パン屋とラッパーたち
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「やっほー夜ちんっ! このバゲットちょうだい!」
「うわうるさいの来た」
「あははっ、ひでー! 今日も辛口絶好調じゃん!」
周りに人がいないことを確認してから、一二三はマスクと伊達メガネをずらして、夜に屈託なく笑いかける。当の夜は、彼の勢いに多少引いていた。
「てか何だよ"夜ちん"って。変なあだ名つけんな。そこまで仲良くなった覚えは無い」
「えーイイじゃん夜ちん。夜ちんって口悪いけど、その分遠慮が無いっつーか、嘘が無いって感じで、俺っちとしては何か信頼できる!」
「勝手に信頼されても困る」
トレーに乗ったバゲットを紙袋に移しながら、夜はクールに言葉を返す。乱数もそうだが、グイグイ来るコミュ力お化けの人間は、若干対応に困るタイプだ。
「てか、あんたがバゲット買うの初めてだな。いつもは食パンやデニッシュとかなのに」
「おっ気づいちゃった? 実はフレンチトーストにチャレンジしようと思っててさ! やっぱフレンチトーストに使うのはバゲットっしょ!」
「……あんた料理すんのか……」
「えっ何その意外そうな反応! めちゃくちゃ心外なんですけど〜! 俺っちだって料理するしできます〜!」
不満そうに口を尖らせていても、一二三はどこかおちゃらけて見える。いつもあけすけでチャラチャラした口調の彼が、実は女性恐怖症だなんてとても思えない。
(……俺が女だって知ったら、絶対今みたいに気安く話せなくなるんだろうな)
そう考えると、夜の心の奥で冷えるような一筋の寂しさが通り抜けた。もちろんそんなことは、彼には絶対に言ってやらないけど。
「そういえば夜ちんって、独歩ちんと先生には敬語だけど、俺っちにはタメ口だよね。ちょっと敬語使ってみてよー」
「俺は信頼できる人と、敬語使わなきゃ面倒なことになりそうな人以外には敬語は使わない主義なんだ」
「えー、じゃあ俺っちはどっちにも当てはまってないってこと?」
「話が早いな。そういうことだ」
今はただ、遠慮ない言葉のやり取りができるだけでいい。