障子くんとフクロウ少女
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こんなことが起きるのは、アニメや漫画の世界の話だと思っていた。
「他に何か入用なものがあれば、私がお作りいたしますわ!」
「羽鳥ちっちゃ! カワイイー!」
「ほっぺた、ぷにぷにや〜」
きゃっきゃと楽しそうな女子たちの真ん中には、ちょこんと小さな女の子が椅子に座っている。
ふわふわの髪にどんぐり眼。
見た目からして3歳くらいだろう。
水色の鳥をモチーフにした着ぐるみ型ロンパースは、八百万が創造したものだ。
ちなみにその子は、幼児化した羽鳥だ。麗日いわく、登校途中に通り魔ヴィランの個性に当たったらしい。
中身も幼い頃のようで、俺たちのことが分からない様子。だが、人懐こさは生まれつきなのか、見事に打ち解けている。
「このお兄ちゃんこわいー!」
「あ゛ぁ!? 何もしてねーだろ! このちんちくりん!」
「やめろ爆豪! 相手3歳児だぞ!」
……例外もいるが。
「ワンチャン紫の上計画できるんじゃね……?」
「峰田ちゃん、憩ちゃんに近寄らないで」
真顔で禍々しいオーラを放っていた峰田は、蛙吹の舌で頬を叩かれていた。
「よーしよし。ほーら憩ちゃん。障子お兄ちゃんだよー」
爆豪に怒鳴られてしくしく泣いている羽鳥を、葉隠があやしながら俺の元へ連れてくる。俺は思わず後ずさった。
「……俺だとますます怖がるんじゃないか?」
「大丈夫でしょ、あんた包容力あるし」
耳郎にそう言われても、どうしていいか分からず困惑する。そのとき羽鳥が俺に気づいた。
ぽろぽろとこぼれていた涙が止まる。
大きな目を丸く見開き、俺の目をじいっと見つめてくる。
5秒後。羽鳥は火がついたように泣き出す……ことはなく。両手と上体を、俺の方へぐいーっと伸ばしてきた。
「ほい障子くん」
それが合図だったかのように、葉隠がすかさず俺の腕に羽鳥を預ける。
壊れ物を扱うように小さな体を抱えると、羽鳥はぎゅっと胸にしがみついた。
「おおー。優しくしてくれる人かどうか、ちゃんと分かってんだな」
瀬呂が爆豪と俺を見比べながら笑う。ぽんぽんと頭を撫でてみると、羽鳥はすりすりと頬を寄せてきた。
強く抱きしめそうになるのを必死にこらえる。
「そういや俺、小腹すいたとき用にクッキー作ってたんだよ」
「食べるか?」と砂糖が、綺麗な焼き色のクッキーを羽鳥に差し出す。羽鳥の顔に、ぱあっと笑みが浮かんだ。
「お兄ちゃん、ありがとー」
腕の中にすっぽり収まる状態で、両手でクッキーを持ち、嬉しそうに食べる様は小動物によく似ている。
「羽鳥、クッキーの粉がついてる」
「んぅ」
「障子くんは良いお父さんになれそうだね」
口の周りについた食べかすをティッシュで取ってやると、緑谷が微笑ましそうな笑顔でそう言った。
「そうか?」
「緑谷ちゃんの言う通りね。今の2人、見てるととっても癒されるわ」
複製した口で聞くと、蛙吹もほのぼのした表情で言う。その様子を見ていた羽鳥は、目をぱちくりさせた。
「おくちー」
「くちをつかむのはやめてくえ」
複製した口の両端を伸ばされ、言葉が不明瞭になる。羽鳥の目の輝き具合は、新しい玩具を見つけた子どもそのものだった。
***
「どーれだ」
「んーと、んーと、こっち!」
小さな両手が、右側の真ん中に複製した拳にふれる。俺はその手をそっと開いた。
「正解だ」
「やったー!」
バンザイをする羽鳥に、飴を渡す。子どもを喜ばせられる方法を模索した結果、これが1番俺に合っていると気づいた。
にこにこ楽しそうに笑っている羽鳥に癒されていると、羽鳥が俺の膝上によじ登ろうとしてきた。なかなか上がれないようで、ひょいと抱き上げて乗せる。
「お兄ちゃんのおてて、おっきいー」
羽鳥は無邪気に自分の手と俺の手を合わせ、大きさを比べだした。さっき口を引っ張ったときといい、複製腕が珍しいのだろう。
「羽鳥の手は小さいな。片手ですっぽり包めてしまう」
「ほら」と軽く握ってみせると、羽鳥は「ほんとだ!」と目を丸くして見入る。そして、ほんのり頬を赤くして俺を見上げた。
「しょーじお兄ちゃんのおてて、あったかくてやさしいから、すき」
俺の膝上に立ち、うんと背伸びをしてくる羽鳥をとっさに支えたとき、マスク越しの頬に柔らかい感触があった。
