パン屋とラッパーたち
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出禁にしようかと思う客がいる。
アキハバラだけでなく他の区画でも有名な、体に優しいパンを売るベーカリー『フルムーン』。
そこの店長でもある夜は、空っぽになった試食コーナーに目を止めて。その場を離れようとしていた青年の、コートに付いているフードを引っ掴んだ。
「ぐえ」
「おい有栖川 帝統」
「おまっ……フード掴むなよ首締まるだろ」
「知るか。お前は何べん同じことを言えば理解すんだ」
帝統の口元についたパンくずをもの言いたげな目で見つめ、夜は息を深く吸って吐いた。
「試食コーナーはお前の空きっ腹を満たすために置いてあるんじゃねぇ」
「だってあれ客用に無料で置いてるやつだろ? 俺客だろ? なら食ってもいいだろ」
「限度ってもんがあるだろうが。来る度焼く度食べ尽くしやがって。他のお客さんが食えねぇだろ」
最初は気づかなかった。試食コーナーに出したパンの味を、お客さんたちに気に入ってもらえたんだと思っていたから。
だがしかし。ある日1人のお客さんから、「いつも試食コーナーが空なんですけど、もっと補充してもらえませんか?」と言われ、違和感を抱いた。
それ以来こっそり試食コーナーに目を配っていたら、シブヤ・ディビジョンの有栖川 帝統の現行犯を目撃したのだ。
別の食べ物を与えれば良いのだろうけど、店先に値段をつけて置いてるパンをタダで渡すのは気が引ける。
かと言って今から彼に何か作るのも、まあ正直に言ってめんどくさい。
何とか阻止する方法は無いものか。
そこまで考えた夜の脳内に、ピンと1つのアイデアがひらめく。
「……ちょっとそこで待ってろ」
「え、まさかお巡り呼ぶ気か?」
「んな訳ねーだろ。いいから動くな」
そう言って店の奥に引っ込んだ夜は、満月の絵が描かれた紙袋に、手際良くトングを使ってパンを詰めていく。
そして帝統に、少し膨らんだ紙袋1つを手渡した。
「うお!? このパン全部くれんのか!?」
「売れ残りでいいなら持ってけ試食ドロボー」
「ドロボーじゃねえギャンブラーだ! でもサンキューな! 飯尽きたら、またもらいに来る!」
「普通に買いに来いよ!」
真っ当なツッコミを入れるも、帝統は満足そうに破顔して店を出ていく。音符が周りに飛んでそうな彼の後ろ姿を見送りつつ、夜は脱力した。
「……まあ、パンが無駄になるよりマシか……」
その日以降。
「おこぼれ! くれー!」
「だから普通に買いに来いっての!」
帝統に懐かれたのは言うまでもない。