推定ザシキワラシへの餌付け事情
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「ただいまー」
「おう。帰ったか」
防犯対策のために、声をかけながらアパートのドアを開けると、返事が来た。ひょこりと部屋を覗けば、あぐらをかいたキッドがいる。またテレビを見ていたらしい。
「3日ぶりだね。ご飯食べた?」
「まだ食ってねェ」
「了解。今から夕飯作るよ」
リュックを下ろしてエプロンをつけ、キッチンに向かう。ハンドソープで手を洗ってから、冷凍庫を開けた。せっかくキッドが来たし、今日は買っておいたコレを使おう。ほくそ笑みながら袋を取り出し、中身を鍋に入れる。
水とコンソメキューブも入れて、火にかける。本来のコンソメスープを作ろうとすれば、牛すね肉と香味野菜からブイヨンを取って、牛挽肉と野菜と卵白を混ぜて煮込んで、アクも取って最後にこして……。こんな感じで恐ろしく手間も時間もかかる。キューブ1個で美味しいスープが手軽に食べられるなんて、この時代に産まれてよかった。ありがとう開発者さん。
煮立ったら大さじ2のケチャップを加えて、ゆっくりかき混ぜる。簡単トマトスープ風になるから、よく使う手だ。煮込む間に解凍しておいたご飯を出せば、出来上がり。
「ほい。今日はロールキャベツでーす」
「!」
冷凍のロールキャベツ入りスープが入ったお椀を置くと、キッドの目がキラリと輝いて見えた。美味しそうなものが目に入ったときの反応、意外と変わらないな。初めて会ったときのことを思い出しながら、良いリアクションに頬が緩んだ。
***
いつもより早いペースで、キッドは今日も綺麗に完食してくれる。食器を洗い終えて一息ついた頃、キッドに声をかけられた。
「手出せ」
「?」
首を傾げながら、両手を器みたいな形にして出す。そこにキッドが何かを乗せた。ずし、と重みが伝わるそれは、何とも豪華なネックレスだった。
「……ぅわぁ…………」
鎖は金で、どデカいルビーみたいな赤い宝石が、いくつもギラギラ光っている。小さいダイヤに縁を囲まれていて、虹色の輝きが目に染みた。何これ強そう。こんなの博物館とか美術館とかでしか見たことない。
「え、あの、なに、コレ何」
「やる。今までの礼だ」
「……いや、その、気持ちだけ貰っとくよ……」
「はァ!? 何でだよ受け取れよ!」
「だってこんなのどこに付けてけばいいのさ?! 重いし派手だし服に合わないし! そもそもこんな高そうなの貰えないよ! いくらしたのこれ!」
「知らねェよ。潰した海賊団から強奪してきた」
「盗品なんかもっといらない!!」
押し付けるように突き返す。人から奪ったものを人に贈ろうとするな。できれば元の持ち主に返してきなさい。異世界の倫理観の無さを見せつけられたようで、変な汗が出る。
「何でだよ! 一番デカくて見栄えするやつを持ってきてやったんだぞ!」
「頼んでないし趣味じゃない! 盗品は持って帰って!」
「チッ……!」
キッドはネックレスを握りしめて、眉間に深くシワを刻み、めちゃくちゃ不機嫌そうに舌打ちした。その鋭さにビビる気持ちと申し訳ない気持ちが湧くけど、頑張って押しとどめる。学生が持ってていい代物じゃないし、見つかったら怪しまれる気しかしない。
顔を背けたキッドが、私のリュックにふと目を止める。
「……んだコレ」
「私のリュックだけど」
「そうじゃねェよ。こっちだ、こっち」
太い指が、リュックにつけていたバッグチャームにふれる。歯車と羽の形の金属を組み合わせたもので、落ち着いたアンティークゴールドが鈍くきらめいた。
「ハンドメイド作家さんの、即売会で買ったやつ。スチームパンクっぽくてお気に入りなんだよ」
「スチームパンク?」
「えーと……、蒸気機関が発達した、もしもの世界観? 機械部品とか、蒸気メカがモチーフになってんの」
怪訝そうに顔をしかめながら、キッドがチャームをじっと見つめる。穴でも開けるんじゃないかと思うくらい、まじまじと。やがて気が済んだように、手と目線を離した。
***
「手出せ」
「え、やだ」
「いいから出せ」
数日後、また来たキッドに腕を掴まれた。手のひらに置かれたものを恐る恐る見ると、いい感じにくすんだ色合いが見える。
「……わぁ……!」
それは、小さな歯車やネジ、金属の板を組み合わせた、丸いペンダントトップだった。時間の経過を感じさせるけど、磨き込まれてるようなツヤがある。銀色の鎖が通されていて、首にかけやすそうな軽さだった。
「えーかっこいい! これどうしたの?」
「集めた金属で作った。いらねェなら捨てろ。元々鉄クズだ」
「えっ、キッドの手作り……!?」
手先が器用なイメージは無かったから、驚きだ。あんな無骨な手で、こんな小さい部品を組み合わせて、わざわざ作ってくれたんだ。そう思うと、手のひらにあるペンダントが、ほのかに温かく感じた。金属製で冷たいはずなのに。
「へぇー。ふーん……。意外と器用なんだあ」
「おいニヤニヤすんじゃねェ」
「私へのお礼のために? 私がこういうの好きって覚えて? わざわざ作ってくれたんだ?」
「調子乗んなよ! 難癖つけてきたのはテメェだろうが!」
頬を赤くして怒鳴られても、全然怖くない。でも、からかうのはこの辺にしておこう。両手でペンダントを包み込みながら、私はふわりと唇をほころばせた。
「ありがとう。大事にする」
「……お前、変わってんな。おれが言うのもなんだが、宝石と比べりゃガラクタだろ」
「私にとっては、こっちの方が価値があるから、いいんだよ」
どんなに綺麗で価値がある財宝でも、誰かから奪ったり盗んだりしてきたものじゃ、意味が無い。それより、私のことを考えて用意してくれたものの方が、ずっと嬉しかった。