呪術のすごさは折り紙付きです!
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「実は今年の新入生って、4人いるんだよね〜」
天気の話でもするような気軽さで、担任の五条 悟は、3人の1年生にそう話した。
「え、俺たちの他にもまだいんの!?どんな子?」
「男?女?」
聞いてませんけど、と言いたげな顔をした後、五条を質問攻めにしようとする虎杖 悠仁と釘崎 野薔薇。そんな様子にため息をついてから、伏黒 恵は2人の肩を掴んだ。
「女だ。俺と同じタイミングで入学したが、準2級呪術師の試験を受けるために、学校を休んでる」
「そうそう。ちなみに無事、試験に合格したそうです!いやーめでたいね。そんで明日、学校に戻ってくるから、悠仁と野薔薇に改めて紹介するね」
それを聞いた釘崎は、自分が紅一点で無いことに少しがっかりしたようだが、同性ということで興味を持っているようでもあった。
虎杖は新たな仲間に会えるということで、特に深読みせずに喜んでいた。
***
翌日。虎杖と釘崎が彼女に会ったのは、学校の中ではなく、五条に指定された待ち合わせ場所の公園でだった。
「初めまして、三椏 千代です!よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げたとき、耳の下で2つに結んでいる黒髪が、さらりと揺れる。ほどけば背中を覆いそうなくらいに長い。
好きなようにカスタムできる制服は、ポケットが付いた立襟の上着にキュロットパンツを組み合わせていて、動きやすそうだ。
人懐っこい笑顔で歯切れよく喋る様子は、一般の女子高生となんら変わりない。あまり呪術師らしくない雰囲気の子だった。
「俺、虎杖 悠仁!よろしくー」
「釘崎 野薔薇よ」
話しやすそうな子だと判断した虎杖は、握手を求めて片手を差し出す。三椏は嬉しそうにその手を握り、釘崎の手も自分から握った。
「五条先生に伏黒くん!お久しぶりです!」
「久しぶり〜。変わらず元気そうで何よりだよ、千代」
「……おう」
「伏黒くん、私がいない間何かあった?」
「特に何も」
ふれあい広場で子犬にじゃれつかれたような、無下にできなくて迷ってるような顔で、伏黒が返事をする。そんな伏黒をにやにやしながら眺めた後、五条はぱんと手を叩いた。
「さて。これから準2級成り立ての千代に、呪いを祓ってもらいます!悠仁は千代の近くで見学ね」
「え、何で?俺も戦えるよ?」
「悠仁はこの業界入り立てでしょ?少しでもたくさんの術師の戦い方を見て、今後の参考にしてもらいまーす。いい?2人とも」
素直に了承した虎杖と三椏を、満足そうに見てから、五条は1年生たちを連れて歩き出す。
「そのリュック、何入ってんの?」
1歩踏み出す度に、がさ、がさ、と微かに音がするリュックを指さして、虎杖が質問した。すると三椏は、無邪気な企みを思いついたように、ニッと笑ってみせる。
「私の武器だよ」
***
徒歩5分くらいのあまり離れてない場所に、その廃ビルはあった。ホコリや砂でざらざらしている床を踏みしめ、中に入る。
「"胡蝶"」
三椏が、ポケットからリボンのような形に折った紙を取り出し、一言呟いてから息を吹きかけて浮かせる。
すると折り紙が本物のチョウに変わり、ぱたぱたと三椏の周りを飛び始めた。
「おぉ、本物になった!」
「私の術式だよ。伏黒くんと同じ式神なんだ」
「偵察してきて」と三椏が声をかければ、チョウはどこかへ飛んでいく。
「私たちも行こうか」
静かな建物の中を歩いていく。1階に呪いの気配も姿も無く、俺たちは2階に繋がる階段を登った。
そのとき、ふわりふわりとさっきのチョウが戻ってくる。三椏が人差し指を差し出すと、チョウはそこで羽を休めた。
