傾く太陽とクリスタルの眼差し
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20代くらいの若い女性が、とある建物の前に立っていた。建物の看板には、【天国法律事務所】の文字が書かれている。法のエキスパートである、弁護士がいる場所だ。
彼女は首からかけていたペンダントを、ぎゅっと握る。銀の鎖には盾のような形のロケットが通され、そこには花の紋章が彫られていた。
***
「お電話をくださった桜庭さんですね。どのような相談でしょうか?」
アシスタントが入れてくれた緑茶が、ふわりと湯気を立てる。自分の向かいに座っている依頼人の女性に、天国 獄は仕事用の丁寧な口調で話しかけた。
女性は、黒メノウのように艶やかな髪と、真珠のような肌の持ち主だった。オフホワイトのブラウスに、淡い桜色のカーディガン、膝下を覆うペールグリーンのタイトスカートという清楚な格好をしている。背筋を伸ばし、足を揃えてソファに腰かけている姿からも、品と育ちの良さが窺えた。
「祖父の遺産相続についてです」
桜庭 夕子という女性が語ったのは、次のような話だった。
先月に彼女の母方の祖父が亡くなり、遺産を分けることになった。夕子の両親は既に他界しているため、代襲相続によって、夕子が遺産相続候補の1人となる。
候補はもう1人。夕子の従姉にあたる女性である。本来なら彼女の母が相続する対象なのだが、積極的に仕切っているのは従姉の方だった。
「従姉は、全財産を相続したいと言っています。ですが、私には1つだけ、自分で管理したいものがあります」
それは、祖父が特に大切にしていたと言われているものだった。どんなものかは分からない。祖父が大事に大事にしまい込んでいたからだ。
従姉は考えた。"そんなに大切なものならば、さぞかし値打ちがあるものに違いない"と。
夕子は考えた。"大好きな祖父が大切にしていたものを、自分が継いで守っていきたい"と。
「その大切なものについて、祖父は手紙を遺していました。これがそのコピーです」
すっとテーブルの上で差し出された紙に、獄は目を通す。そこには、流れるような美しい字で、故人の名前と内容が書かれていた。
『私には、とても掛け替えの無いものがある』
『私がこの世を去ったときには、それを誰かに受け継ぎたい』
『私の命とも呼べるそれを見つけなさい。見つけたものにそれを贈ろう』
『どうか、私だと思って、私がしたように大切にしてほしい』
「
「はい。祖父の遺言通り、祖父が大切にしていたものを探しているところです。一緒に探していただけないか、と相談に参りました」
遺産相続はいざこざが起こりやすく、弁護士が相談に乗ることは珍しくない。しかし、探し物を手伝ってほしいという依頼はなかなか聞かない。どうしたものか、と獄は考える。
「うちへの依頼料は高いですが、それでもよろしいですか?」
「承知しています。代金は両親が遺したお金と、足りない場合は私の貯金からお支払いします」
夕子が提示した額は、"守銭奴"や"銭ゲバ"という全くありがたくない呼び名を、仲間の不良僧侶につけられている獄を黙らせるものだった。彼女がどれほど本気であるかを察した獄は、彼女の紅水晶にも似た瞳を見つめ返す。
「……分かりました。お受けしましょう」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
夕子がほっとしたように表情を緩め、ぺこりと頭を下げる。先程までの凛とした真剣な表情がほどけ、まるで花のつぼみが綻んだように見えた。