「大事にしてもらえるといいなぁ。Dr.トラファルガーの医学書全集」
長く人の手に渡って、大切にされてきた古い物には、ロマンと魅力がある。ここにあるのは全部、誰かのもとを転々として、誰かに読まれてきた本だ。ひとつひとつに物語があって、それらがまた新しく誰かの手に渡る。そんな風に古い本と人を繋ぐのは、私にとって天職だった。
趣味が高じて始めたお店だけど、やってよかったな。そう思いながら、私は机に置いていたティーポットを持ち、カップにミルクティーを注いだ。ワイルドストロベリーが描かれたこのティーセットは、私のお気に入り。柔らかいクッションが乗った椅子に腰かけ、お茶を飲む。
まろやかでほんのり甘い、アッサムのミルクティーが、じんわりと体に染みていく。外は冷えるけど、お店の中は薪ストーブのおかげで温かい。
おやつも出しちゃお。机の後ろにある戸棚から、私はお皿とお菓子の箱を出す。取り出したのはカヌレだ。歯を立てると、表面がカリッと香ばしい。中のカスタード生地はもっちりねっちりとしていて、ラム酒が香る優しい甘みが口の中に広がる。ほろ苦さと甘さのバランスがちょうどいい。
「ふぁ〜〜……」
幸せが吐息になって、お店の空気に溶けていく。アンティークやヴィンテージの、家具と雑貨。そして古書と鉱物を詰め込んだ、私の宝箱でありお城でもある場所。それが古本屋『こもれび』だ。