漫画家とラッパーたち
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夕方。近くのスーパーで食材を買い込んで、自分が住んでいるマンションに帰る。
けっこう重たくなったエコバッグを何とか部屋に運び込み、生物から順番に冷蔵庫に仕舞って、今日使う食材だけを残す。
「誰かに手料理を振る舞うなんて、久々だな」
エプロンを付け、ごぼうの皮をこそぎ取りながら呟いたとき、来客を告げるインターホンが聞こえた。
「わ、早いな。今開けまーす」
モニターで確認すると、今日来る予定の人たちだったため、私は急いでドアチェーンと鍵を外してドアを開けた。
「よお、俺様が来てやったぞ」
「こんにちは。お邪魔しますね」
「準備に取り掛かっていたのか。迅速に行動するのは良いことだ」
「こんにちは。左馬刻さん、銃兎さん、理鶯さん」
最近仲良くなった、ヨコハマで有名らしいこの3人。
お客さんである彼らを玄関に立たせたままにする訳にはいかないので、リビングに案内した。
「それじゃあ夕飯の支度するので、それまで寛いでてください」
「では、お言葉に甘えましょうかね。ここにある漫画を読んで待ってます」
「おー、たくさんあんじゃねえか。一番面白ぇのどれだよ」
「何か手伝うことはあるか?」
「お2人とも遠慮ないですね!? あと理鶯さんはお客さんなんですから、ゆっくりしててください!」
「だが、馳走になる身だ。小官に出来ることがあるなら、力になりたい」
(こ、これは断りづらいな……)
真面目な顔で言う理鶯さんの親切を断るのは申し訳なくて、私は彼と一緒にキッチンへ移動した。
「じゃあ、理鶯さんにはすいとんの生地を作ってもらいます。すいとんってご存知ですか?」
「いや、初めて聞く」
「私の故郷の郷土料理なんです。簡単に説明すると、もちもちした生地が入った野菜スープでしょうか。一度に野菜も炭水化物も取れる便利な料理なんですよ」
私の話を、理鶯さんは「ふむ」と相槌を打ちながら、興味深そうな顔で聞いてくれた。
一見分かりにくいけど、目が心なしかキラキラしている気もする。
「理鶯さんは、小麦粉に水を数回に分けて入れて、よく捏ねてください。耳たぶくらいの固さになるまでお願いします」
ボウルと小麦粉の袋を渡しながら伝えると、理鶯さんは自分の耳を数回つまんでから、私の耳たぶにふれた。
「え、あの、理鶯さん?」
「なるほど。了解した」
ふにふにと耳たぶをつままれる感覚に戸惑っていると、理鶯さんは納得したように頷いた。
どうやら耳たぶの固さを確認していたらしい。
理鶯さんにすいとんの生地作りを任せて、私は野菜や豚肉、こんにゃくを食べやすい大きさに切る。
作業の手を止めてそっと隣を見ると、理鶯さんは真剣な顔でせっせと生地を捏ねていた。
私が捏ねるとボウルがガタガタ揺れて一苦労するのだが、流石男の人だ。ボウルはしっかり押さえられ、少しも動いていない。
その間に私は鍋に油を入れて熱し、豚肉を炒めてから野菜を入れ、水を入れる。
こんにゃくと出汁も入れて煮立たせ、アクをきちんと取ってから醤油を加えて、野菜が柔らかくなるまで煮込む。
それから、理鶯さんと2人ですいとんの生地をちぎり、ちょうどいい大きさに伸ばしながら入れた。
「生地を引っ摘んで入れることから、ひっつみとも呼ばれてるんですよ」
「面白いな」
「ふふ。楽しんでもらえて嬉しいです」
初めて作るメニューが新鮮なのか、理鶯さんは少し口元を緩めている。漫画だったら、きっと周りにふわふわ花が飛んでいるだろう。
体が大きい年上の男性なのに、まるで初めて調理のお手伝いをしている子どものようで、私も顔を綻ばせた。
すいとんに火が通るまで煮てからネギを入れて、今日の夕飯が完成した。
それぞれ食べたい量をよそってもらい、4人で食卓を囲む。そういえば、1人じゃないごはんの時間も久しぶりだ。
「ご飯も炊いてあるので、足りない人はどうぞー」
「気利くじゃねえか。後でもらうわ」
「いただきます」と皆で手を合わせてから、おつゆを1口飲む。出汁と醤油の優しい味がじんわり舌に染み込んで、懐かしさに心がほっとした。
すいとんも理鶯さんがしっかり捏ねてくれたおかげで、程よくモチモチした食感が楽しめる。
「……美味え」
「何だか、落ち着く味ですね。生地の歯ごたえもちょうど良い」
「生地は理鶯さんが担当したんですよ。初めてなのにすごいです」
「今度材料を揃えて、改めて作ってみるとしよう。後でレシピを教えてくれないか?」
「はい!」
笑顔で答えたとき、しみじみとしたような雰囲気で食べていた左馬刻さんと銃兎さんの動きが、一瞬止まった。
理鶯さんの料理は、私も一度頂いたことがある。
味はプロにも匹敵するほど上手なのだけれど、食材は山等から現地調達してきたものなので、少々手を伸ばしにくいメニューにならざるを得なくなっている感じだ。
あの時目をつぶって食べてみたら、思ってた以上に美味しくて完食しちゃったんだよな。
「上手く出来たら、3人にも振る舞おう」
理鶯さんが、初めて捕まえた食材を調理するときのようなワクワク顔でそう言った。
左馬刻さんと銃兎さんが同時にむせた。
ハマのサバイバーのお手製すいとん。
味は保証されているけど、一体どんな代用品が出てくるのだろう。
「私もまた作ります。その時はまた、うちに来てくれると嬉しいです」
「お、おう……。頼む。まだ読み終わってねえ漫画もあるしな」
「そ、そうですね。良い味でしたし、まだ読んでいない漫画もありますし」
「えーと、それはうちに来るための口実でしょうか?」
「お願いしよう。貴方が作る味を覚えたい」