ツンデレアリスと素朴ガール
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それから何度か、御園くんのお家に遊びに行くようになった。
話をしたら行きたがった二胡や三琉も連れて、4人でおじゃましたりもする。
三琉や四恩は皆の輪に加わって遊んでるみたいだし、二胡は絵本の読み聞かせが上手いと人気のよう。たくさんの子が本を持ってくるから、いつもあわてるらしい。
私は御園くんと、よくお茶の時間を過ごしている。
御園くんはたびたび、私の家族の話を聞いてきた。そして私は御園くんから、城田くん等、彼の友達の話を聞かせてもらった。
***
今日はまた学校からの届け物で、家に帰った後に御園くん家におじゃました。四恩の迎えは、今回は母さん担当の日。
クッキーが美味しかったことと、御園くんとかなり話し込んでしまったことで、すっかり遅くなっていた。
「送っていきましょうか?」
「大丈夫ですよー。家まで歩いて20分くらいですし」
心配そうな表情のリリィさんと御園くんに笑顔で手を振り、私は家路を急いだ。
「うわー、暗くなってる……」
急ぐために近道を使おう。ちょっと街灯少なめだけど……。
とにかく駆け足で帰っていたとき。
「ねぇ君」
「はい?」
呼び止められて振り向くと、知らない人がいた。
顔を隠してて分からないけど、背丈と声から見て男の人……? 何か、もしかしてまずい?
「"色欲"のイブと面識があるみたいだな」
「え……、何のことですか?」
聞きなれない単語に首をかしげると、いつの間にかその人は私の目の前にいた。真っ赤に光る瞳と目が合う。
ざわりと悪寒がし、私は全力で駆け出していた。
どうしよう変な人だ……! 逃げなきゃ。どこに逃げよう。家? でも特定されたら、家族の皆が危ないし……。
とにかく撒こうと足を早めたとき、混乱していたためか足がもつれた。地面に打ち付けられるように倒れ、足に鈍い痛みが走る。
「いた……っ!」
するとさっきの人が近づいてきた。
手に握られた刃物が冷たい光をはじく。
「ひっ……」
思わず体が縮こまった。強く目をつぶり、腕で顔を隠す。
けど、痛みは来なかった。
恐る恐る顔をあげると、目に入ったのはよく見ている中庭。花が暗がりの中で揺れる。
……御園くん家の敷地内?
「加々宮!」
大きな声に振り向くと、御園くんがぜえぜえと荒い息で膝に手をついていた。
走ってきてくれたの……?
「み、その、く……」
「大丈夫か?!」
初めて見る、切羽詰まった表情。
「……あし、いたい……」
「一花さん!」
焦った様子で走ってきたリリィさんに横抱きにされ、私はお家の中へ連れて行ってもらった。
転んだときに軽く捻挫をしていたらしく、手当をしてもらった。
家にはリリィさんが電話をしてくれて、渡された受話器から心配そうな声がかかってきた。
『おねえちゃん!』
『姉ちゃん大丈夫なのか?!』
『捻挫したって本当?! 程度はひどくない?!』
四恩、三琉、二胡の声がやけに久しぶりに聞こえた。
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね、ありがとう」
何でもないように明るく言う。
皆を不安にさせるわけにはいかないから。
リリィさんに受話器を返した後、御園くんが部屋に来てくれた。
「今日は危険だから、このまま泊まっていけ。明日は休みだしな」
「……うん。ありがとう」
何とか笑顔を作って言う。そのとき御園くんが、少し唇を噛んだ気がした。
「……本当に、大丈夫なのか?」
「やだなぁ平気だよ? 大丈夫だいじょ……」
ごまかそうとしたそのとき、ぽろりと頬を水がつたった。
「あ、あれ……?」
とっさに拭うも涙は止まってくれなくて、体がかたかたと震えだした。
震えを止めようと自分の体を抱きしめるも、奥から震えが湧くように止まってくれない。
「……っ、全然大丈夫じゃ、ないじゃないか!」
悔しさ、憤り。そんな言葉が当てはまりそうな声音と、近づく足音。
ぎゅっと私を包む体温。私の背中に回された細い腕。男の子にしては華奢な体。私の顎が、御園くんの薄い肩に当たっている。
「……僕の前で、姉の顔はやめろ」
耳のすぐ近くで聞こえる、御園くんの声と吐息。
その言葉に、私はもう限界だった。ぎゅっとつむった目から涙があふれる。
「……っ、こわかったよぉ……っ」
ボロボロ涙をこぼす私を、御園くんは何も言わずにただ抱きしめてくれていた。
***
落ち着いた後。赤い顔の御園くんが、自室に逃げるように帰ったのを見送り、私はベッドに座った。
「……!!」
とたんに私は目を丸くする。
それは、雲のように柔らかかった。家の布団も負けてないけど、それ以上?!
ぽふぽふぽふぽふ、と叩くのも飽き足らず、私は捻挫した右足に負担がかからないように、ぽふり、とベッドに倒れる。
すると柔らかく沈む体。ふっかふかでトランポリンとかもできそうだ。
思わずゴロゴロ転がっていると、なんだか楽しくて目が冴えてきた。
これはいけない。これじゃ眠れない。
落ち着きを取り戻してきた私は、よいしょと布団をあらかた床に敷いた。
「これでよし!」
じゃあ寝るか! と布団に入ろうとした。
「加々宮、まだ起きているか……っておい貴様! なぜベッドで寝ないんだ?!」
「あ、いや〜ベッドがふかふかすぎてテンション上がっちゃって眠れなくて……」
「か、変わったやつだな貴様……」
御園くんが呆れたようにため息をつく。
「とりあえず布団をベッドに戻せ」と言われ大人しく戻して整えると、御園くんはそこに横になった。
「僕も一緒にいてやる。誰かいれば暴れることもないだろう」
「もしかして御園くん、1人で眠れなくなった?」
「違う。……別に貴様が心配で様子を見に来たとかじゃないからな」
一緒にベッドに潜り込みながら御園くんの背中を見る。
よくよく見ると耳が赤く染まっていた。思わずくすりと笑う。
「笑うな」
「ごめん。御園くんは優しいね」
「……褒めても何も出ないぞ」
「知ってるよ」
そう言いながら、近くにある小柄な背中をつつく。
ピクッと御園くんが揺れるのがちょっと面白くて、つんつんしていると、御園くんが何か言いたげにこちらを向いて顔を赤くした。
「ありがとう」
近い位置にある顔に、そう笑いかける。
少し照れくさそうな、拗ねたような表情になる御園くんがなんだか可愛く思えて、私は目をつむった。
***
時刻は9時を少し過ぎている。
前はすぐに眠くなってしまったが、僕も少しは大人になっているということか……。
時折加々宮がもそりと体を動かし、マットレスが微かに軋んだ音を立てる。僕1人ではないことを証明するように。
……もう、寝たんだろうか。
加々宮の方を向くと、すやすやと穏やかな寝息を立てていた。
安心しているような表情に鼓動が跳ねる。ホッとすると同時に、少し胸が痛くなった。
……僕と関わる以上、また椿の下位吸血鬼に狙われるかもしれない。
いっそ距離を置いた方が、彼女のためかもしれない。
……でも。
「……一花……」
僕が、守りたい。
傍にいたい。
眉が下がっているのが自分でも分かった。
彼女の名前をつぶやきながら、僕は彼女の手に自分の手を重ねていた。