「だからね、はやくおっきくなって、しょーじお兄ちゃんのおよめさんになる!」
「プロポーズだー!」
「好意が直球ストレートや!」
「障子、返事はよく考えろよ。今の羽鳥の姿だと犯罪だぞ!」
「ちくしょお障子! 未来の嫁ゲットかよお!」
はやし立てる口笛やら嫉妬に満ちたブーイングやらが入り乱れ、周りがわいわいと騒がしくなる。目の前にはきらきらと慕ってくるような、純粋無垢な眼差し。
「ああ。待ってる」
そう告げて、俺は羽鳥が好きだと言ってくれた手で、ふわふわしたその髪を慈しむように撫でた。
「大人になるまで待ってくれるやつだ!」
「シンプルで漢らしいな!」
そんな声に包まれながら、羽鳥は幸せそうに、嬉しそうに笑って。こてんと俺の腕の中に倒れた。
「あれ?」
「羽鳥?」
「すや〜……」
麗日たちが顔を覗き込む。遊び疲れて気力が切れたのか、羽鳥はすやすやと眠り込んでいた。
***
翌日。羽鳥は元の姿に戻っていた。
「目が覚めたら朝になってたよー」
葉隠たちに笑いながらそう説明した後、羽鳥はとてとてと俺に近づく。
「いやー。透から聞いたけど、昨日はちっちゃくなった私のお世話をありがとうございました……」
深々と頭を下げた羽鳥は、恥ずかしそうに赤面しつつ頬をかいた。俺は訝しく思い、羽鳥に問う。
「……昨日のことは覚えてないのか?」
「うん、さっぱり。……え? あれ? まさか私何かやらかした?!」
「……いや、何でもない。気にするな」
きょとんとしてからアタフタと百面相をする羽鳥。俺は頭に石か何かが落ちてきたような感覚を味わっていた。
「……障子」
「……常闇?」
顔を押さえて席についていたとき、いつの間にか近くに来ていた常闇が俺の肩に手を置く。
「……三つ子の魂百まで。幼子だった羽鳥の想いはそう変わるものではあるまい。気を落とすな」
「……ああ」
友なりの賢者めいた励ましを聞きながら、俺は今日の帰りに羽鳥をドーナツ屋に誘ってみようかと考えるのだった。
***
【おまけ】
葉隠「えーっ! 憩ちゃん昨日のこと覚えてないの!?」
芦戸「障子にあんなことまでしてたのにー!?」
羽鳥「あんなことってどんなこと!?」
耳郎「あれはな……ウチは恥ずかしくてできない」
麗日「あれだね、憩ちゃんはおマセだったんだね!」
羽鳥「お茶子は何を納得した!?」
蛙吹「ケロ、小さい子ならではの大胆さだったわ」
羽鳥「一体何した私!? 百は分かる?」
八百万「わ、私の口からはとても言えませんわ……!」
羽鳥「何した私!?」
【男子に聞いてみた。】
口田「〜っ!」
羽鳥「顔おおって真っ赤になられるようなことを私はしたの?! ねえ!?」
峰田「公の場で見せつけやがってリア充が……非リア充の気持ちも考えろ……」
上鳴「これでまだ分からんのなら貴様の偏差値は猿以下だ!」
羽鳥「えっ何かすまんかった」
緑谷「え、昨日のことを説明? えーとその、言語化が難しいというか何というか、どこから話したらいいんだ……? 僕としてはあの場面の一部始終を話すのはちょっと恥ずかしいしブツブツブツ」
羽鳥「そんなに説明しにくいこと!?」
砂糖「あー、クッキー食うか?!」
羽鳥「なぜ話をそらした!? 食べるけど!」
飯田「羽鳥くん、俺たちはまだ大人の階段を登るには早すぎる! 今は学業やヒーローへの道に邁進すべきだ!」
羽鳥「大人の階段!?」
尾白「…………と、轟に聞いて?」
羽鳥「まさかのエスケープ」
轟「結論を言うと……」
羽鳥「なになに?」
轟「障子にキスして結婚を申し込んでたぞ」
羽鳥「ごめん詳しくお願いします」
轟「キスはマスク越しだった」
羽鳥「そっちじゃない!」
【フラグが立った】
「……障子さんや」
「どうした羽鳥」
「昨日のことなんだけど、ちっちゃい私が言ったことは気にしなくて良いからね!? もう忘れてくれて大丈夫だから! いやぁもう子どもの発言って怖いなー!」
「……羽鳥」
「へいっ?!」
そのとき、障子の手のひらが私のほっぺたにふれた。大きくて優しくて、ホッとする温かい手。
「……俺は、あのときの言葉を取り消すつもりはない」
「へ? あのときの……言葉?」
「ああ。だから───」
"覚悟しておけ"
耳元で響いたウィスパーボイスの意味と、後日障子がアタックしてきた訳を理解するのは。
もう少し、先の話。