宵待月の魔法少女
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出会いは、突然空から降ってきた。
「ぅわああああぁぁぁあああん!」
だんだん近づいてくる小さなシルエットと、泣いているような大きな声。つい受け止めようと両手を伸ばしたけど、それは見事にすり抜ける。
うるうるした蛍光水色のまん丸な瞳が見えた後、視界が真っ暗になって。同時にぽむんっとやわらかいものが、顔面に思い切りぶつかった。
むぎゅ、と私の顔に押し付けられてから、それはぽよんとバウンドして、私の腕の中に落っこちる。
「ったた……あれ? そんなに痛くない……。それより何だろこれ……」
腕の中のやわらかなものを抱え直し、私は鼻を擦りながら目線を下げる。
そこには、うさぎみたいなピンクの垂れ耳と白いしっぽが生えた、ちんまりした子がいた。顔の半分は黒髪に覆われてて、ところどころに黄色いメッシュが入ってる。ナポレオンみたいな服を着てて、頭にはピエロみたいな赤と灰色の帽子がついていた。
「きゅうう……」
どうやら気絶しているようで、目を回している。道端に置いていくわけにもいかないので、私はその子も一緒に連れて帰ることにした。
***
「た、助けてくれてありがとうございますっす。自分、ジューシっす!」
「いえいえ、どういたしまして。私はナツメ。よろしくね」
「よろしくっす!」
ぬいぐるみ用のベッドで寝かせたところ、男の子は少し経ってから無事に目を覚ました。
起きて私と目が合ったとたん、短い手でポーズを取りつつ「我は浪漫と黄昏のフェアリー、ジューシである!」って名乗りを上げたのにはびっくりしたけど、聞き返したら今みたく答えてくれた。
「それにしても、ジューシくんは何で空から落っこちてきたの? どこから来たの?」
クッションの上にちょこんと座るジューシくんに話しかけると、ジューシくんの丸い瞳に、みるみるうちに涙が溜まった。
「え!? どしたの! どっか痛い?」
「ち、ちがくて、ヒック、ううっ」
ぼたぼた涙の雫をこぼしながら、ジューシくんがしゃくりあげる。ハンカチで拭いてあげながら返事を待つと、ジューシくんは泣きながら一生懸命答えてくれた。
「じ、自分っ、ふええ、悪い人に追われてるんす〜! わーん!」
ジューシくんの話によると、ジューシくんがもともといた世界では、たくさん妖精たちが暮らしてて、みんなで楽しく過ごしていたらしい。
そんなある日、突然黒いフード付きマントを被った人たちがたくさん現れて、妖精たちを攻撃して捕まえて、どこかに連れ去ってしまったのだそうだ。
「自分には、大切な人たちがいて、ぐすっ、その人たちは自分を逃がすために捕まっちゃったんす……」
追っ手から逃げて、隠れて、逃げて、そんな神経がすり減りそうなことを繰り返すうちにジューシくんは、大切な人から聞いた話を思い出したのだという。
「自分たち妖精は、人間の女の子とパートナーになることで、その子に不思議な力を与えることができるらしいんす。妖精に危機が訪れたら、妖精の力だけじゃ太刀打ちできないから、その女の子と協力して敵に立ち向かうっていう言い伝えっす」
「なるほど。魔法少女的なアレね」
「魔法少女的なアレっす」
こうして、ジューシくんは妖精の国にあるほら穴をくぐって、人間の世界に転がり落ちてきたそうだ。人間の世界のどこに飛ばされるかは、ランダムで決まるらしい。
「自分、その子を見つけて、大切な人たちを助けたいんす!」
涙はようやく止まったみたいだ。うさぎのキャラクターみたいに可愛い見た目だけど、そう宣言したジューシくんは、私の目には少しかっこよく映った。
「それなら、君のパートナーが見つかるまで、うちにいなよ。私も一緒にパートナー探しするから」
「え……いいんすか?」
