2人の天使
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長方形の画面の向こう。耳につけたイヤホンの奥から、ピアノの音色が流れる。よどみなく紡がれるそのメロディは、まるで天使が奏でているかのようだった。
───この透き通った清らかな調べを、私は知っている。
幼い頃の記憶が、蓋を開けたオルゴールのようにあふれ出す。
クリスマスに彩られた教会。つやつやと光る黒いピアノ。そこから紡がれる神聖なメロディ。
同じ年くらいの男の子。それを見つめる小さな私。
「あ……」
いつの間にか、頬にぽろぽろと雫がこぼれていた。
目の奥からあふれる涙を拭きもせず。私はベッドに横たわり、彼に創り出される至純な世界に体を預けていた。
懐かしさに目を閉じながら。
***
8歳の時、天使を見た。
オーストリアの教会で開かれた、クリスマスコンサート。ピアノ演奏として招待された俺は、そこで1人の少女に出会った。
あどけなく、透き通るような歌声。
羽を伸ばす鳥のように、伸びやかな響き。
安らぎと純粋な祈りにあふれた清らかな賛美歌が、教会中を優しく包み込んでいた。
「鳥のさえずりのようだ」
「いいや、あれはまさしく天使の歌声だ」
周りの大人達がそう賞賛する声を聞きながら、俺はその少女から目が離せなかった。
なんて楽しそうに歌っているんだろう。
俺と同い年くらいなのに、なんてキレイな声で歌うのだろう。
白いベレー帽とローブを身につけて、晴れやかな笑顔でソロを歌っている少女の姿は、まさしく天使だった。
俺は幼いながら、どうしようもなく惹きつけられていたのだ。
彼女と一緒に音楽を奏でることができたら、それはどんなに素敵なことだろう。
その思いは、今も変わらずそこにある。