安心毛布は煙色
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「スモーカーさんのお家、ですか?」
マリンフォード、とスモーカーさんたちが呼んでいた島に、到着した日。船から降りる前に、スモーカーさんに呼び出された。休憩室のソファに、私とたしぎさんが並んで座り、その向かいにスモーカーさんが座る。
そして切り出されたのは、私の今後について。身寄りもない、家もない、お金もない。地理も詳しくないし、常識もちゃんと知っているとは言いがたい。無い無い尽くしの私が、1人で働き口や雨風をしのげる場所を探すのは、不可能に近い。
更に突然この世界に来た身だ。帰るタイミングも、何がきっかけになるか分からない。だったら、スモーカーさんの家に住まわせた方が、安全に監督できる――とのことだ。
「とてもありがたいんですが……。あの、たしぎさんのお家ではダメなんでしょうか?」
「すみません。私が生活している場所は、海軍が管理してる隊舎なので、部外者は入れないんです」
たしぎさんが、申し訳なさと心配が混ざったような顔で言う。それなら仕方ない。でも男の人と女の子が、ひとつ屋根の下で暮らすのは、いろいろ問題があるんじゃないか。
うぅん、と微かにうなりながら、口元に手を当てて考え込む。スモーカーさんのことは、何だかんだ優しい人だと思ってるけど。だからと言って、家族でもない男の人の家に、何も考えずに上がり込めるほど、私は幼くないつもりだ。
「心配しなくても、お前みたいなガキを取って食ったりしねェ。……それとも何だ、期待でもしてるのかね。お嬢さん?」
「お嬢さん!?」
いつも荒っぽいようなスモーカーさんらしくない、丁寧さを帯びたような言葉遣いに驚く。表情はいつも通りなのに、彼にしては珍しく、からかうような響きの声だ。恥ずかしさに、頬が熱くなる。
「き、期待はしてませんけど! スモーカーさんのことは疑ってない、ので……。お世話になります。よろしくお願いします!」
深々と頭を下げると、ぽんと頭に手が置かれる。それからわしゃわしゃと、かき混ぜるように動かされ、頭が揺れた。ああ、そんなにされたら、髪がぐしゃぐしゃになってしまう。でも不思議と、彼に頭を撫でられるのは、嫌じゃなかった。
***
通学用のリュックを背負い、スモーカーさんの後について行く。初めて見る街並みに目移りしてしまうけど、はぐれたら大変なので、置いていかれないように足を動かす。
到着したのは、街から少し離れた、丘の上にある一軒家だった。石造りでいかにも外国の家っぽい。スモーカーさんの身長でも、楽に入れるくらい大きなドアをくぐる。
「お邪魔します」
土足で家に入るのは初めてだ。そろそろと足を踏み入れると、木や土のような香りに、スパイスが混ざったような匂いが鼻をくすぐる。多分、スモーカーさんの葉巻が、壁や空間に染みついているのだろう。
高い天井。カーペットや家具は、モノクロを基調としたシンプルなデザインだ。物は全体的に少なめで、部屋が更に広く感じる。窓からは、青い海が広がっているのが見えた。男の人の部屋ってこんな感じなんだなと、きょろきょろ見回す。
「空き部屋があるから、そこを使え。掃除は必要だが、葉巻の匂いはしねェはずだ」
1つの部屋のドアを開けて、スモーカーさんが言う。中はがらんとしていて、確かにリビングとかと違って、いぶされたような煙の匂いはしなかった。代わりに微かな埃の匂いがする。
個室をもらえるのは、とても助かる。異性と暮らす上で必要なのはもちろんだが、スモーカーさんは歩く副流煙と言ってもいい程の喫煙者だ。物理的に息がしやすい環境は、住まわせてもらう上で不可欠だった。
「荷物を下ろしたら、買い出しに行く。必要なものがあれば、紙にまとめておけ」
「は、はい」
リビングの隅にリュックを置かせてもらい、中からスケジュール帳とボールペンを取り出す。罫線が引かれたページを開き、必要なものを思い浮かべながら、カリカリとメモをした。
