現・鳴柱の物語
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禰豆子は人を食わない。
俺と一緒に、人を守るために戦える。
必死にその事を訴えても、周りに立つ"柱"と呼ばれた人たちは、聞く耳を持ってくれない。
ここで死ぬわけにはいかない。
鬼にされた禰豆子を人間に治すために、殺された家族の仇を討つために剣士になったのに。
口を開こうとした時、水を飲ませてくれた女の人の他に、別の人が俺の前にしゃがみ込んだ。
俺より少し歳上のような女性。
彼女からは、長月から神無月にかけて山に咲いていた金木犀のような、ほのかに甘くて優しい匂いがした。
鮮やかな赤い髪と澄んだ青い目は、とても不思議な感じがしたけど、それと同時に温かく懐かしい感じもする。
あぁ、そうか。家族が皆、元気に生きていた頃、山で見た風景に似ているからだ。美しく染まった紅葉と、その向こうに広がる晴れた空。
「……どうして君の妹は、2年以上も人を食べてないの?」
「それは、鱗滝さ……俺の師匠が、禰豆子に暗示をかけてくれたからです。"人を傷つける鬼を許すな"って」
その暗示のおかげで、禰豆子は鬼になっても、人としての理性を保っている。人を守るために行動している。
信じてくれ。その一心で、俺は彼女の目を食い入るように見つめた。
「……そう」
善逸が着ているものと、似たような模様の羽織を身につけている彼女は、それだけを呟く。
そして、周りにいる"柱"を見回して、こう言った。
「私は、この子を信じようと思います」
凛と響いた、その言葉と声からは、嘘の匂いがしなかった。降ったばかりの新雪のように、清らかな匂いだ。
他の"柱"たちが、批判するような言葉を言う。隊律違反の肩を持つのかとか、情に流されているだとか、そんな妄言を信じるのかとか。
それでも彼女は、顔を上げて、
「私が斬りたいのは、命を食い荒らす鬼です。人を食べない鬼には、斬る意味を見いだせません」
「元水柱の暗示があると聞いて、納得しました。他の鬼と同じ状態なら、この子はとっくに妹に食べられています。飢餓状態の鬼が、親でも兄弟でも関係なく食べるのは、あなた方もご存知でしょう」
「それに、この子は下弦の鬼と遭遇しても、五体満足で堪えたそうですね。こんな質のいい剣士の命を、ここで散らせるのはいかがなものかと思います」
淡々とした口調で、真っ直ぐな態度で、俺と禰豆子を庇ってくれた。それは、傷だらけの粗暴な人が来た時も、お館様と呼ばれる人が現れた時も、変わらなかった。