むすんで握って心を込めて



それは、何てことない、育ち盛り食べ盛りの学生ならお腹を空かせるお昼休みのことだった。

「監督生! 何を食べてるんだ?」
「おわっ」

ここはイギリスの名門大学か? と思うほど広い食堂で、オンボロ寮で作ってきたお弁当を広げていると、溌剌とした様子のカリム先輩が話しかけてきた。

彼は砂漠の魔術師に関連している、スカラビア寮の寮長だ。アラブの人みたいな褐色の肌や、それと真逆の白銀の短髪、さらにカーネリアンを思わせる情熱的な色合いの目を持っている。

実家がお金持ちらしく、身につけているブレスレットとイヤリング、そして金糸で刺繍が施された白いターバンは高級そうだ。

「こんにちは、カリム先輩。これはおにぎりと言って、その名の通りご飯を握って作る食べ物です」

「オニギリ? 聞いたことないけど、不思議な響きで面白いな!」

「自分がいた世界の食べ物なので、耳慣れないのも無理は無いと思います」

お米や中に入れる具は、サムさんのお店で購入した。「あるかな〜」と思って探していると、求めていた物があるから、とても助かる。元いた世界で読んだ、何でも売っている不思議なコンビニの話を思い出して、懐かしくなってしまった。

自分の隣に座ったカリム先輩が、新しいオモチャを見つけた子どもみたいな目で、小山みたいな三角形のおにぎりを見つめてくる。

ふっくらツヤツヤしたお米の白と、巻いた小さめの海苔のりの黒のコントラスト。我ながら美味しそうに出来たと思う。

「よかったら、1個食べてみますか?」

「いいのか!? ……んー、でもオレ、ジャミルが作ったメシ以外は食わないから、いいや」

「ジャミル先輩ですか?」

ジャミル先輩は、カリム先輩と同じ2年生で、スカラビア寮の副寮長。料理とか勉強とか、大抵のことは何でもできる、しっかりした人というイメージが強い。

「そう。故郷にいた頃、人が作った料理や差し入れで、ぶっ倒れることが多かったからさ」

その後語られた症状は、腹痛や意識不明。それ絶対、何か体によろしくないものを盛られていたのでは……。

「だから気持ちだけ、ありがたくもらっとく……」

「カリム先輩。ヨダレ、ヨダレ垂れかけてます。ティッシュどうぞ」

「ありがとなー」

「後でレシピお渡ししましょうか? 簡単だし、そんなに手間はかかりませんよ」

お米炊いて好きな具を入れて握るだけだし。シンプルさを追求するなら、塩だけ使っても充分美味しい。

「本当か! お前優しいな!」

そう思って提案すると、カリム先輩はそれはそれは嬉しそうに破顔した。


後日、約束通りカリム先輩に作り方を書いた紙を渡したら、ジャミル先輩直々に頼まれて、スカラビア寮でおにぎり作りを教えることになった。ついでにカリム先輩の突然の提案で、おにぎりパーティーという名の宴が行われたのだった。
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