夏椿の物語
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くいくいと服の裾を引っ張られてヘッドホンを外すと、古風な黒セーラー服の少女がいた。
「……サクヤ」
「? なんだよ」
「……遊びましょ?」
よく見ると彼女の両腕には、お手玉やらおはじきやら、なわとびの縄やらが抱えられている。
「ずいぶんレトロなラインナップだな」
「……楽しいよ?」
こてん、と首を傾けながら言う沙羅は、どっかズレてると思う。
「……あ、じゃあオレが考えた遊びでもいいわけ?」
「……うん」
そう聞くと、声色は変わらないが沙羅の目が少し輝いた。遊んでくれる? というような期待の目。
思わず緩みそうになる口元を押さえて、オレはソファを指さした。そこには今、昼寝中の椿さんがいる。
「椿さんが起きないうちに、椿さんの顔に落書きしてくるゲーム」
「わかった」
いいのか。
素直にうなずいた沙羅と、ジャンケンでどっちが行くか決め、沙羅は黒い水性ペンを持って椿さんの所へ向かう。と思ったら戻ってきた。
「……何書けばいいかな?」
「てきとーに"アホギツネ"とか書いとけ」
「……んー」
首をひねりながら椿さんの所へ戻り、沙羅は椿さんの顔に何かを書きつける。
そして達成感にあふれたような、ほくほくした顔で戻ってきた。
「そんなに落書きが楽しかったのか?」
「……椿、起きなかった」
そこかよ。
それから10分後くらいに起きた椿さんの頬には、"おいなりさん"と書かれていて、オレは思わず吹きそうになった。
その後。
「……という訳で、僕の顔に落書きした人手を挙げて」
「……はい」
「沙羅は素直だね~! じゃあ首謀はだぁれ?」
「……サクヤー」
「さーーくーーやーー?」
オレは黒い笑顔の椿さんにデコピンされた。
そしてさらにその後。
「何でオレと遊ぼうって思ったんだ?」
「……ほかの人との話し方、よく知らないから。……椿を、参考にしようと思って」
「…………椿さんは、人付き合いの参考にしない方がいいと思うぞ?」
頭の中で椿さんの高笑いを思いだしながら、オレは沙羅の行く末が心配になった。
***
「……オトギリさん。遊びましょー?」
家族の1人である沙羅が話しかけてきました。今は、特に取り込み中ではありません。
「……何をして遊ぶか教えてもらわないと、困ります……」
「あの、あやとりって、……知ってますか?」
彼女は、手に握っていた輪っか状の白い毛糸をこちらに出します。日本の遊びのようです。
「……詳しくは、分かりません」
「えと、……こうして遊びます」
沙羅は慣れた様子でするすると糸を指に絡めだし、1分ほどでこちらに向けました。
そこには全部で9つのひし形ができていて、私は目を見張りました。
いつの間に……。
「……これが"9つのダイヤ"で、あとは……」
指にごちゃごちゃに絡まらずに糸を操り、沙羅は"ほうき"や"はしご"などの形を披露してくれました。最後にするりと、何ともなさげに糸をほどきます。
「……こんな、感じです。もう一つあるので、どうですか?」
私はうなずき、桜色の毛糸の輪を受け取りました。
「教えてください」
「はい……!」
嬉しそうに頬を染め、沙羅は丁寧にやり方を教えてくれました。私もよく糸を使いますが、こちらのやり方は初めてです。
「まず、左手の親指と小指に紐をかけて……」
「? ……あ、」
たまに指に絡まったり、上手くいかなかったり。その度に沙羅は助けてくれました。
そして。
「……最後に紐を手前に引いて。……完成です!」
「できました……!」
私も"ほうき"を作ることができました。
「他にも、やってみませんか?」
少し声がはずんでいる沙羅にうなずきたいですが、私は首を横に振りました。
「……少しずつ教えてもらいたいので、……楽しみが減るのは、困ります」
「じゃあまた、いろいろやりましょう? 2人で作るのも、あるんです」
「……はい」
小指をすっと出してきた沙羅。
そこに私の小指をそっと絡めました。
また遊ぶのが、楽しみです。
「……スッゴォ~……。ギリオト笑ってるの超久しぶりなんだけどォ……!」
「え~かわいい何あそこお花畑?」
「若に同感です……! お嬢もオトギリ女史もどこか和んでいますね」
「ああしてると姉妹っぽいですね」
「え、みんないつから……?」
「……のぞき見は、困ります……」