咲いた百合は白か黒か
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こんな夢を見た。
黒い服を着た1人の少年が、石段に腰かけている。顔を伏せてうずくまっているから、どんな表情をしているかは分からない。
でも、その少年が自分をひどく責めていることだけは伝わってきた。
肩も、きつく握りしめた拳も、ぶるぶる震えている。すすり泣いているように体が揺れて、「自分が死ねばよかった」と言うような言葉が途切れ途切れに聞こえた。
少年はどうやら、たくさんの人を殺したらしい。
自分の中にある巨大な力を制御しきれなくて、たくさんの人を死なせて、街を破壊して更地に変えたようだ。
「殺してあげようか」
自分を呪っている少年の前にしゃがみこむ。
薙刀を肩に担いで、私はそう提案した。
「怖くないように、綺麗な夢を見せてあげる」
「痛くないように、綺麗に切り落としてあげる」
「私が、楽にしてあげる」
少年の震えが治まっていく。
顔を上げて、私を瞳に映した少年。その表情を見て、私は薙刀を下ろした。
彼が私の言葉に、絶対に頷かないのは、どこかで分かっていた。
彼は、簡単に死に逃げたりしない。どんなに辛くても、打ちのめされることがあっても、歩き続けるのを止めない人だ。
***
こんな夢を見た。
父と母。小さな弟や妹。大切な家族が肉塊になって、赤黒い水溜まりの中に沈んでいる。それは全て、彼らの体から流れ出た血だった。
手や着物が汚れるのも構わず、家族だった欠片をかき集めて。天に向かって顔をびしょびしょに濡らして、
聖母のように優しげだったその顔は、だんだんと幽鬼のように
悲しくて辛くて、命を終えてしまいたくて。でも怒りや憎しみを杖にして立ち上がった。
そうでもしないと、余計におかしくなってしまいそうだ。
だっておかしいだろう。父も母も、弟も妹も死んだのに、なぜあの男はのうのうと生きている?
人の人生を、未来を奪っておいて、なぜ平然と朝を迎えている?
許さない。
許さない。
私が地獄へ叩き落としてやる。
怒りの力で彼女は立ち上がった。
怒りが彼女のアイデンティティになった。
それが無くなれば、彼女は燃え尽きて空っぽになってしまうだろう。生きる気力を失ってしまうだろう。
「ああ、憎らしい、憎らしい」
「あの男を葬るまで、私は死ぬことなどできやしないのだ」
「この怒り、どうしてくれよう」
それはまるで、羅刹女のような唸り。
気づけば目の前に、般若の面をつけた女性が立っていた。喪服のような黒い着物を身にまとい、鋭く光る薙刀を握っている。
ああ、この人が、私の前世の巫女なのか。
細い指が、尖った爪が、私の首に食い込む。
痛みを植え付けるように、自分が持つ怒りの感情を流し込むように、ぎりぎりと力を込めてくる。
「一緒にしないで。あなたは私じゃない」
そう伝えると、少しだけ力が緩んだ。
「私はそんな風に、誰かを呪い続けられるほどの感情を持ったことがない」
私が心を砕くのは、いつだって姉さんとミフユだけだから。
「私は両面宿儺なんかどうでもいい。私の大切な人に手を出さないうちは」
「私は大切な人を守るために生きる。復讐のためには生きない」
「これは私の体だ。私の意思だ。前世か何か知らないけど、あなたに指図されるいわれは無い」
彼女の手首を掴んで、般若の面から覗く2つの瞳を睨みつける。
「履き違えないで。あなたを使うのは私だ」
そう言い放ったとき、私の腕から青い茎が伸びてきた。そこから細長い蕾ができ、真っ黒な百合の花が開く。ぽたりと落ちた露が花弁を濡らすと、花びらがそこだけ白く染まっていった。