ツンデレアリスと素朴ガール
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放課後。末の弟である四恩のお迎えに行こうとしたとき、私は先生に呼び止められた。
「加々宮ー、ちょっと頼まれてくれないか?」
「何をですか?」
「実はだな、有栖院のことなんだが」
有栖院(私はアリスくんとあだ名をつけている)とは、私のクラスメートのことだ。話したことはないけど。なぜなら、休んでいることが多いからである。
「休んでいる間のプリントを持っていくんだが、家の人に"できれば生徒さんをお願いします"と言われてしまって」
「なるほど」
「住所を調べてみたら、近くに住んでるのは……」
「私ですか」
「そうなんだよー」
へろっと先生が笑う。堅苦しくない性格なので、この学校ではちょっと珍しい存在なのだ。
「クラスメートと話すチャンスとして行ってこい!」
「はーい。分かりました」
ずいっと渡されたプリントを受け取る。
よし、お迎えの帰りに行くか。
『有栖院くんにプリントを届けてから帰るので、少し遅くなるかも』
『了解しました^^*
四恩のことよろしくね( *・ω・)ノ』
幼稚園に着いてから、母さんにメールで連絡を入れた。母さんのメールは可愛いといつも思う。
「おねえちゃーん!」
「おかえり四恩ー」
抱きついてきた四恩をキャッチして、自転車の後ろの椅子に座らせる。
「今日はちょっと寄り道するね」
「どこいくのー?」
「お姉ちゃんのクラスメートの家ー」
自転車をこぎながら、四恩の1日の話を聞く。
「今日は絵をかいたー」とか。「友達とどろだんごを作ったのー」とか。
一生懸命話してるのが可愛い。楽しく過ごしてるのが分かるから、とても嬉しい。
そうしているうちに、目的の家が目の前に見えてきた。
「「おっ……きーー!!」」
2人同時に口をオーの字に開け、声をそろえる。
アリスくんの家は白い豪奢なお屋敷だった。
「うちはビルだけど、こっちはお城だね……!」
「すごーい! おしろ! おしろ!」
おおおお……。と感動しながら、門に着いたインターホンを押す。すると柵が開き、メイドさんが出てきた。
「加々宮 一花です。有栖院くんにプリントを届けに来ました」
「話は伺っております。こちらへどうぞ~」
ついて行くと、美しく整えられた道や庭に目が行く。大理石の噴水とか、花が咲き誇る庭園とか。
鳥かごみたいな休憩場所もある。ガゼボって言うんだっけ。
きょろきょろしながら歩いていたせいか、気付けなかった。四恩がいなくなってることに。
***
「ちょーちょさん、まってー」
てってってっと、四恩は一生懸命追いかける。紫色の不思議な色合いで、今まで見たことがないちょうちょ。
おねえちゃんにみせたい!
その一心で、ひらひら飛んでいくちょうちょに、一生懸命ついて行く。
小さな手を伸ばしても、絶妙なところでひらりと逃げてしまう。
「うー、まってー」
屋敷の中に入り、夢中で追いかけた結果。
「あれ~……?」
薄暗い廊下に、四恩はぽつんと立っていた。
きょろきょろと周りを見てもちょうちょは見当たらず、お姉ちゃんはどこにもいない。うろうろするも、誰かが来る気配は無い。
「うぅ~……」
うるうると丸い目に涙が溜まり、こぼれそうになった時。
「坊や、迷子ですか?」
穏やかな声に振り向くと。いつの間にか、優しそうな笑顔を浮かべた男の人が、四恩に目線を合わせるようにしゃがみこんでいた。
***
「……あのね、おねえちゃんと来たの。でも、きれいなちょうちょさんを追いかけてたら、はぐれちゃった」
たどたどしく言葉を紡ぐ少年の話を聞くからに、彼は私が呼んだ人の弟さんのようで。
説明してくれたのは助かったのですが、この子の防犯意識は少し注意したほうがいいかもしれませんねぇ……。
知らない人相手に、警戒心が全くといっていいほどない目。少し心配を覚えながら、私は彼を抱き上げました。
「じゃあ私と、お姉さんを探しましょう。きっと見つかりますよ」