「野宿なんてしてたら襲われちゃいそうだもん。それに、人手は多い方がきっといいよ」
勇気づけたくて、にっこり笑顔でそう提案すると、ジューシくんは目を丸くして。ぱちぱちと瞬きをして。
「うわあああああん! あ、ありが、ひぐっ、ありがとうございますっす〜!」
「わわわ、ほらハンカチハンカチ!」
また小さい子みたいに、盛大に泣き出してしまった。今度は嬉し涙みたいだから、頭をぽんぽんと撫でて、ハンカチを当ててあげた。
「やさしくしないでくださいっす〜。また涙が出ちゃうっす〜」
「ええ、でもずっと1人で大変な思いしてきた子には優しくしたいよ」
「びえええええん!!」
「ありゃ、もっと泣かせちゃった……」
***
翌日。私は中学校に、ジューシくんを連れていくことにした。クラスメートや先生に見つからないように、体操服入れの中に隠した状態で。
「苦しくない?」
「平気っす!」
登校中、抱えた体操着入れの中から、元気のいい声が聞こえてくる。
ひとまず私の通う中学校から、戦ってくれる魔法少女探しを始めよう、と昨日決めたのだ。
「それにしても、魔法少女になれる子ってどうやって見つけるの? 魔法少女って誰でもなれる感じ?」
「誰でもなれるわけじゃないらしいっす。言い伝えだと、魔法少女の素質がある子は、聖なる光を宿すとか。あと、戦う意思がない子はさすがにダメっぽいっす」
「あー、それは大事だね。適材適所ってやつだ。じゃあ聖なる光とやらを放ってる子を見つければいいのかな」
「聖なる光っていうのは、その人の本質が現れる瞬間にしか見ることができないらしいっすよ」
言われてみれば、いつもぴかぴか光ってる女の子なんて、生まれてこの方見たことがないや。現代に生きるかぐや姫や、女版光源氏がいれば話は別だろうけども。
「とりあえず、放課後になったら探すとして、ご飯とか大丈夫? 給食の時間になったら、私の分のパン半分入れようか?」
「心配しなくて大丈夫っすよ! 妖精は食べなくても平気なんす。おひさまを浴びれば、だいたい元気になるっす」
「ご飯食べたことないの?」
歩きながら体操着入れの口を緩めて、太陽の光が入るようにしながら聞くと、ジューシくんはちょっと眩しそうに目を細めた。
「食べなくても問題ないんすけど、食べたことはあるっすよ。妖精にとって食事は、趣味のひとつみたいなものなんす。自分はナポリタンがお気に入りなんすけど、ヒトヤさんはコーヒーにすごくこだわってて、クーコーさんはカラアゲが好きで…………」
私の知らない名前を呟いて、ジューシくんはまたウルウルと目をうるませた。小さな体が、寂しそうに震えて縮こまる。
「うううぅ〜……」
「よしよし」
家を出る前に一緒に入れていたタオルハンカチで、ジューシくんが顔を覆う。"ヒトヤさん"と"クーコーさん"は、ジューシくんが昨日言っていた"大切な人たち"なのかな。
「大丈夫。一緒に見つけよう」
体操着入れ越しに、優しく撫でたりぽんぽんしたりしながら言うと、「はいっす」と湿ってるけど意志がこもった返事が聞こえた。
***
ジューシくんが大人しくしてくれたおかげで、周りにバレずに授業や休憩時間を終えることができ、ついに放課後が来た。
「部活行ってくるね。またあした〜」
「うん。また明日」
部活に向かう友達を見送ってから、学校指定のカバンを背負い、体操着入れを胸に抱えて、廊下を進む。最初に向かうのは体育館だ。
運動系の部活に入ってる子なら、運動神経とか戦略立てる力とかあると思うんだ。プ○キュアだって、メンバーにスポーツ得意でアクティブな子いるし。
「どうかな」
「遠目だとなんとも……。強いて言うなら、あの手足がスラッとしたショートカットの子っすかね」
「あ、確かあの人、女子バレー部のエースだよ」
候補の女の子についてメモして、他の部活も少し覗いて、学校から出る。文化系の部活には、明日偵察に行こう。
