喫茶ワルツでひとやすみ
「ここか。ナミさんとロビンちゃんが言ってた店は」
「わぁ……! ブルックみたいな、いい匂いがするな!」
その日やって来たのは、ちょっと変わった2人組。黒いスーツを着た金髪の男性と、角が生えている小さな生き物だ。トナカイみたいな角の彼に、子ども用の椅子を勧めながら、グレイが優しい調子で尋ねる。
「お客様。お砂糖やスパイスは、食べても大丈夫ですか〜?」
「平気だぞ。甘いのは大好きだ!」
「聞いてた通り、茶の種類が豊富だな……」
手作りのメニューにじっくり目を通しながら、金髪の男性が言う。あれこれ話して、何度かめくってから、2人は注文をしてくれた。
「サンドイッチと、それに合う紅茶を頼む」
「おれ、日替わりのケーキと紅茶! とびきり甘いやつ!」
「承りました〜」
お任せは、腕の見せどころだ。グレイが受けてくれたオーダーをもとに、食材の準備をする。ケーキは事前に焼いておいたのを、軽く温めておこう。
まずは細かい紅茶の茶葉を濃いめに抽出し、コンデンスミルクと砂糖を加える。2つのカップを使い、交互に移し替えるようにして混ぜていく。お茶を引き伸ばすようにして作ることから、この名前がついたらしい。きっとトナカイっぽい彼の要望に合う味だろう。
もう1つ温めたポットには、ディンブラの葉を入れて、お湯を一気に注ぐ。茶葉が上下にジャンピングするように。苦味と甘みのバランスがいい紅茶の優等生だから、肉系のサンドイッチでも合いやすいのだ。
***
「お待たせしました。日替わりのケーキはトリークル・タルト。お茶はテー・タレッです」
「こちらはハムサンドと、蒸し鶏のサンドイッチ。紅茶はディンブラを用意しました」
チョッパーの前に置かれたのは、シンプルな飴色のタルトと、カフェラテのように泡立ったミルクティー。サンジの前には、2種類のサンドイッチと、ティーセットが並べられた。
「いただきます」
「いただきます!」
チョッパーがさっそく、グラスに口をつける。こくこくと喉を鳴らして、もこもこの泡をヒゲのようにつけて、丸い目がキラキラと輝いた。
「濃厚で甘ェ〜〜! おれ、これ好きだ!」
「……なるほど。シンプルだからこそ、作り手の腕の良さが分かる。紅茶の選び方、入れ方も悪くねェ。スッキリしてて飲みやすい」
サンドイッチをかじり、紅茶を含みながら、サンジも舌を巻く。じっくり味わう様子は、技を盗もうとしているようだ。コックとして鍛えてきた味覚で、調味料を探ることも忘れていない。
「! このタルトも、初めて食べたけどすっげェ甘ェ!」
「甘ッ」「ウマッ」を繰り返すチョッパーの顔は、糖蜜のようにとろけそうだった。トリークル・タルトは、ショートクラストの生地に、パン粉とゴールデンシロップとレモン果汁を染み込ませたフィリングを流して作る。かなり濃厚な甘さだが、バランスを取るように、甘くない生クリームが添えられていた。
「「ごちそうさまでした」」
***
「甘さは大丈夫でしたか?」
「すっげェ美味かった! おれ、また食いたい!」
「ありがとうございます」
「『ワルツ2号』って看板があったが、アンタもしかして、『ワルツ』の2代目店長か?
「そうです! ご存知なんですか?」
「おれも東の出だからな。話は少し聞いたことがある」
話を聞くと、金髪の青年は
「またのご来店、お待ちしております」
「初めまして、凛々しいレディ♡ 貴女の美しさに射抜かれてしまったこのおれに、名前を教えていただいても?」
「何だこいつ殴っていいのか」
「止めなさいニルギリお客様だぞ」
「抑えて抑えて〜〜!」
会計を済ませた彼らに、ニルギリが声をかける。さっきまでのクールな様子はどこへやら、熱い眼差しで口説き始めた青年に対して、ニルギリは拳を握った。慌ててグレイと2人がかりで、腕を下ろさせる。
「悪い。不審者かと思った」
「ちゃんと注文してお金払ってくれた人たちだからな」
「ディンブラの料理、美味しいって言って、キレイに食べてくれたよ〜」
手を振る2人を見送ってから、ニルギリに注意する。お皿を下げてくれたグレイも、ひょこっと顔を出して言った。
全員気を取り直して、仕事を再開する。ランチタイムはまだ終わらない。