何がいるだろう。歯磨きセットと、最低でも2日か3日分の着替え。タオル。シャンプーやリンス、ボディソープもいるかな。
「あの、お布団とか枕って余ってますか?」
「あァ。予備のを出しとく」
「ありがとうございます」
よかった。寝床の確保も大丈夫そうだ。
「私の分の食器も、そろえた方がいいですかね」
「使ってねェのがあるから、好きなのを使え」
「ありがとうございます。……わぁ、けっこうありますね」
指さされた食器棚を見ると、お茶碗やお皿、湯のみやマグカップ、小鉢等が整然と並んでいた。どれも温かみがある風合いで、手に持つとしっくりと馴染む。ひとつひとつに個性が感じられるデザインだ。
「スモーカーさんって、食器を集めるのが好きなんですか?」
「いや、おれが作ったもんだ」
「えっ、これ全部ですか?!」
「あァ。陶芸が趣味なんでな」
「すごいですね〜……!」
意外な趣味だ。言われてみれば、確かにハンドメイドらしい雰囲気がある。陶芸ってことは、焼き物だよね。黙々と粘土をこねたり、ろくろを回したりするスモーカーさんを想像して、ついクスッと頬が緩む。すごく職人さんっぽい。
***
スモーカーさんの家に置いてもらうことになり、これだけはと決めていたことがある。それは、何もせず、おんぶに抱っこの状態になるつもりはないということ。
自分のことは自分でやり、家事等も積極的に引き受ける。コンロや洗濯機の使い方等をひと通り教わり、新しいルーティンを体に覚え込ませていく。
朝起きて、まず洗濯機を回す。匂い移りが気になるので、私とスモーカーさんの分は別々に洗う。その間に朝ごはんを作る。冷蔵庫の中を見て、ある食材を使う。
「昨日は野菜炒めだったから……。今日は卵料理にしようかな」
卵焼きとウインナーを焼いて、野菜室にあったレタスとパプリカでサラダを作る。主食は炊いていたご飯だ。何とこの世界にも炊飯器とお米があり、見つけた時は、外国に行ったはずの親友と再会したような気分だった。
卵焼きは弱火でじっくり焼くのがポイント。おかげで焦げ目がつかない綺麗な黄色に仕上がった。今日の味付けは、お醤油で甘じょっぱくしてみた。スモーカーさんの分は多めにしておこう。
「おはようございます。スモーカーさん」
「……あァ。おはよう」
用意ができた頃。起きてきたスモーカーさんと、「いただきます」をして食べ始める。
「そうだ。お夕飯、何か食べたいものありますか?」
「何でもいい」
「何でもいいんですか? いいんですね? 私の気まぐれサラダでも文句は言いませんね?」
「…………肉」
そんなやり取りをして、作る料理の選択肢を絞る。スモーカーさんは基本的にこだわりが無いため、私がその日に食べたいものを作っても、文句を言わずに完食してくれる。むしろお皿洗いをしてくれたり、「うめェ」と一言言ってくれたりする。
出勤するスモーカーさんを見送り、洗濯物を干す。家の中を掃除して、足りないものがあれば買い物に出かける。あとは家の中で、現代文の教科書を読んだりして過ごす。
スマホを確認したところ、充電が減る様子は無い。それはいいんだけど、私がここに来た日から、全く時計が進んでいなかった。まるでスマホの中の時間が止まったみたいに。家族に電話をかけてみたけど、聞こえてくるのは電波が繋がらない音声だけ。
インターネットも使えず、動画サイトにも入れない。なぜか音楽再生アプリは使えたため、お気に入りの音楽を流してみる。聞き馴染んだメロディが、懐かしさと安心をもたらしてくれた。
お昼の時間になったら、ご飯を作って食べる。その後は戸締まりをして、地図を片手に街を歩いてみる。図書館を見つけたので、中に入って情報収集。本棚の間を歩き回り、手当たり次第に軽くめくってみる。子ども向けの童話とレシピ本、地理に関する本を借りることにした。