「今のところ3人かあ」
「適性あるといいんすけど……」
「君と会わせても口が堅い人がいいよね」
その点、バレー部のエースの子が心配だ。あの子、友達多くておしゃべり好きで、噂話も好きだって聞いたことがある。ジューシくんが学校中に知れ渡るのは避けたい。
頭の中で候補者たちを思い浮かべながら、家までの道を歩いていく。でも私は、ぴたりと途中で足を止めた。
知らない人がいた。
暗幕みたいなフード付きのマントをすっぽり被っていて、顔が見えない。体つきもよく分からないけど、背が私より高い。胸の当たりについたピンクダイヤのブローチが、キラキラ輝いていた。
「どうしたんすか……?」
いきなり立ち止まった私を不思議に思ったのか、小さな声でジューシくんが聞いてくる。潰さない程度に、私は体操着入れごとジューシくんを抱きしめた。
「……誰ですか」
「その袋の中身をよこせ」
私の質問に答えず、マントの人物は体操着入れを指さして、それだけ言った。感じがいいとはお世辞にも言えない。声だけだと女性のようだけど、威圧的で怖い。
「な、なんでですか」
「それは我々が探しているものだ。大人しく我々に渡した方が身のためだぞ」
外の人の声に気づいたのか、ジューシくんがかたかた震えているのが、体操着入れ越しでも伝わってくる。私は体操着入れを抱え直し、目の前の人物を見つめた。
「嫌です」
そして私は、一気に走り出した。反対方向だけど、土地勘なら私の方が知ってる自信がある。マントの人をまいて、早く家に帰ってしまおう。
「ジューシくん。もしかして、ジューシくんたちを襲ったり追ったりしてるのって、あの人たち?」
「そうっす! つ、捕まったら大変っすよお!」
「大丈夫。絶対守るから、安心して」
歩き慣れたルートを走る。路地裏に飛び込んだり、角を曲がったりして、走り続ける。息が切れる。肺が苦しい。喉が痛い。でも、止まるわけにはいかない。
痛む足を我慢して、河川敷の近くに出た時だった。
「うわあああ!?」
ドォン! と大きな音がして、黒い煙に取り巻かれ、熱い風に吹き飛ばされた。足も体も宙に浮いて、土手から転がり落ちる。
「……っ、うぅ……」
「だ、大丈夫っすか!? しっかりしてくださいっす! ナツメちゃん!」
ジューシくんを離さないように抱きしめて、とっさに体を丸めたけど、やっぱりゴロゴロ転がったせいで体が痛い。うめく私の耳に、泣きそうなジューシくんの声が届く。
「だから忠告しただろう。渡した方が身のためだと」
かつ、かつ、とピンヒールが地面を打つ音が響く。目線を動かすと、少し離れたところに、もうあのマントの人が立っていた。
「無駄な抵抗はするな。死にたくなければ、その妖精を渡せ」
中学生にここまでしないと、妖精の1人も捕まえられないのかこの人は。
そう考えると、何だか腹が立ってくる。ジューシくんはこんなに怖がってるのに、何でここまでされなきゃならないの。ジューシくんが、ジューシくんの大切な人が、何したっていうの。
「……っ、ぜったい、いやだ」
痛む体を無理やり起こして、絞り出すように言う。
「何で渡せって言うのか、渡した後どうするつもりなのか言わない人に、ジューシくんを渡すわけないでしょうが!」
「だっ、だめっす! このままじゃナツメちゃんが死んじゃうっす!」
「ジューシくんは諦めないで! 大切な人たちを助けたいんでしょ! だったらこんなとこで屈しちゃダメ!」
体操着入れから抜け出そうとするジューシくんをぎゅっと抱き締めて、頬を叩くように声を張る。ジューシくんがハッとしたように動きを止めたとき、女性の声が聞こえた。
「……なぜその妖精に入れ込む。その妖精が人間界に来たのは昨日のこと。お前にとっては何の関係も無いだろう」
震えそうになる足を踏ん張って、立ち上がる。
虚勢でもいい。策がなくてもいい。とにかく自分の意思だけは表示しろ。