「ほんと?!」
「はい。さて、一肌脱ぎましょうか」
***
別の部屋では、一花がやきもきしていた。
メイドさんに「ここでお待ちください」って言われたけれど、四恩が心配すぎる……。ちゃんと手を繋いでおけばよかった……。
「どこ行っちゃったんだろ……」
ムムム……とうなっていたとき、ドアがゆっくり開いた。
「あ! ……あれ?」
思わず立ち上がった私は少し困惑した。
そこにいたのは、蝶の髪飾りをつけた小さな女の子だった。そしてその目は、涙でいっぱいだったのだ。
「どうしたの?」
「元のお部屋が、分からなくなっちゃったの……」
駆け寄り、目線を合わせて聞くと、すんすんと鼻をすすりながらその子は答えた。
ぽろぽろとこぼれ出す涙を、そっとハンカチで拭き取り、私は言った。
「大丈夫。もうすぐ誰か来ると思うから、ここでお姉ちゃんと待ってお部屋を聞こう?」
頭をなでなでしながら笑いかけると、その子は落ち着いてくれたようで、笑ってくれた。
トントン。
その時丁寧なノックが聞こえ、ドアが開いた。
そこにいたのは、優しそうな男性。そして彼の腕に抱かれていたのは。
「あ! 四恩!」
「わぁ、おねえちゃん!」
「もうどこ行ってたの!」
「ごめんなさーい!」
「心配したんだからねー!」と言いながら、私は駆け寄ってきた四恩を抱きしめた。
「リリィ!」
「おや、こちらにも迷子がいましたか」
女の子をよしよしとなでている男性に、私は頭を下げる。
「弟を連れてきてくださって、ありがとうございます!」
「いえいえ。こちらこそ、ルシアの相手をしてくださってありがとうございます」
物腰柔らかに彼が言う。でも何で胸元とかはだけてるのかな。少し目のやり場に困る。
「スノウリリィと申します。来てくださって嬉しいです。お名前は?」
「加々宮 一花です」
スノウリリィ。綺麗な名前だ。雪のユリ?
「それでは一花さん。私についてきてください」
「ぼくは?」
「あぁ、四恩くんは……」
「「……私たちと、来てくれる?」」
息ピッタリの少女の声。
いつの間にか髪の長い女の子と、短い女の子が立っていた。ピンクの髪とか顔立ちとかそっくりだから、双子かな。
「ユリー、マリー。皆の輪に入れてあげてください」
「「……うん。……君、こっちだよ」」
「はーい!」
「おやつ、一緒に食べよ?」
「わぁ、おやつ?!」
我が弟ながら、可愛がられる属性だよね~。
歓声を上げながら、3人の女の子に連れられて行く四恩。それを見送りながら、私はそう思った。
「ふふ、あちらは仲良くなれそうですね」
「ですねぇ~」
「さて、一花さんにも仲良くなってほしい子がいるんですよ」
足音が聞こえないほど、ふかふかの絨毯。それが敷かれた廊下を進みながら、リリィさんが言う。どこか楽しげな雰囲気の彼に首をかしげた。
「そういえば、何で先生じゃなく生徒を頼んだんですか?」
ふと不思議に思って聞くと、彼は穏やかな声で答えた。
「御園に、同年代の子と話す機会を、たくさんあげたかったんです」
アリスくんのこと、気にかけてるんだな~。いいお兄さんだ。
「つきました、この部屋です。何かあったら呼んでください。すぐに参りますね」
そう微笑むリリィさんにうなずき、私は一際立派そうなドアに手をかけた。
部屋の中は少し薄暗い。でも目を凝らすと、けっこう大きめの家具や立派な内装が見えた。
「おじゃまします」
「だ、誰だ貴様! なぜ僕の部屋にいる?!」
声をかけると、小柄な少年ががばっとベッドから起き上がり、動転したような大声を出した。
そういえば、クラス同じって言ってもほとんど話したこと無かったなぁ。
「初めまして。クラスメートの加々宮 一花です。改めてよろしくね」
やや警戒してるような雰囲気の彼に、私はプリントを差し出した。
「はい。休んでる時のプリント、持ってきたよ」
すると、彼のアホ毛がぴくりと動き、強ばったような表情が少し緩んだ気がした。警戒してるような雰囲気も緩む。
「…………あの、あ、あり……」
「?」
アリ?
