障子くんとフクロウ少女
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「おりゃーっ!」
羽鳥 憩、15歳。中学3年生。ただいま第1志望の雄英高校にて、一般入試実技試験中。
ロボットを倒すか動けなくすればポイントをゲットできるみたいで、こうしてせっせとバトルしてます。
私の個性は刃翼。
背中に翼を生やして飛べる。気合いを入れれば、羽が硬いナイフみたいになるから、身を守ったり敵を叩いて攻撃したりできる。
他にもできることがあるんだけど、今は省略しておこうと思う。
敵を探して、倒して、また探してを繰り返していたとき、腕から血を流してる男子を見つけた。
「ねえ、君!」
「はっ?」
ふわりとその男子の近くに降り立ち、私は翼からぷつんと羽を1枚摘み取った。真っ白でふわふわなそれを、彼の傷口に押し当てる。
するとスウッと羽が溶けるように消え、傷口がふさがった。
お母さんの個性、"活性化"が組み合わさって、私の羽は怪我を治すこともできるのだ。
「これでよし!」
「えっ! き、傷口が……てかお前何で治した!? 俺をほっとけばライバルが減るだろ!」
乾いた血がついただけの腕をまじまじと見た後、驚きと困惑が混じったような表情でそう言ってくる彼。
私はニカッと笑ってみせた。
その答えは、簡単だったから。
「困ってる人を助けるのがヒーローでしょ?」
ヒーローを目指す人が、ヒーローになるために、怪我した人を放置するなんてありえない。それが私の考えだから。
「それじゃ頑張ろうね!」と彼に手を振り、私はロボットを探しにその場から飛び去った。
「うーん、やっぱ皆頑張ってるなー。ロボットが減ってるよ」
きょろきょろ辺りを見回しながら、ひとまず降り立つ。翼を一旦しまって様子見だ。
どうせなら怪我してる子を治して回ろうかなー。そう考え込んでいたとき。
「わあっ!?」
グイッとすごい力で引き寄せられる。
次にドガァン! と破壊音がして、私の後ろに来ていたロボットが殴られるのが見えた。
冷や汗がたらりと背筋を伝う。
……危なかった……。
「……大丈夫か?」
「おっ?」
顔の横から聞こえた、ゆるキャラみたいなちょっと可愛い声。見ると、私の体をすっぽりと支えている複数の腕と、そこから出てる口が見えた。
「う、うんっ。助けてくれてあり……」
そこまで言いかけたとき、彼の拳がやや腫れていることに気づいた。肩や腕にも、軽いけど切り傷がけっこうあって、血がにじんでる。
「君めっちゃ怪我してるじゃん! 見せて!」
「いや、これくらい平……」
「いーから! まずはその手!」
たぶん私を助けてロボットを殴ったときにできたものだ。羽をぷちぷち取って、彼の傷にぺたぺた付けていく。
傷が消えるのを見て、彼は息を飲んでいた。
「……怪我の回復もできるのか」
「あ、地声は低めなんだ」
見上げると高い位置に顔があった。顔の下半分はマスクにすっぽり覆われてて、表情が見えにくい。
てゆーか体大きい……。筋肉もがっちりついててちょっと羨ましい……。たくさんの人を助けられそう。
「さっきは助けてくれてありがとう。お互い頑張ろうね!」
うずうずしてくる気持ちを押さえて立ち上がり、翼を広げる。もっと話してみたいけど、今は試験中。集中しなきゃ。
合格すれば、また会えるかもしれないから。
そんな想いを込めて、私は空へ舞い上がった。
***
別の場所で怪我した子を羽で治していたとき、凄まじい爆発音が聞こえた。振り返ると、山みたいに巨大なゼロポイントのロボットがいた。
その場の皆が一斉に逃げ出す。
巻き込まれないように空中にいたとき、ロボットの近くに倒れている女の子を見つけた。そして、ロボットにすごい勢いで向かっていく男の子も。
「っ危ない!!」
まずは女の子の元へ急降下。
口を押さえて真っ青になっていたため、慌てて羽を摘んでその子の喉に当てた。