夕方になれば、またご飯の用意。家庭基礎の教科書を片手に、新しいメニューに挑戦する。今日はハンバーグにしてみよう。私も食べたいし。手順に従って、ひき肉と塩コショウ、炒めた玉ねぎ、牛乳に浸したパン粉をこねていく。
こねたものを、分けてまとめて、両手の間で受け渡しをするように空気を抜く。これでほんとに空気抜けてるのかな。疑いながら、強めに片方の手に叩きつけると、形がひしゃげた。楕円形に整えつつ、べちべちべちと作業を繰り返し、真ん中をくぼませてできあがり。
フライパンに油をひいて、温まってからハンバーグのタネを乗せる。じゅわじゅわと音を聞いて、ほっ、とひっくり返し、両面に焼き色をつけてから蓋をする。
そろそろかな、と蓋を持ち上げてひっくり返してみると、いい感じに濃い焼き色がついていた。そのまま蓋を閉じて片面も焼き上げる。
フライ返しの端で中心を刺してみると、透明な肉汁じゃなく、どろりと白くにごったアクのようなものが流れた。え、これまだ火通ってないってこと? フライ返しでハンバーグを押してみると、固めの感触が伝わる。念のため、もう少し蓋をして火を通してみる。
空気はちゃんと抜けていたようで、途中で割れることもなく、しっかり綺麗な形のハンバーグが焼けた。
付け合わせは、レタスとブロッコリー。初めてにしては上出来だ。ご飯とスープもテーブルに並べていると、ドアの開閉音がする。帰宅したスモーカーさんだ。
「おかえりなさい! ちょうどご飯できましたよ」
「あァ。すぐ貰う。いつも悪ィな」
「いえいえ〜」
背中に正義の文字を背負ったジャケットを脱いで、スモーカーさんが自室に戻る。部屋着に着替えた彼と食卓につき、手を合わせた。
ハンバーグをお箸で、半分に割ってみる。赤いところは全くない。予想通り、ちゃんと焼けてるみたいで安心した。キャベツを食べてから、ハンバーグを端から切って、口に運ぶ。ソースが無くても大丈夫なくらいの、塩加減とコショウの風味。これはご飯が進む。
「うめェな」
「そうなんですよ。初めてなんですけど、上手く出来ました! ところでスモーカーさん。何でも美味しいって言ってくれますけど、たまには正直な感想を言ってもいいんですよ?」
「おれがそんな気ィ遣えるヤツに見えるか」
「確かにマイペースだし我は強いしゴーイングマイウェイな人だと思いますけど、人を傷つけないための嘘はつきそうな気がします」
「買い被ってるところ悪ィが、おれァ不味いもんを美味いと言うほど、器用じゃねェ」
スモーカーさんはそう言いながら、ハンバーグとご飯をもりもりと食べていく。1口が大きいから、料理がみるみるうちに減っていった。スモーカーさん、ほんとに食べるの早いなあ。
「ご馳走さん」
「お粗末さまでした」
後片付けを済ませて、それぞれお風呂に入る。シャワー派のスモーカーさんから先に入り、後から私がゆっくり浸かって、お風呂掃除までしてしまうのがいつもの流れだ。
「スモーカーさん、おやすみなさい」
「……おう。おやすみ」
いただいた部屋に戻り、明かりをつける。部屋の隅に置かれたリュックと、畳まれた制服。この街で買ってもらった着替え。それを入れている衣装ケース。
畳んである布団と、その上にちょこんと乗っている枕。淡い緑色の柔らかなカーペット。そして可愛らしい小花柄の、枕カバーとカーテンは、私が選んだものだ。
布団を敷いて上に座り、スケジュール帳のメモ用ページに、その日あったことを簡単にまとめる。この世界に来てから、私は日記をつけるようにしていた。日付を確認すると、今日で1週間が過ぎようとしている。
「ふぅ……」
ため息をつきながら、スケジュール帳とペンをしまう。明かりを消して布団に潜り込むと、清潔だけどまだ少し嗅ぎなれない、他所の家の匂いがした。
***
「すいません、これください」
「はいよ。あらアンタ、スモーカー大佐のところのお手伝いさんかい?」
「え? あ、そうですね。そんな感じです」
「若いのに偉いねえ。ほらこれ、持っていきな」
「いいんですか? 何か美味しそうなお肉ですけども」
