宵待月の魔法少女
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竜と戦い始めて時間が経つ。攻撃は幸い受けてないけど、かわし方のせいで服は一部裂けたり汚れたりしてしまってる。
でも蹴る殴るなどのダメージは向こうに与えたから、竜だって疲れてるようだ。始めの頃より動きが鈍いし、角だって1本折れてる。悪いけど、さっき全体重かけてへし折るのに成功した。
「今っす!」
どろどろしているものを洗い流すイメージで、ジューシくんが出してくれたステッキを竜に向け、集中して力を込める。さっきみたいな白い光があふれて、竜の全身を包み込んだ。
竜が静かに目を閉じる。
マントの人は、いつの間にか消えていた。
光が収まった後、残されていたのは、宙に浮かぶ大きな乳白色の結晶だった。
パキィ……ンと澄んだ音を立てて、結晶が割れる。破片がきらきらした砂になって、溶けるように消えていく。
思わず両手を伸ばして、割れた結晶から、ふわふわと落ちてきたものを受け止める。
それは、ツンツンした紅い髪の、ジューシくんよりほんの少し小さい子だった。少しだけ、さっきの竜の面影がある気がする。
スカジャンと着物みたいな服を着ていて、足は半魚人みたいな緑がかった水色。よく見ると、耳にはピアスがたくさんついている。
閉じていた目が開く。きらきらした丸い目は、金色に近い黄色だった。
「くあぁ……、やァ〜っと外に出られたぜ」
私の腕の中で、紅い髪の子があくびをしながら伸びをする。
「クーコーさん!」
ぽんっとジューシくんが、私の体から抜け出て、紅髪の子に飛びつく。その瞬間、私は魔法少女から元の姿に戻った。
「うおっ、ジューシ! 無事だったか!」
「うわあああああああんクーコーさあああん会えてよがったっすううううえええん」
「だああっ耳元で泣くなうるせぇ! 男が泣いていいのは家族かダチが死んだ時だけっつっただろ!」
再会の喜び? を分かちあっている2人を邪魔しないように、そっと地面に下ろして見守る。クーコーさんと呼ばれた子は、ギャン泣きしているジューシくんをぽかすか叩いたりしてるけど、抱きつくジューシくんを引きはがすことはしなかった。
「……んで? このねーちゃんは誰だ」
「この子は、自分のパートナーのナツメちゃんっす! 魔法少女に変身して、クーコーさんを助けてくれたんすよ! 自分もすごくお世話になったっす!」
訝しそうに眉間に皺を寄せるクーコーくんに、ジューシくんが目をいきいきと輝かせながら話してくれる。それを聞いたクーコーくんは、てとてとと可愛い足取りで、私の方に寄ってきた。
「なるほどなぁ。お前は拙僧の命の恩人ってわけか! ありがとな。拙僧のことも、ジューシのことも」
「いえいえ、どういたしましてー」
しゃがみ込んだまま、笑顔でクーコーくんに言葉を返す。その時、不意にがくんと体から力が抜けて、私はぺたんと地面に崩れかけた。
「わぁっ!? ど、どうしたんすか? 大丈夫っすか?」
「よ、よく分かんないけど、急に力が……」
「あー、妖精の力使いたてで、体力が追いついてねーんじゃねーか? ひゃはっ、軟弱だなァ」
「ひとこと余計だよ。帰宅部の中学生女子に何を求めてんの」
「立てないなら、自分が家まで運ぶっす!」
「え。それは申し訳ないからいいよ。ジューシくんと私、体の大きさも違うし。少し休めば多分いけるよ」
ちんまりした小さな体じゃ、私を持ち上げる前に潰しちゃいそうで心配だ。丁重にお断りすると、ジューシくんはむうっとほっぺたを風船みたいに膨らませた。
「えいっ!」
突然ジューシくんが声を出し、ぼふんっと白い煙に包まれる。ぎょっとしながら見守ると、煙が消えた後に、知らない男の人が立っていた。