彼の言葉を待つと、彼はそわそわと視線をさまよわせながら。
「……あ、……ありが、と……」
ほっぺたを赤くして、もじもじしながら、絞りだすように言った。それは口の中でつぶやくような音量だったけど、ちゃんと聞こえた。
「どういたしまして!」
貴様とか言っちゃっても、可愛いところあるんだねぇ。思わず顔がほころぶ。
「……お、おい貴様、何笑ってる」
「いや~アリスくん可愛いところあるんだなって」
「誰がアリスくんだ! 僕は有栖院 御園だ!! そして誰が可愛いだ!!」
思ったことを正直に言ったら怒られた。
まぁまぁ、となだめると、アリスくんは不服そうにムスッとした。
メイドさんが持ってきてくれたお茶と、干しぶどうのケーキを頂いていると、アリスくんが話しかけてきた。
「……味はどうだ」
「美味しいよ〜。メイドさんにレシピ教えてもらいたいな」
「……食べたいなら、僕の家に来ればいいだろう」
「家族にも食べさせてあげたいし、自分で作ってみたいからね」
そう言うと、アリスくんは豆鉄砲をくらったみたいに目を見張った。
「……自分で料理をするのか?」
「うん。いつもは母さんがしてるけど、よく皆で手伝うよ」
「……皆?」
「うち、4人姉弟なんだ。弟の1人は一緒に来てるよ」
「……そうか……」
そうつぶやき、アリスくんは目線を窓の方へ向けた。なんだか、さびしそう……?
「アリスくんは、いいお兄さんいるよね」
「は……っ?」
そう言うと、アリスくんが振り向いて眉間にシワをよせた。不可解そうな、嫌そうな表情に驚く。
「あれ、リリィさんってアリスくんのお兄さんじゃないの?」
「違う! そもそも僕は似てないだろう、あんな脱ぎ魔と!」
「ご、ごめんなさい」
心外そうにぷんすかするアリスくん。
思えば確かに、髪色とか、体格とか背丈とか似てなかったな……。これ言ったらもっと怒られそうだから、胸に秘めておこう。
そうして話していると、柱時計が5回鳴った。
「そろそろ、おいとましようかな」
「……もう、か?」
「うん。夕ご飯の時間に遅くなっちゃうし」
カバンを持って部屋のドアに手をかけた私は、はたと足を止めた。
「そういえばアリスくん、このお家で小さい子たちが集まってる部屋ってどこ?」
「……その前に1ついいか」
「? うん」
「アリスくんという呼び方はやめろ! イエス以外の返答は却下だ!」
「えー、可愛いのに」
「イエスと言わないと帰さないぞ……」
「靴を隠す小学生男子か!」
そんなに嫌だったのかな……。
さすがに帰してもらえないのは困るため、私はしぶしぶうなずいた。
「イエス。じゃあ呼び方は御園くんでいいよね?」
「分かればいい」
すると彼は少しふらつきながらベッドから降りた。上質そうな生地のパジャマに上着を羽織った彼に、私は少し面食らう。
「え、起きて大丈夫なの?」
「あらかた回復したから問題ない。弟を迎えに行くんだろう?」
一緒に行ってくれるのかな。
「ありがとう! じゃあさっそく行こー」
「っおい貴様! 手を引っ張るな!」
御園くんが案内してくれた部屋には、たくさんの子どもたちが遊んでいた。
そんな中、四恩に「帰るよー」と声をかけたものの……。
「まだみんなとあそびたい〜……」
はい。本人しゃがみこんでイヤイヤと抵抗しています。
「だめ。夕ご飯の時間遅くなっちゃうよ?」
「うー……」
うるうるうる、と効果音がつきそうな目で、じーーっと見られる。
策略なしでやってるのは分かるけど、お姉ちゃんその手には乗らないよ。
「御園くん、また来ていい?」
聞きながら、よいせと四恩を抱える。じたじたと動く四恩を、何とか抱え直した。重くなったねぇ。
「どうしてもというなら、別に構わないぞ」
「! また来ていいの?!」
パアアッと、とたんに四恩が顔を輝かせて、御園くんを見た。
「あ、ああ」
「お兄ちゃんありがとう!」
満面の笑顔で四恩が言う。お兄ちゃん呼びが嬉しかったのか、御園くんが頬を赤らめた。
その後、メイド長のやまねさんやリリィさん、子どもたちや御園くんに見送られて私たちは家に帰った。
***
手を振る2人を乗せた自転車が見えなくなった後も、僕はその場から動かないでいた。
女子と話すなんてほぼ初めてで、城田たちと同じような接し方になってしまったけど、彼女は気にせずに話してくれたと思う。
「御園、一花さんとはどうでしたか?」
「そうだな。まあまあ話しやすかったぞ」
にこにこしながら聞いてくるリリィに、少し照れくさくてそっぽを向きながら答える。
「ユリーやマリーたちも好きになったみたいですし。また来てくれる日が楽しみですね」
「……ああ」