食料の買い出しに出かけた日。ふっくらしたお肉屋のおばさんが、気さくな笑顔でおまけをしてくれた。他のお肉より大きめで、赤身の間には、いい感じの白い網模様が入ってる。
「そいつぁ海王類の肉だよ。いいのがたんまり入ったんだ」
お肉屋のご主人が、横からひょこりと顔を出した。海王類って、確かこの世界特有の、哺乳類を除いた海洋生物のことだっけ。
「これって、おすすめの調理法とかありますか?」
「何でもいけるよ。肉はちょっと固めだが、焼いてもいいしハムにしても美味い!」
家政婦さんみたいな言動が、板に付いてきた気がする。そう思いながらお金を払い、お礼を言ってからお店を出た。のんびり歩いてスモーカーさんちに戻ると、何やら家の前に長い人影が見える。
「?」
困ったな、怪しい人だろうか。今スモーカーさんはお仕事中だから、家にいない。逃げるか声をかけてみるか悩むけど、彼が家の前にいる以上、どうにかしなきゃいけないのは確定だ。
「あのー……」
少し離れたところから、大きめの声で呼びかけてみる。ひょろっと長い、そして大きな男の人が、ゆっくりとした動作で振り返った。パーマ気味の黒髪とおでこについたアイマスクが、気の抜けるような印象を与える。青いシャツに、白いベストとズボンを合わせていた。
「うちに、何かご用でしょうか?」
スモーカーさんより背が高くて、彼より歳上っぽいおじさんが、顎に手を当てて私を見る。私の顔に何か書かれてて、それを読み取ろうとするみたいに。好奇心がこもったような視線に、つい後ずさる。
「あらら。コリャ思ってたより、将来有望なかわい子ちゃんじゃないの。スモーカーも隅に置けねェな」
「スモーカーさんのお知り合いですか?」
「そうそう。友達なんだ」
「と見せかけて、家に押し入ろうとする危ない人では」
「あららら……。警戒心が強いお嬢ちゃんだ。しっかり留守を預かってんのはいいことだな」
不審者が、身内等の知り合いを装うのは、よくある手口だ。買い物カゴをぎゅっと抱えて見上げると、おじさんはちょっと困ったように、後頭部を雑にかく。
「あー……。そういや名乗ってなかったな。おれはクザン。スモーカーと同じ海兵で、海軍本部大将だ」
「大将さん」
「一応、身分証明のドッグタグもあるぞ」
チャリ、と音を立てて差し出されたのは、小さな金属の板が2枚通されたチェーン。彫られているのは「MARINE」の文字と、カモメみたいな海軍のマーク。名前と階級。裏には「正義」の文字。前にスモーカーさんが見せてくれたのと、よく似ている。
「怪しい人ではないみたいですね」
「分かってくれてよかったよ」
「ところで、どんなご用でしょうか? スモーカーさんなら、夕方には帰ってくると思います」
「いやァ、スモーカーは本部で会えるからいいんだ。おれは君に会いに来たのよ」
「私に、ですか?」
立ち話も何だし、中に入ってもらうことにした。お肉とか冷蔵庫に入れなきゃいけないし。背中を丸めて入り口をくぐったクザンさんは、ちょっと意外そうに部屋を見回した。
「へェ、あんまり葉巻の匂いはしねェんだな」
「ほんとですか? よかったです。換気に掃除、洗濯、消臭を頑張りましたので」
カゴから冷蔵庫へ、食材を移しながら答える。ああ、懐かしき奮闘の日々よ。あのときは大変だった。今も家のあちこちに、コーヒーかすを乾燥させて作った消臭剤が置いてある。あと、重曹とハーブ(ミントやローズマリー)で作った消臭剤も。薬屋さんで作り方を教わったものだ。
ちなみにスモーカーさんには、「魔除けか?」と言われた。
「お茶とコーヒー、どちらにしますか?」
「コーヒー頼むわ。いいお嫁さんになりそうじゃないの」
「あはは……。お嫁さんというより、お手伝いさんとか家政婦さんですけどね」
「おれはてっきり、スモーカーが幼妻でももらったのかと」
「お、おさなづま!?」
とんでもない単語が聞こえて、声が裏返る。その拍子に、スプーンですくったコーヒーの粉が、フィルターの外に全部滑り落ちた。もったいないと思いながら、慌てて片付ける。
