実の親に捨てられたけど、優しいお姉ちゃんやお兄ちゃんたちに出会えたので問題なしです。
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まこち町の東風商店街は、朗らかな人の声で賑わっている。祖母と手をつなぎながら、いつきは大きな目で、物珍しそうに辺りを見回した。
「いらっしゃい!」
「可愛いわねぇ、お孫さん?」
「こ、こんにちは!」
今日は祖母とお買い物だ。精肉店や青果店に行くと、お店の人が優しい笑顔で話しかけてくれる。それが嬉しくてくすぐったくて、いつきは挨拶を返した。母親とこんな風に、一緒に出かけたことは無い。こんなにたくさんの人と会うのも初めてだ。
「みんな、やさしいねえ」
「うふふ。そうねえ」
パディントンを抱え直しながら言うと、祖母はふんわり笑って答えてくれる。祖母が自分の方を向いてくれることが、いつきに安心感を与えたとき、明るい声が響いた。
「あ! こんにちはー!」
「あら、梅くんたち。こんにちは」
「はじめおにいちゃん!」
「いつき! 元気にしてるか?」
いつきがとてとてと近寄ると、梅宮はお日様のように笑っていつきの頭を撫でる。そしていつきの両脇に手を入れ、ひょいっと抱え上げた。高い高いの後にくるりと回ってから、梅宮はいつきを地面に下ろす。
「……?」
「ん? 首傾げてどうした?」
「はじめおにいちゃん。いまのひょいって、くるんしたの、なあに?」
「高い高いだ! ……あれ、もしかして好きじゃなかったか!?」
「ううん! あの、あのね、たのしかった! ……だから、あのね……」
「うん」
「……もういっかい、おねがいしてもいーい?」
「何回でもいいぞ〜! 高い高〜い!」
「きゃー!」
「梅宮、いつきちゃんの目が回るからやめとけ」
高く持ち上げられてくるくる回る。視界がびゅんびゅん動いて、いつきは思わず、きゃあきゃあとはしゃぐ声を上げた。こんなこと、してもらったこと、あったっけ。そういえばもっと小さい頃、おじいちゃんがしてくれた気がする。こんなにぐるぐる回らなかったはずだけど。
柊に止められ、ようやく地面に降り立つ。目の前がくらくら、足元がふらふらする感覚が楽しくて、いつきはくふくふ笑った。梅宮の手が支えてくれて、落ち着いた頃。もう1人いることに気がつく。
「やだかわいい! 梅のお友達?」
「おう! オレの妹だ!」
その人は、サラサラの長い髪をしていた。上が黒で下は赤色。唇は赤くてつやつやしていて、肌はゆで卵みたいにつるんとしている。シャツにはリボンが付いていて、短いスカートがひらりと揺れた。
「……???」
お話の仕方とお洋服はお姉ちゃんだけど、声と体格はお兄ちゃん。そんな未知の存在を目の当たりにして、いつきはぽかんとした。背中に宇宙が広がっているような表情だ。お兄ちゃんとお姉ちゃん、どっちで呼んだらいいだろう。
「こんにちはぁ。椿ちゃんって呼んでくれるとうれしいな!」
「えと、いつき! 5さい! こっちは、ぱでぃんとん」
「あら。そのかわいいクマちゃんも紹介してくれるの? ふふっ、ありがと」
「あのね、おにいちゃんとおねえちゃん、どっちでよんだらうれしい?」
「! それじゃあ、椿お姉ちゃんって呼んでくれる?」
「つばきおねえちゃん」
「えーもう、ちょーかわいい! 素直でいい子!」
「わぁ」
ぎゅっと力強く抱きしめられ、いつきの身体が少しだけ固くなる。まだ他の人に抱きしめられることは、慣れていない。でも、嫌じゃないし、温かい。顔を寄せると、お花のようないい匂いがふわりと漂った。
「椿野、力加減気をつけろよ」
「あらやだ、ごめん。苦しくなかった?」
「だいじょうぶ」
ふるふると首を横に振ると、椿野はほっとしたように笑った。近くで見ると、まつ毛も長くてふさふさで、お人形さんみたいだ。キレイなお姉さんという感じがして、いつきはぽうっとしながら見とれた。
「今日はお買い物してたのよ。梅くんたちはパトロール?」
「おう! 皆、元気そうでよかったぜ」
道端で談笑してから、3人はまたパトロールへと戻っていく。大きく手を振る梅宮に、ひらりと手を振る柊と椿野。3人に手を振り返してから、いつきはまた祖母と手をつないだ。
「喫茶ポトスで、お茶してから帰りましょうか」
「ことはおねえちゃんのとこ?」
「そう。ことはちゃんがいるお店よ」
「わあい!」
初めてこの街に来た日、食べたオムライスの味が、いつきの舌に蘇る。オムライスの他には何があるだろう。楽しみだなあ。うきうき、わくわくした気持ちで、いつきはつないだ手を軽く揺らす。
その日ポトスで食べたのは、さくらんぼと生クリームが乗ったプリンと、オレンジジュース。どれもきらきらしてて、甘い味がした。