NRCの少女Eに気をつけろ!
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トレイ・クローバーが寮のキッチンにある冷蔵庫を開けると、そこには"いつも通り"足りない物があった。
「はは、あいつ今日も持ってったのか」
3段目の左奥。
そこには、ツヤがあるきつね色の表面の、ベイクドチーズケーキが1台あったはずだった。それが影も形も無くなっている。他の食材に手はつけられていない。
トレイは笑顔で冷蔵庫の扉を閉めた。
犯人に心当たりはある。何なら面識もある。
しかし彼は、ケーキを盗まれたことに腹を立てる様子は見せず、犯人の所へ行くこともせず、むしろどこか楽しそうにしていた。
「ほんと、あいつはどこから忍び込んでるんだろうなぁ」
その人物は、普通ならハーツラビュル寮に堂々と入ることなんて不可能なはずだった。
『あいつがいると寮長の機嫌が悪くなる』
ハーツラビュルの寮生は、その人物について聞かれたら、みんな口を揃えて言うだろう。寮生のほぼ全員に嫌われていると言っても過言では無い。
何なら、前に何でもない日のパーティーに潜り込んだチェーニャ以上に、寮生たちに攻撃される可能性だってある。
あのリドルの、ハートを描くようなアホ毛の先をリボンで結ぶ。
「その首輪ダサくない?」とユニーク魔法を使ったリドル本人に言いに行く。
リドルの周りを動き回り、フロイド並に構う。
よく首をはねられないものだと思う。
しかし"彼女"は抜け目なく、リドルに会う時は、彼のユニーク魔法である『オフ・ウィズ・ユアヘッド』が届かないほどの防衛魔法を張っているようだった。
前に「残念でした〜バリア〜〜!」と、リドルのユニーク魔法を回避していたのを見たことがある。ディアソムニア寮に選ばれただけあって、彼女は潤沢な量の魔力と天才的なセンスがあった。
それを全て、イタズラに使っているのが玉にキズだが。
一見フロイドと気が合いそうだが、しょっちゅう追いかけっこをしているところを見ると、どうやら彼女が一方的に構っているだけらしい。
それでも、作ったホールケーキを、彼女に持っていかれるのは嫌じゃない。
今では彼女専用のケーキを作って、冷蔵庫に置いているくらいだ。猛獣に餌付けして、大人しくさせていると思えば、寮長にも寮生にも全く気がとがめない。
自室に戻り、封筒がはいりそうな大きさの箱を取り出して、蓋を開ける。
そこには、いくつもの手紙が入っていた。
『表面のチョコがこってり濃厚で、スポンジの間のあんずジャムが甘酸っぱくて、すごく美味しかったです!』
これはザッハトルテの時。
『イチゴのショートケーキ。クリームがふわふわで、苺といい感じに溶け合うみたいでした! 何個でもいけそうです!』
これはイチゴのショートケーキの時。
『グレープフルーツやキウイや苺が、これでもかー! と乗ってて、キラキラして綺麗でした! タルトもさくさくですぐに平らげちゃいました! 中のクリームも最高です!』
これはフルーツタルトの時。
綺麗に洗ったお皿に乗せて、届けられた手紙。
書かれているのは、この学園ではなかなか見られない、素直でピュアな褒め言葉。
「次は何を書いてくれるか、楽しみだ」
「楽しみにされちゃってましたかー。それは嬉しいですね! 本日分のお手紙でーす!」
「うわっ!?」
窓からにゅっと細い腕が出てきて、トレイはぎょっとメガネの奥の目を見開く。
エレノアがにんまりと頬を緩めて、窓枠に手をかけ、大皿に乗せた手紙を差し出していた。
「……驚かすなよ。あとそれ、カリムの絨毯じゃないか。良いのか勝手に持ってきて」
「この子が空中散歩してるところを見つけて、乗せてもらいました!」
「"持ってきて"いないからセーフか……」
綺麗になって返ってきた皿ごと、手紙を受け取りながら会話をする。窓から様子を見ると、絨毯は隅に付いている房飾りを、手のように振っていた。
「そうだ。今度の何でもない日のパーティー、お前も来るか? 新作タルトの感想を聞かせてほしいな」
「やった。じゃあ
「何か言葉に含みを感じるけど、まあいいか。あとせめて、うちの寮服で紛れ込んでくれよ? この前みたいに堂々と運動着で来たら、即リドルに怒られるぞ」
「分かりました〜」
バイバイと無邪気な様子で手を振って、絨毯の上に座った彼女が空を飛び、寮を去っていく。
トレイは苦笑しながら手紙を箱に入れ、皿をキッチンに片付けるために、自分の部屋を出た。
「あの調子だと、また運動着で来そうだな。あいつ」