推定ザシキワラシへの餌付け事情
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ザシキワラシ(推定)の小さな男の子が、17歳くらいの青年になってまた来た。10年くらいの時間が経つと、こんなに背が伸びてガタイもよくなるのか。成長期ってすごいなー。
「アレ食わせろ。鳥と卵使ったやつ」
「親子丼のこと? いいけど……。その前にお風呂入ってほしい。念のため」
「潔癖過ぎだろ」
「初対面の不衛生さを思い出せ」
背中を押すと、彼は仕方ねェなと言いたげに、舌打ちを1つして歩き出す。記憶を探るような手つきでドアを開け、中をのぞいていた。そこは浴室で合ってるよ。
「どれがどれか、覚えてる?」
「覚えてるわけねェだろ。あん時は犬みてェにもみくちゃにしやがって」
「ピンクはシャンプー。緑はボディソープ。黄色はリンスね」
ボトルを指さして教えると、キッドがじっと見下ろしてくる。何だ何か不満でもあるのか。私の最近のシャンプーは、しっとり保湿効果があるやつだぞ。ちなみに、ほんのり甘いあんずと桜の香りがする。
「また一緒に入るか?」
「は?」
「昔みてェに、洗わせてやってもいいぜ? オネーサン」
「1人で入りなマセガキ」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべる彼を、思わず両手で押した。突き飛ばしたつもりだったが、彼は全然よろけなかった。腹立つ。私を横目で見て、鼻で笑いながら、彼は浴室のドアを閉める。
あんなからかい方が、できるようになったなんて。一体どれだけの女性を弄んできたんだ。ケダモノめ。悶々とした気持ちをぶつけるように、玉ねぎをざくざくと切る。食材を煮ている間、キッドがお風呂から出てきた。改めて見ると、ごつい鎖のネックレスに、胸元がガバッと開いた黒いシャツ、柄がうるさいズボンとインパクトが強い。
「まだできないから、テレビでも見てて」
「おう」
そう言われたけど、斜め後ろから視線を感じる。ボウルに卵を割り入れて、白身を切るように溶きほぐしながら、私はちらりと振り向いた。
「……あのー。見られてると、ちょっとやりづらいんだけど」
「おれがどこにいようが、おれの勝手だろ」
「へい、ご自由にどうぞ」
ピンク色だった鶏肉が白くなってるから、もういいかな。蓋を開けて玉子を流し入れ、火が通るのを待つ。くつくつ煮えている料理を、キッドは横から眺めていた。
「何でそれ、オヤコ丼って言うんだよ」
「鶏が親で、卵が子だから、親子丼って言うらしいよ」
「えげつねェな」
「あはは」
素直な感想に笑い声がこぼれる。どれくらい食べるか分からないので、ラーメンを食べるときに使うどんぶりを渡して、キッドに盛ってもらった。強面の青年がしゃもじ持ってるの、ちょっと面白いな。
「ごめん、具がこぼれるからその辺で」
「てめェが盛れって言ったんだろうが」
「限度があるでしょ」
「チッ、仕方ねェな」
みっちり盛られたご飯に、恐る恐る具を乗せる。何とか器の中におさまって、ほっと安心した。いい匂いがふわりと鼻をくすぐる。
「はい、召し上がれ」
「いただくぜ」
スプーンを持って、キッドはもぐもぐと食べ始める。初めて来たときみたいに、一心不乱にがっつくことはなかったけど、親子丼がみるみるうちに減っていった。相変わらずいい食べっぷりだ。大きな1口でばくばく食べていくから、見てて気持ちがいい。
「おかわり」
「はいよー」
むぐむぐ頬をふくらませながら、どんぶりを差し出される。成長期だからたくさん食べるかも、と思って、多めに用意しといてよかった。炊飯器の中もフライパンの中も、綺麗に空になっていった。
「キラーが作るメシとは違ェが、お前の作るメシも美味ェな」
「キラー?」
「おれの相棒だ」
話を聞くと、彼はキッドの幼なじみで、海賊仲間でもあるらしい。妖怪の世界にも、仲間意識とか海賊とかあるんだな。物騒だなと思いながらも、自分が知らないことについて、話を聞くのは興味が湧いた。
それ以来、キッドはときどき私の部屋に現れるようになった。部屋にいられるのは1日だけで、翌朝……というか、私が目覚めたときにはいなくなっている。1週間後、翌日、1ヶ月後と、来るタイミングがバラバラで予測できない。
「ザシキワラシ? 何だそりゃ」
「私の地元に伝わる妖怪。キッドもそうかなって思ってたんだけど、……もしかして違うの?」
「誰が妖怪だてめェこの野郎。おれは人間だ」
「キッドって、好きな食べ物あるの?」
「ロールキャベツ」
「意外。ステーキとかガッツリ系のイメージだった」
「それも悪くねェが、やっぱりロールキャベツだな」
「ここの技術はかなり高度だな」
「キッドのところには、テレビとか無いの?」
「ニュースは基本的に、新聞で見ることが多い。映像電伝虫で配信はできるが、そもそも映像電伝虫が無きゃ配信が見られねェ」
「え、でんでん虫って……かたつむり!? そっちの方がすごくない?!」
私が作ったごはんを食べて、話をする。そんなのんびりした時間を過ごすうちに、彼のことや彼がいる世界のことが、少しずつ分かっていく。
「次に来るのは、いつになるかな」
カレンダーに印をつけながら呟く。大学から帰って部屋のドアを開けたとき、赤い髪の彼が「よォ」と声をかけてくる。ここは君の部屋かと聞きたくなるくらい、堂々とくつろいでいる。何でだろう。最初は驚いたり呆れたりしてたのに、今はその姿を見るのが楽しみな気がした。