奴隷の少女と夜の王
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初めて少女が訪れたときのように、森の闇がざわめいていた。靴を履いた足で森の大地を踏み、新鮮な緑の空気を吸って、少女は伸びをする。もう腕も足も、音を立てることはない。
「懐かしーい! 帰ってきた! って感じするね」
「……お前の故郷は、ここじゃねェだろ」
「そうだけど。帰りたかったのは、ここだよ」
改めて顔を合わせると、色々言いたいことがあった。屋敷焼けちゃったねとか、ごめんねとかありがとうとか。何で記憶消したの馬鹿とか。でもまた明日でいいかな、と少女は思った。
明日があるって、幸せだ。
ローの瞳が銀に変わっていって、空も白み始める。夜明けが来たのだ。
「あたしが選ぶのはね、ローがいるところだよ! ずっと、ずっと一緒だよ!」
「……分かってんのか」
「何を?」
「お前が長生きしたとしても……。お前は、おれを残して、死んでいくんだ」
「そうだね。でも、傍にいるよ」
寿命の違いなんて分かってる。永遠なんてない。それでも、当然のように少女は告げた。優しく微笑んで、両腕を広げる。
「死んだら食べて、なんて無茶はもう言わないけどさ。おばあちゃんになる頃なんて、きっと美味しくないだろうし」
「でもね、あたしが死んだら、土に還るよ」
「土になって、花になって、あなたの隣で咲くよ。……ずっと、ずっと傍にいる」
囁きのような優しい誓い。それを聞いたローは、長い間沈黙してから、低い声で呟いた。
「……好きにしろ」
(許されるって、多分こういうこと)
ペンギンたちが言っていた意味が、やっと分かる。やがてローは大きな木の根元に、大きな翼を休めるように座り込んだ。
「ロー、何するの?」
「……しばらく寝る」
「寝るの!? あたしも寝るー!」
はしゃぎながら少女は、ローのすぐ隣で丸くなる。ローの羽がクッションみたいで、お城のベッドみたいな寝心地だった。
起きたらどうしようか。ローと新しい屋敷を造る話をして、また薬草を集めるならその手伝いもして。ベポちゃんもペンギンもシャチも呼んで、みんなでたくさん、幸せになろう。
うとうとと眠りの世界に誘われる中で、ローの翼がまるで、黒いお布団みたいに抱き込んでくれたような気がした。
あんまり幸せすぎるから、夢かもしれないな、と少女は思った。