NRCの少女Eに気をつけろ!
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――被害者Jは言う。
「手を焼くのはカリム1人で充分だ。あいつは手に余る」
――被害者Iは言う。
「……拙者の平和かつ穏やかな生活を、笑顔で粉々にぶち壊しに来る悪魔でござる……」
――被害者Fは言う。
「気分じゃねー時に絡んでくるとこはキライ」
立てば凶兆、座れば謀略、走る姿は大怪獣。
名門魔法士養成学校と名高いナイトレイブンカレッジには、色々な……主に良くない意味で有名な少女が通っている。
彼女が入学して2年。男子校に女子生徒がいるという異例の事実を、短期間で気にならなくさせるほどの悪名をとどろかせ、思春期真っただ中の男子たちに芽生えたのは恋ではなく恐怖。止まらないのはトキメキではなく動悸だけだった。
これは、そんな彼女が引き起こす刺激と愉悦たっぷりの、ハートが震えるお話である。
***
「きゃははははっ! いけいけゴーゴージェイド号ー!」
「ふふ、舌を噛まないように気をつけてくださいね」
「ふざっけんなよジェイド! なんでそいつ連れてくんの! 後で覚えてろよマジで!!」
荒々しい靴音を立て、長い足で風より早く廊下を駆け抜けていく2人の人物。それに恐れをなしたように、人波が左右に割れていく。
嫌悪感と必死さを隠さずに、逃げているのはフロイド・リーチ。
食えない笑顔で追いかけているのは、フロイドの片割れであるジェイド・リーチ。
そしてジェイドの腕に抱えられながら、無邪気にはしゃいでる1人の少女。
「ジェイド、いえーい」
制服は、男子生徒たちと同様にズボンを着用している。ベストはジェイドたちが着ているような、水色がかった灰色ではなく、目に鮮やかな黄緑色。
彼女はスマホを自分とジェイドに向けて、ピースサインをしながら器用に写真を撮影した。
「『#本日の追いかけっこ』『#今日も足速いね』『#コーナーで差をつけろ』『#ジェイドと初めての共同作業♡』っと」
「『#式はいつに致しましょう♡』も入れてみましょうか」
「あはっ、採用〜」
悪ノリするジェイドが言ったタグをつけてから、少女は写真をマジカメにアップする。ピロンと軽快な音を立てて、投稿が完了した。
その時、フロイドが窓枠に手をかけ、ひらりと飛び降りる。突然のことに他の生徒たちが動揺するも、ジェイドと少女は慣れた様子だ。
「いくよジェイド!」
「はい」
ただそれだけのやり取りで、ジェイドが窓から少女を投げた。
もう一度言おう。
ジェイドが、窓から少女を投げた。
細く小さな体が宙を舞い、重力に従って落ちる。
最悪の事態を想像した何人かの生徒が、目を剥き大慌てで窓から下を見下ろすと、そこに少女はいなかった。
「いい加減しつけーな! 絞めんぞ!」
「あはははははははは」
ただ向こうの方に、恐らく五点接地でケガを回避したのだろうフロイドと、携帯式の飛行棒(ミステリーショップで販売。300マドル)に跨って、笑いながら飛んでいる少女が見える。
「また彼女は、ナイトレイブンカレッジに通う生徒として、相応しくない振る舞いをしているのかい……」
「おやリドルさん。見ていたんですか?」
「あんなの嫌でも目につくに決まってるだろう。君も彼女に加担するなんて、感心しない真似はよしたほうがいい」
廊下を走る時点で、規律を重んじるリドルには見過ごせない行為だが、下手に関われば自分に矛先が向くことを、彼は身をもって知っていた。
溜息をつきながら廊下を歩いていくリドルを見送り、ジェイドは窓から、フロイドと少女が去った方を眺める。
「さて、今日はどんな出来事を起こしてくれるのでしょうね」
そう呟く彼は、予定調和が嫌いと言うだけあって、ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべていた。
少女の名前は、エレノア・フランクリン。
ナイトレイブンカレッジ2年A組。
愉快そうな奴らは、だいたい友達。
何かと噂が耐えない、NRCの中でも目立って分かりやすい問題児である。