鉄屑のコル・スコルピイ
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ここは夏真っ盛りの夏島。補給に立ち寄ったキッド海賊団は、ログが溜まるまでの間、ちょっとしたバカンスを楽しんでいた。仲間が増えたこともあり、全員で海水浴等に興じている。
「おいキラー。セレスはどうした」
ビーチフラッグで勝利をもぎ取ってきたキッドが、辺りを見回す。ダイブやクインシーたちに囲まれて、下ろしたての水着を着てきたはずだが、姿が見えない。
「セレスならあそこだ」
両手にレモネードとシャーベットを持ったキラーが、顎で指し示す。その先にはキッド海賊団が立てたパラソルがあった。そして、日陰の下でぐったりと伸びている人影も。
「おいセレス! 誰にやられた!!」
砂を蹴散らして来たキッドに気づき、セレスはゆっくりまぶたを開く。眩しそうに顔をしかめ、瞬きを繰り返してから、気だるげな声で答えた。
「…………日差しと、熱気……」
「ハ? お前、そんなもんにやられんのか?」
「……暑いの嫌い……。空が青過ぎ……。太陽が目に痛い……」
眉を寄せて呟くセレスの隣に、キッドはどかりと腰を下ろす。
「冬島の冬は平然としてただろうが」
「……寒いのは平気。あのときは、キッドの方が大変そうだった……」
「おれは夏島の夏の方が好きなんだよ」
コート等でもこもこに着膨れして、震えを堪えながら悪態をつきまくっていたキッドを思い出し、セレスはくすりと微笑む。出会ったばかりの頃と比べると、だいぶ感情が出るようになっていた。
「セレス、体調はどうだ」
「少し、マシになってきた」
「冷たいものを買ってきたから、食っておけ」
「ありがとう。キラーさん」
後から来たキラーが、セレスに食べ物を渡す。さっき両手に持っていたのは、彼女への差し入れだったようだ。緩慢な動きで起き上がったセレスは、先にレモネードのストローに口をつけた。
「……美味しい……」
大きめの氷がゴロゴロ入っており、ミントの葉とレモンの輪切りが添えられている。スイカのシャーベットも少しずつ口に運びながら、セレスは穏やかな表情を浮かべていた。
「つれェなら、船にいりゃ良かっただろ」
「……でも、楽しそうな皆を見てるのは、好きだから」
柔らかな眼差しの先には、砂浜ではしゃぐ仲間たちがいた。ビーチバレーで競い合う声と歓声が、ここまで聞こえてくる。
「キッド。ビーチフラッグの1位、おめでとう」
「……見てたのかよ」
「ちゃんと見てた。すごかった」
「当然だろ」
シャーベットの最後の1口を飲み込み、レモネードをちびちびと飲み進める。そんなセレスをキッドは眺めた。ラッシュガードの下は、シンプルなブルーのビキニに包まれている。彼女のすっきりした体つきに、よく似合っていた。
「それ、ヒップたちが選んだやつか」
「うん。ラッシュガードを羽織れば傷は隠せるし、もっと大胆になっていいって言われた」
「似合ってるぜ」
「……ありがとう」
白い頬と耳が赤く染まる。はにかむようにストローを噛むセレスに、キッドは思わず笑った。彼女の照れた顔なんて、滅多に見られるものではない。
「一旦戻る。無理はすんなよ」
「うん」
涼しい日陰の下で風に吹かれながら、セレスはビーチバレーに混ざるキッドを見送る。こんなに賑やかで、穏やかなのはいつぶりだろう。ひんやりと爽やかな酸味と甘みで、喉を潤しながら考える。
女子のクルーが増えて、ガールズトークをすることが多くなった。水着の話。ファッションの話。アクセサリーの話。セレスが能力の鍛錬を兼ねて、金属でアクセサリーを作るとき、アドバイスやリクエストを貰うこともある。
この前は寄ってたかってメイクをされた。コンシーラーでクマを消す。ピンクの下地とチーク、ローズピンクのグロスを使って、血色を良く見せる。それだけで、陰気そうだった印象ががらりと変化した。
「セレスの顔、めっちゃメイク映えする!」
「見て見てお頭〜! 可愛いでしょ〜!」
船内を練り歩く勢いで見せびらかされたのは、未だに照れくさい。でも、嫌な気分にはならなかった。
――あの子も一緒に、大人になれてたら。こんな風に、お洒落を楽しめたのかな。
氷の冷たさと共に思い浮かぶのは、かつての親友の姿。茶色い髪を2つに結んで、明るく笑う小さな女の子。おぼろげになってしまったけれど、まだ思い出せる。忘れていないことを確かめるように、そっと名前を唱えた。
「…………ラミちゃん……」