喫茶ワルツでひとやすみ


「とと、なにしてるの?」

リストを確認しながら、お茶の缶を箱に詰めていたとき。ルフナがとてとてと近寄ってきた。腕に抱えている、うさぎのぬいぐるみは、グレイが作った「モルティ」だ。ルフナは縮めて、「モル」と呼んでいる。

「お客さんに、お茶を届けるんだよ」
「おきゃくさん?」
「そう」

お茶の販売を始めてから、だいぶ経つ。今ではいろんな人が買ってくれるようになって、嬉しい限りだ。伝票を貼り付けた箱を、1つ1つ指さしながら、ルフナに語る。

「これは、海軍本部のセンゴクさんへ。緑茶と玉露」
「こっちは、フォレスト冒険団の人たちに。夏摘みダージリンとアールグレイ。それから、パイナップルのフレーバーティーに、ドライパインとハーブのお茶」
「そっちはハートの海賊団の、トラファルガーさん宛て。ほうじ茶と、カモミールティー」
「あと、ここには無いけど。ビッグマム海賊団宛てのもあるぞ。生クリームやシフォンケーキに合うヌワラエリヤ。苺に合うキャンディ。チョコレートと相性がいい、ウバにアッサム。あそこトン単位で買ってくれるんだよな。ありがたいや」

「"とん"ってどのくらい?」
「1トンで、ゾウさん1頭分くらいだな」
「しゅごいねえ」

両腕を広げながら言うと、ルフナは首をかしげてから、感心したように頷いた。作業も一段落したし、ひと休みしよう。彼女の頭を撫でてから、おれはそっと立ち上がる。

「さて、そろそろおやつの時間にするか。今日はアップルパイだぞ」
「わぁい! ととのおやつ、すち!」

手を繋いでダイニングに向かう。紅茶はおれと同じ名前のものを入れよう。シナモンを使った焼き菓子や、カスタードを使ったお菓子と相性がいいから。

「ねぇ、とと。るぅも、ととたちとおなじの、のみたい」
「ルフナにはまだちょっと早いなあ。4歳のお誕生日の、お楽しみにしような」
「え〜〜」
「今日はとっておきのりんごジュースがあるけど、嫌か?」
「! やじゃない!」

首をぶんぶんと横に振るルフナに微笑んで、おやつの準備をする。焼きたてのアップルパイは、飴色の表面がつやつやだ。フォークを刺すと、薄く層になった生地がパリパリと音を立てる。1口食べれば、煮込んで柔らかくなったりんごの甘酸っぱさと、シナモンのいい香りが口の中に広がった。

「おいち〜!」

幸せそうな満面の笑顔を見てると、甘酸っぱい気持ちが胸に広がる。まだ少ししか食べてないのに、お腹が満たされるような気分だ。癖が無くてシンプルな味わいの紅茶を口に含みながら、ルフナが食べるのをしばし見守る。

もぐもぐと頬張っていたルフナが、ストローでちうちうとりんごジュースを吸う。喉を詰まらせないように気をつけてて偉い。一息ついてから、ルフナがふと思い出したように尋ねてきた。

「とと。なんで、るぅたちのおうちは、"わるつ"っていうの?」
「『ワルツ』っていうのは、元々おれのおばあちゃんがつけた名前なんだ」

おばあちゃんはもともと、けっこう良い家柄のお嬢様だったらしい。料理人で幼なじみのおじいちゃんと恋に落ち、ご令嬢らしからぬ決断力と行動力で駆け落ちした。そして見事イーストブルーまで逃げ切り、一般人としての生活を始めたらしい。

「おばあちゃんの口癖だったんだよ。『幸せは、陽だまりでワルツを踊っているような気分のこと』ってね」
「穏やかで、満ち足りていて、自由。来てくれた人が、そんな気分になってくれたらいい。そんな思いが込められてるんだよ」

好奇心旺盛で勉強熱心なおばあちゃんは、みるみるうちに世間に馴染み、働くようになった。まるで産まれた時から、そうだったように。

アフタヌーンティーの文化をよく知るおばあちゃん。高水準の腕前を持つおじいちゃん。そんな2人のセンスが合わさった結果。おしゃれで料理が美味しくて、それでいて気取らない絶妙のバランスを持つ喫茶店が生まれたのだ。

「ふーん」

丸っこい目でおれをじっと見上げて、ルフナが相槌を打つ。伝わってるといいな、と見つめ返すと、隣に座るルフナはぴとっとおれにくっついてきた。

「ととだいすち」
「おれもだいすち」

温かい。可愛い。愛おしい。そんな思いがあふれて言葉がつられる。ぎゅっと抱きしめると、ルフナはきゃらきゃら嬉しそうに笑っていた。
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