麦わらの一味の鑑定士
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次の島にたどり着くまで、1ヶ月。その間、私はルフィさんたちの船でお世話になることになった。
船長のルフィさん。船医のチョッパーさん。コックのサンジさん。航海士のナミさんと、考古学者のロビンさん。他にも"勇敢なる海の戦士"のウソップさん。船大工のフランキーさん。音楽家でガイコツのブルックさん。剣士のゾロさん。たくさんの人と知り合った。
フランキーさんとブルックさんに、初めて会ったときはびっくりした。ゾロさんも初めて会ったときは、睨むような目つきが怖かったけど、今はそれも慣れてきた。個性豊かな楽しい人たちで、船の上はいつも賑やかだ。
助けてくれたのがこの人たちで、本当によかったな。カバンを抱きかかえながら、私はしみじみとそう感じた。
***
「よかったら、あなたのカバンの中を、見せてもらえないかしら?」
ある日のこと。ロビンさんにそう持ちかけられて、私は瞬きをした。
「ロックジェムの博物館に収められていた展示品。考古学の観点から見てみたいと、気になっていたの。でも、無理にとは言わないわ」
どうしよう。海賊船で、貴重なものを出すのは危険な気がする。でもこの人たちは命の恩人だし、ロビンさんは乱暴なことをする人には見えない。何かあったら、私の責任だ。
「1点だけなら、大丈夫です」
私が生活している部屋に、ロビンさんを案内する。そして私は抱えていたカバンから、1つの箱を取り出した。ビロードが張られた箱のふたを、そっと開ける。
「これは……パリュールね」
「はい。金細工の名匠、ミダス・ゴルドの作品です」
パリュールとは、「装飾」を意味するジュエリーのセットのことだ。王侯貴族や富裕層の女性にとっては必需品で、地位や権力を表す指標でもある。箱の中には、ネックレス、ブレスレット、指輪、ブローチ、イヤリングの5点が収まっている。
「レースのように繊細な金細工。そしてトップクオリティで揃えられたサファイア。金と青という高貴な色合いからも、多くの人に愛された逸品です」
頭の中に残っていた知識を、すらすらと紹介していく。ロビンさんは感嘆したようなため息をつきながら、パリュールを眺めていた。
「……さすがね。まさか、これほどの作品を見られる日が来るなんて、思わなかったわ」
お父さんが持ち出したのは、このパリュールの他にも2つ。某国の王女が身につけ、その後は何代にもわたって受け継がれた、インペリアルトパーズのティアラ。宝飾芸術史の頂点と言われる、蝶々を模した、ダイヤモンドとルビーのブローチ。
3mほどのアメジストドームとか、希少鉱物の原石とか、大きなものは持ってこられなかった。島を襲った人たちは、きっと大切にしてくれないんだろうな。無惨に砕いて持ち出してたら……。そう考えると、泣きたくなるような、ゾッとするような気持ちになった。
「ナミには、見せない方がいいかもしれないわね」
「あはは……」
***
眠れない夜だった。毛布を軽く羽織って部屋を出る。甲板へ向かうドアを開けると、満天の星空が広がっていた。
「わぁ……!」
無数の水晶の欠片をまいたみたい。夜はいつも寝ていたから、こんなに綺麗な星空は写真でしか見たことがなかった。人工の光が無い分、星の光がよく見える。見とれていたら、上から誰かが飛び降りてきた。
「なんだ、眠れねェのか?」
「わっ!? は、はいっ」
麦わら帽子を被り直して声をかけてきたのは、ルフィさんだった。びっくりしたせいでドキドキする胸を押さえながら、こくこくと頷く。するとルフィさんは笑顔になり、私をぎゅっと抱き寄せた。
「掴まってろよ〜!」
「へ? え、わ、わ……っ!?」
ルフィさんの腕が長く伸びて、見張り台を掴む。そう思ったら、いきなり足が宙に浮いた。びゅんと勢いよく視界が動き、星空がさっきより近くなったように見える。ルフィさんは軽々と、見張り台に着地した。
「眠れねェなら、ここいろよ。こっから見える眺め、すっげェいいぞ!」
にしし、と歯を見せて、彼は笑う。今は夜なのに、陽だまりの中にいるみたいだ。
「今日は、ルフィさんが寝ずの番だったんですか?」
「おう!」
「寒くないですか? 毛布ありますよ」
「おれはヘーキだ!」
狭い見張り台の中で、彼と寄り添うように座る。毛布にくるまって空を見上げると、星明かりの中でドクロの旗が揺れるのが見えた。
「ルフィさんは、どうして海賊になったんですか?」
ふと気になって問いかけた。明るくて好奇心旺盛で、私を助けてくれた人。私の島を襲った人たちと、全然違う人。それなのに、どうして海賊の道を選んだんだろう。
「海賊王になるためだ!」
答えは、とてもシンプルだった。
「海賊王」
「おう! この海で一番自由な奴だ! おれはいつか、海の果てにある宝を――ワンピースを見つけて、海賊王になる!」
ひとつなぎと言うくらいだから、ネックレスやブレスレットだろうか。どんな細工だろう。宝石は何が使われているのかな。島を襲われてから、すっかり忘れていた夢が、星空の下で蘇る。
「私、ひとつなぎの大秘宝を、この目で見るのが夢だったんです。ルフィさんが海賊王になったら、見せてもらえませんか?」
「なーんだ、だったら一緒に来ればいいじゃねェか」
ルフィさんに向き合って頼むと、彼は驚くほどあっけらかんとした様子で言った。
「ワンピースが見てェなら、海賊王になったおれの隣で見りゃあいい!」
「お前の目がいいのは、ナミが言ってたから知ってる。それに、お前は自分のやりたいことのために、強くなれる奴だ。おれ、そういう奴、好きだ!」
「おれの仲間になれ! 一緒に冒険しよう!」
涼しい風が吹く。麦わら帽子を押さえて笑う彼に、私はまだ顔を出さない太陽を重ねた。何て力強い言葉だろう。何て明るく断言するんだろう。進む方向が分からなくて、立ち止まっていた私に、新しい道を照らしてくれたみたいだ。
「……いいんですか? 私、鑑定はできますけど、戦ったことなくて……。皆さんの足を、引っ張っちゃうかもしれないです」
「気にすんな! 何かあっても、おれが全部ぶっとばしてやるよ!」
仲間になっても、いいのかな。そんな不安を吹き飛ばしてしまうような笑顔で、彼は答える。もっと彼らと一緒にいたいという気持ちが、心の宝石箱をいっぱいにしていく。私はこくりと息をのみ、彼の目を見つめた。
東の空が、ぼんやりと淡い色に染まっていく。白々と夜が明けていく中で、私は高鳴る胸をそっと押さえた。ルフィさんの目をしっかり見て、私は自分の決意を告げる。
「わ、私のこと、……仲間にしてくださいっ!」
「いいぞ!」
「わっ!?」
ルフィさんの腕が私の体に巻きついて、高い高いをするみたいに、ひょいっと抱き上げる。金色の光が東の空ににじんで、太陽が顔を出していく。しっかり私を抱えて、彼は見張り台から飛び降りた。
「そうと決まれば、あいつらにも教えるぞー!」
「今からですか!? まだお日様が顔を出したばっかりですよ!?」
まだ寝てる人がいるかもしれない。何もこんなに早くから言わなくても。慌ててルフィさんに声をかけると、軽やかに走っていた彼は、楽しそうにニカッと笑った。
「今日からよろしくな! イリス!」
昇る朝日が、私の冒険の始まりを告げていた。