「あらら。違うの?」
「違いますよ! ただの保護して保護された関係です!」
「保護って時点で、"ただの"とはかけ離れてる気がするんだが」
それもそうだ。少し前のめりになりながら、興味を示してくるようなクザンさんに、コーヒーを入れながら説明する。突然グランドラインに落ちてきたこと。ここには身寄りも何も無いこと。スモーカーさんに保護してもらい、今こうしてお世話になっていること等。
「この島にいて、おれの顔を知らなかったわけだし……。アレだ。いろいろ複雑な事情がありそうだな、お嬢ちゃん。出身は空島か?」
「空島? ええと、違います。あ、これ昨日焼いたクッキーです。よかったらどうぞ」
「至れり尽くせりじゃないの。ありがとう」
空島と聞いて思い浮かんだのは、天空の城が出てくるアニメ映画だ。この世界には、空に浮かぶ島があるんだろうか。アールグレイの茶葉を練り込んだクッキーを、お皿に並べて、コーヒーと一緒に出す。
昨日スモーカーさんにも食べてもらって、「うめェ」と言ってもらったものけど、どうだろう。
「お、美味い。紅茶の渋みに生地の甘み。それから……、爽やかな後味がいいな」
「お口に合ってよかったです」
さくさく、ぽりぽりと軽やかな音を立てて、クザンさんがクッキーを食べる。自分が食べたかったのと、スモーカーさんやその部下さんたちに差し入れしたくて作ったものだ。多めに焼いておいてよかった。
「そういや、お嬢ちゃんの名前、何だっけか」
「あ、マナです。よろしくお願いします」
「またな、マナちゃん」
クッキーを食べ、コーヒーを飲んで、のんびりお話してから、クザンさんは帰っていった。だいぶ長いこといたけど、お仕事の方は大丈夫なんだろうか。
***
「おかえりなさいスモーカーさん。海王類のお肉をおまけでいただいたので、しょうが焼きにしてみました」
「だから美味そうな匂いがしてたのか。……留守中、変わったことは無かったか?」
「大将のクザンさんがいらっしゃいましたよ」
「何してんだアイツは……」
夕方。いつもの時間にスモーカーさんが帰ってきたので、お皿を並べながら紹介する。付け合わせは千切りキャベツで、ご飯とお味噌汁もついた和風のメニューだ。クザンさんが訪問したことを伝えると、スモーカーさんは苦々しそうに顔をしかめた。
「「いただきます」」
しょうがが香るタレが絡んで、つやつやしているお肉。スモーカーさんはそれを箸で多めに取り、ぱくりと1口。もぐもぐと咀嚼してから、何かに気づいたように瞬きをした。
「ん……。海王類って、こんなに柔らかかったか?」
「ふふふ。お気づきになりましたか。パイナップルを使って柔らかくしたのです」
試しにお昼ご飯に、塩コショウで焼いてみたところ。シンプルな味付けでも美味しかったけど、確かに噛みごたえがあり過ぎる気がした。なので細かく刻んだパイナップルに漬け込んで、酵素で柔らかくしてみたのだ。ちなみにそのとき使ったパイナップルは、タレにも再利用している。お母さんが教えてくれた方法だ。
「あ。スモーカーさんって、料理にフルーツ使っても大丈夫な人ですか?」
「問題ねェ」
「それならよかったです」
酢豚のパイナップルとか、許せない人もいるからね。確認は大事。ほっと一安心しながら、私も料理に箸をつける。甘辛いお肉は、白いご飯と相性抜群。千切りキャベツで口の中をさっぱりさせて、またお肉とお米を頬張る無限ループ。幸せだ。
「そういや、差し入れの菓子、たしぎや部下も喜んでたぞ。美味かったってな」
「ほんとですか! 作ってよかった〜」
「……あと、肉と米って、まだ残ってるか」
「はい! よそいますか?」
「いや、自分でやる」
おかわりをしてくれる後ろ姿を見ながら、胸がぽかぽかするような嬉しさで満たされる。自分が作ったもので、誰かが喜んでくれる嬉しさを噛み締めながら、考えた。明日は何を作ろうかな。今から楽しみだ。