「約束したからだよ。一緒にパートナー探しするって」
フードに隠れて見えない目を射抜くつもりで、じっと目の前の人を私は見据えた。
「約束を果たすまで、ジューシくんは私が守る!」
そう叫ぶように宣言した瞬間。
真っ白な光が周囲にほとばしった。
「!? な、なに……!?」
その光は、私の胸の辺りから出ていた。
混じり気のない、純粋な、まばゆい光。見ていると、心が落ち着いて癒されるような、清浄な光。
「……"聖なる光"っす」
体操着入れから顔を出して、光に見とれながら、ジューシくんが心を奪われたように呟く。
「君だったんすね」
ジューシくんが目をつぶる。光に包まれ、私もつられるように目を閉じた。
目を開けると、私は虹色の光の中に浮かんでいた。ジューシくんの姿は見えない。きょろきょろ辺りを見回すと、ジューシくんの声だけ聞こえた。
「パートナーになる女の子が、ナツメちゃんだったなんて嬉しいっす! これって運命感じちゃうっす〜!」
「え、あれ? ジューシくんどこ?」
「妖精は魔法少女と一体になって力を貸すので、外敵からの攻撃を受けないようになるらしいっす! あ、これが自分の力の源っす!」
ぽんっと目の前に、紫色の丸いコンパクトが現れる。細かい模様の他に、月と銀色のバラの綺麗な飾りがきらめいていた。
「さあ、変身っすよ!」
私が、魔法少女……!? なんてボケている時間は無い。コンパクトの蓋を開けると、おしろいや頬紅をぱふぱふするアレが入っていた。ジューシくんに聞くと、パウダーパフと言うらしい。
パウダーパフに光の粉が集まり、それでぽんぽんと腕や胸元、足首などを次々に叩いていく。
袖口が大きく広がった、フリフリの白いブラウスの胸元を飾るのは、マゼンタのリボン。パニエでふわっと膨らんだ赤いスカートの上には、黒いレースを重ねている。
かかとが少し高めのストラップシューズは、リボンと同じマゼンタ。更に黒レースのタイツが足を彩る。
耳にはイナズマみたいな形の、銀色のイヤリング。髪はふわりと腰に届きそうな長さに伸びて、マゼンタのリボンがついたヘッドドレスに飾られた。
仕上げに頬を軽くパウダーパフで叩いて完成。
「わぁ〜っ! やっぱりイエベのナツメちゃんには、サーモンピンクのチークが透明感プラスされてすっっごくカワイイっす! ゴスロリっぽいお洋服も自分とおそろいみたいっすね!」
「うわ、すごい。別人みたいにかわいい。服のチョイスって、パートナーの妖精ごとに変わったりするのかな」
声だけのジューシくんと、わいわい女の子っぽい話をしていたときだった。
「話は終わったか」
マントの人が、ピンクダイヤがついた黒い杖を振り、魔法陣を描く。そこから現れたのは、1頭の竜だった。
鱗に覆われた紅い体。くすんだ金色の角。こちらに向けられた瞳は、曇りガラスみたいに濁っている。色は、かろうじて黄色だと分かるくらい。
「力をつけられたら面倒だ。お前には、ここで消えてもらおう」
竜が吹いた火を避けようと、足に力を込める。すると、なんということでしょう。羽みたいに体が軽くて、思い通りに体が動く。
「あれは、誰かの魂をゆがめられてできた存在っす。大人しくさせて、魔法少女の力で浄化すれば、元の姿に戻せるっす!」
「分かった!」
ムチのようにしなる竜の尻尾を手で叩き落として、ジューシくんの声に返事をする。炎の攻撃をかわして、ひらりと竜の頭に飛び乗ると、竜が勢いよく頭を振った。
「わっ! ととっ」
とっさに角を掴んで振り落とされるのを回避する。竜の角って弱点なのかな。そう思って力を込めると、竜が今まで以上に思い切り暴れた。
「わああ!」
思わず手を離しちゃったけど、空中で何回か回ってスタッとカッコよく着地に成功。……と言いたいとこだけど、竜が間髪入れずに炎を吹いてきたから、転がって避けるはめになった。