「……っあ、あれ? 吐き気が、治まった……?」
「立てる? まだしんどい?」
そう声をかけながら彼女を支え、離れた場所へ移動する。そのとき聞こえた破壊音の方を見上げると、男の子が一撃でロボットを倒したのが見えた。
────すごい。
そう思ったのもつかの間。
男の子の体が落下を始めた。
「あっ! あの子のところに連れてって! お願い!」
「よ、よく分かんないけど了解!」
必死な様子の女の子を抱えたまま、一直線に彼の元へ飛ぶ。落ちてきた彼の背中を、女の子がぺしっと叩く。
すると、男の子の体が空中でふわっと止まった。
「おお、浮いた!」
感動しつつ、腕がしびれる前に地面に降り立つ。男の子は足や腕を骨折してるみたいで、私はせっせと羽を摘んではらはらと彼にかけた。
「……あ、お、お迎え、です、か……?」
「君死んでないよ! 生きてるよ!!」
朦朧としてるらしい彼に「頑張って!」と声をかけながら治していたとき。試験終了の合図が鳴り、リカバリーガールが治療を交代してくれた。
***
その後。めでたく私は雄英高校に合格した。
敵を素早く倒し、怪我人の治療もかなりこなして文句無し。筆記はちょっとギリギリだったらしい。危なかった。
お祝いに大好物のドーナツパーティーをしてもらった翌日。私は雄英の制服に着替えて、意気揚々と学校へ向かった。
どんな子に会えるかな。
友達たくさんできるかな。
ヒーローの勉強楽しみだな。
入試で会ったあの子たちはいるかな。
名前聞くの忘れてたな。
いろいろ考えながら、ガラス張りの綺麗な校舎に足を踏み入れ、自分のクラスを確認する。
「あ、あった。A組かあ」
他にもたくさんの名前がある。でも読み方がよく分かんないから、今は漢字の羅列に見えた。
異形型の個性の人に優しい、バリアフリー設計の扉。私の体にはどデカすぎるそれを、「よいせ」と開けた。
「おはよう! 俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ。よろしく!」
「おぉ、私は羽鳥 憩。よろしくー」
すると出会い頭にきっちりした感じのメガネ男子に挨拶され、握手を交わす。何かすごい真面目そうだ。
クラス内を見回したとき、見覚えのある大きな背中が目に止まった。
「あ!」
とたとたと小走りで寄っていくと、彼は振り向き三白眼を少し丸くした。
「入試のとき助けてくれた子だよね。よかったー、また会えた!」
「ああ。俺も会いたかった」
「ほ?」
嬉しくてにこにこしながら声をかけると、さらりと来た返事。真っ直ぐに私の目を見つめ、彼がマスクに隠れた口を開く。
「あのときお前は、礼を言う前に行ってしまったから、ずっと心残りだった。……あの日、怪我を治してくれてありがとう。助かった」
その言葉に胸の辺りが熱くなる。
自分では当たり前のことをしたつもりだったけど、お礼を言われるとやっぱり嬉しい。
「どういたしまして! 私、羽鳥 憩。君は?」
「障子 目蔵だ。これからよろしくな」
「うん! よろしく、障子!」
私より大きくて固い手と握手を交わしてから、自分の席を探しに座席表を見に行く。
「あっ! もしかしてあのときの天使ちゃん!?」
「へ?」
ファンタジーな呼び名に思わず振り向くと、これまた見覚えのある子がいた。
茶髪のショートボブが特徴的な、可愛い女の子。近くにはモサモサ髪の男の子。
「あ、入試のときの! 何で天使ちゃん?」
「いや〜。意識朦朧としてたときに、空から羽生えた子来たからてっきり……」
「僕も本気でお迎えかと……」
「あー、そういうことかー。天使じゃなくてちゃんと人間だよ。羽鳥 憩」
「私、麗日 お茶子! よろしくね」
「ぼっ、僕は緑谷 出久です!」
私の学校生活は、ここから始まった。
おまけ。
("会いたかった"ってけっこう大胆な発言だよな……)
(あのマスクマンとちびっこ、どういう関係なんだ……?)