高校生か大学生くらいだろうか。高身長で大人っぽくて、ヴィジュアル系バンドの人みたいなメイクをしている。貴族みたいなコートも、金色のメッシュが入った黒髪も、ジューシくんによく似ていた。
ジューシくんを擬人化したみたいなイケメンが、私の目の前にしゃがみ込んで、私の背中と膝裏に手を入れて持ち上げる。
ふわっと体が宙に浮いて、どこか心もとない気分になって、私はつい足をばたつかせた。
「あんまり暴れたら落としちゃうっすよ」
「そ、そのしゃべり方はジューシくん……!?」
「自分は男っすから、ナツメちゃんみたいな女の子1人運ぶくらい余裕っす!」
ぷん、と頬を膨らませるところは、かわいい姿のジューシくんと変わらない。妖精の姿の時と違って、うさぎ耳や尻尾は無くて、本当の人間みたいだ。
私の荷物を右肩にかけて、クーコーくんを左肩に乗せて、私をお姫様抱っこしながらジューシくんは歩き出す。
「このまま帰るの何か恥ずかしいよ……後で下ろして……」
「だめっす。戦って守ってくれたナツメちゃんを、めいっぱい労るって決めてるんす」
赤く染まった顔を両手で覆って訴えたけど、ジューシくんは聞く耳持たず。彼の腕の中に収まって、私は夕焼け空の下を運ばれていった。
***
恥ずかしくて死んじゃいそうな思いをしながら帰宅して、クーコーくんから色々話を聞いた。
「アイツらに捕まった後、拙僧が連れてこられたのは、デカいカプセルが並んだ陰気な部屋だ。気絶させられたから、どこに存在してるかは分かんねえ」
たくさんあったカプセルには、他にも捕まったらしい妖精たちが1人ずつ入れられていたらしい。
クーコーくんも空いているカプセルに入れられて、体が真っ黒に染まっていく感覚がして、その後の記憶はぼんやりしているそうだ。
「なんつーか、ずーっとウトウトしてるっつーの? 何でか、自分が囚われてるって感覚はあるのに、頭が働かねえ感じ」
それが、あの竜に変身していた時の状況なのだろう。半魚人みたいなクーコーくんの姿に繋げて、より攻撃力の高そうな竜の姿に歪められた可能性があると思う。
「ヒトヤさんは? ヒトヤさんもその部屋にいたっすか?」
「……ヒトヤは、拙僧が連れてこられた部屋にはいなかった。他にも部屋があった可能性はあるし、拙僧らをかばって先に捕まったアイツがまだ魂を歪められてねえとは思えねえ」
心配そうな、縋るような表情で、妖精の姿に戻ったジューシくんがクーコーくんに身を乗り出す。クーコーくんはかぶりを振って、複雑そうに表情を曇らせた。
「拙僧らの前には2つの道がある。こっちから敵を見つけ出してぶちのめしてヒトヤの居場所を吐かせるか、魂を歪められた奴を片っ端から浄化してヒトヤを探し出すかだ」
「……あのマントの人は、妖精を別の姿に変えて、何がしたいんだろう。何のためにたくさんの妖精を捕まえてるのかも気になる……」
「そこも向こうに吐かせるしかねーな。ったく、迷惑な話だぜ」
「私、やるよ。ヒトヤさんも、他の妖精も助ける。敵が何をしたいのかも知りたい」
クーコーくんの目をしっかり見つめて、私は宣言した。仲良くなって、パートナーにもなったジューシくんの力になりたい。友達を助けたいと思うのは、当然のことだ。
「……いい目だな」
私の目を見つめ返し、クーコーくんはふっと笑う。
「よーし! 拙僧もここで世話になるわ! どーせ向こうの世界に戻ったって、安息の地なんかねーしな!」
「お父さんとお母さんにバレたら大変だから、2人の前では人形のふりしてね」
「おうよ!」
「そうだ。ジューシくんとクーコーくんがいた世界のこととか、ヒトヤさんのこととか、私にもっと教えて? 君たちのこと、知りたいな」
「いいっすよ! いっぱい教えるっす!」
知らないこと。知らない世界。知らない敵。
知らないことだらけだけど、1人じゃない。パートナーがいるし、力も貰えた。仲間だって増えた。
私の魔法少女としての戦いは、ここから始まった。