「なるほどね、3階か。数は多そう」
「チョウと、どうやって情報伝達してんだ?」
「この子と視覚を共有して、この子が見てきたものを見せてもらってるよ」
便利そう、と思いながら、三椏について行く。同じ式神でも、伏黒が出してた犬とは全然違う。呪術師の性格で変わるんだろうか。
階段をまた登って3階にたどり着くと、そこには呪いがうじゃうじゃいた。大きいのも小さいのも、色々いる。
「うわ、めっちゃいる。大丈夫?」
「うん。これくらいなら平気だよ。心配してくれてありがとね」
俺たちがいることに気づいた呪いが、こっちに一斉に向かってくる。三椏は背負っていたリュックを下ろし、チャックを開けて中に手を突っ込んだ。
「せっかくだし、一掃しちゃおっか!」
明るい声が響き、手がリュックに入っていた"それ"を、勢いよく引っ張り出す。
バサァッと大きく揺れたそれは、赤、オレンジ、黄色、緑、青……とにかく様々な色で溢れていた。
カラフルなそれの1つ1つは、鶴だった。
折り鶴を繋げたものが、お見舞いとかで貰ったりする千羽鶴が、彼女の手にぶら下がっていた。
「……へ?」
あれ?さっき中に入ってんの私の武器って言ってたよね?鶴?え、鶴って戦えるっけ?よく見たら呪いもちょっとぽかんとしてる。いやお前らも驚かなくていいよ。
「鳥葬にしていいよ、"千羽鶴"!」
式神はさっき見せてもらったけど、予想外の"武器"にちょっと混乱した俺のことは気にせず、三椏が千羽鶴を呪いの方へ投げる。
よく通る声が名前を呼んだ途端、折り鶴の1つ1つがすらりと伸び、白と黒に変わった羽を広げた。思わず言葉を忘れるほど、幻想的な光景だ。
本当に千羽いそうだ。たくさんの鶴が、呪いに襲いかかっていく。あれだけいた呪いが、長めのくちばしでついばまれ、次々と消えていった。呪いは1体もこっちに来ていなくて、完璧に制圧している。
「すげー……」
「へへ。すごいでしょ。折るのは大変だけど、良い戦力になるんだよ」
三椏と並んで、呪いが祓われていくのを見守る。正直な感想を言うと、三椏は照れてるようで、自慢もするような笑顔になった。
「あらかじめ折っておいたものがこちらになります!って感じだね」
「3分クッキングかよ!」
2人で話してたら、全部終わったらしい。役目を終えた鶴が、次々と折り鶴の姿に戻っていく。紙の状態を確認してから、三椏はリュックに千羽鶴を仕舞った。
「よし、これにて任務終了。戻ろっか」
立ち上がり、ひょいとリュックを背負い直す三椏と、階段を降りていく。そのとき、三椏が話しかけてきた。
「ちょっと気になってたんだけど、どうして虎杖くんは特級呪物を食べちゃったの?」
嫌悪とか、そういうマイナスな感情は見えない。気になったから聞いてみたような、素直な疑問の声だ。
「んーと……。初めて呪いに会った時は、伏黒も俺の先輩も、俺も危なくてさ。"俺に呪力があれば"って思って。呪いから全員助かる方法が、宿儺の指を食うことだったから、呪いに食われる前に食った……感じ」
「そうだったんだ……。シビアな状況だったんだね。おつまみのピーナッツ感覚でパクッといってたらどうしようと思っててごめん」
「よく分からんけど今めちゃくちゃ複雑な気持ちになった」
「ほんとごめんね」
状況次第ではそうしてたかもしれない。あの時は一か八か吉か凶かの瀬戸際で、なりふり構ってられなかったけど(※原作漫画ではあっさりパクッといってます)。
「でも、教えてくれてありがとう。虎杖くんの事情をちゃんと知ることができてよかった」
三椏はそう言って、安心したように笑った。しっかり話をして、理解してくれるその姿勢は、俺にとってすごく好感が持てる。
なるべく長生きして、一緒に過ごして、仲を深めたい。そう思いながら、俺は三椏と出口を抜けて、皆が待つ場所に戻ったのだった。