ヒプマイ劇場


配役
✾王子役……毒島メイソン理鶯
✾第2のお妃役……四十物十四
✾魔法の鏡役……波羅夷空却
✾狩人役……天国獄
✾森の小人1……山田一郎
✾森の小人2……山田二郎
✾森の小人3……山田三郎
✾物売り……天谷奴零

***

昔むかしの、とある冬の日のこと。
窓辺で縫い物をしていたお妃が、針で指を刺してしまい、雪の上に落ちた血を見て、こう思いました。

「雪のように白く、血のように赤く、窓枠の木のように黒い子どもがほしいわ」

その後、お妃は女の子を産みました。
雪のように白い肌、血のように赤い頬、黒檀のように黒い髪の女の子でしたので、その子は"白雪姫"と呼ばれるようになりました。

ところがこの子が産まれた後、お妃が亡くなってしまったので、王様は別のお妃を迎えました。

彼女はとても美しい人でした。
その美貌を保つために、容姿磨きに一切手を抜かず、お抱えの美容師を雇う程でした。
その熱意はまるで、「ヴィジュアルが命」と言っているようでした。

このお妃は浄玻璃じょうはりの鏡、もとい魔法の鏡を持っていました。鏡に映る自分を眺めながら、お妃はたずねます。

「鏡よ、鏡。この国で最も見目麗しいのは誰だ?」

「あ? お前」

少々……いや結構口も態度も悪い鏡なのですが、この鏡は絶対に嘘をつきません。それが分かっているので、お妃は満足したようにうんうんとうなずくのです。

努力が報われる瞬間とは、このことですね。

けれど白雪姫も、成長するにつれてますます美しくなりました。

ある日お妃が鏡に向かって、ポーズをとりながらいつものようにたずねると、鏡はこう答えました。


「この国で1番キレイなやつ? 毎日よく聞いてくるよなぁ。ここじゃお前だが、白雪姫の方がずっとイイオンナになってんぞ」


想像できたでしょうか。お妃がどれだけ落ち込んだか。

自分の部屋に引きこもり、お気に入りのブタのぬいぐるみを抱きしめて、さめざめと泣き暮らすようになってしまいました。

「……と、まぁそういう訳で。お妃が泣き止まねえから、アンタには今日から森で暮らしてもらう。悪いな」

「え。あの、そんな軽い調子で追い出されるんですか?」

そんな感じで、狩人に連れ出された白雪姫は、森の中に置き去りにされました。

仕方ないので、長いスカートの裾を踏まないように気をつけながら、森の奥へ歩いていきます。
道中、森に住む獣と遭遇しましたが、獣たちは何もせずに通り過ぎてくれました。

やがて日が暮れかかり、足が痛み始めた頃、小さな家が見えました。中に入ってみると、温かで居心地がよく、どこもかしこも清潔でした。

台所には、作り置きらしい料理がたくさん並んでおり、いい匂いがしています。

「お腹すいてるけど、どれか1つを全部食べちゃったら、誰かのご飯が足りなくなっちゃうな……。どうしよう……」

悩んだ末に白雪姫は、3つのお皿から少しずつ野菜とお肉とパンを食べ、3つのおわんから少しずつスープを飲みました。

それが済むと、白雪姫はベッドが置かれている隣の部屋に入りました。とても疲れていたので、少し休ませてもらおうと思ったのです。

そして1つめのベッドに潜り込み、そのまますやすやと眠り込んでしまいました。

***

実はその家は、7人の小人たちではなく、小人の3兄弟の家でした。彼らは山の中で鉱石を掘り出し、それを売って生活しているのです。

「今日はたくさん掘り出せたな!」

「そうだね兄ちゃん!」

「今日の分を売れば、しばらく生活には困りませんね」

話しながら家に入り、明かりをつけると、3人は少し驚きました。今朝家を出る前とは、どこか様子が違っていたからです。

「……何か、いつもと違くね? 俺のパン欠けてるし」

「侵入者でしょうか……。僕の野菜も少なくなってる……」

「俺のスープも減ってるな……。2人とも、下がってろよ」

長男が鋭い目で、隣の部屋に繋がるドアを見つめました。そしてドアノブに手をかけて部屋に入り、明かりをつけます。

そして、弟たちがいる部屋に戻りました。

「に、兄ちゃん? どうしたの?」

「いち兄、何がいたんですか?」

駆け寄る弟たち。動揺したように胸を押さえる長男。

「家に帰ったら、知らない美少女が俺のベッドで気持ちよさそうに寝てた件について」

「ラノベのタイトルみたいになってるよ兄ちゃん……って、え!? お、女の子!?」

「バカ低脳声が大きい……!」

3人は彼女が寝ていることを確認し、そのまま起こさないように夕食やら何やらを済ませました。
長男はその日、弟たちと一緒に眠ることにしました。弟たちが名も知らぬ美少女にこっそり感謝したのは、言うまでもありません。

翌日の朝。白雪姫が目を覚ますと、そこには3人の青年たちがいたので、慌ててベッドから出て謝りました。

「勝手にお邪魔してすみませんでした……!」

「あ、いやそれはいいんだ。それより、あんたの名前は?」

「あ、白雪姫です」

「白雪姫さん、どうしてこの家に来たんですか?」

末っ子らしい賢そうな少年にそう聞かれたので、白雪姫はお城を追い出されたことや、森の中を歩き通しだったことを話しました。

彼女に居場所が無いことを知った長男は、こう提案しました。

「あんたが料理とか掃除とか、洗濯とか裁縫とかをしてくれたら、ここに住んでいいっすよ」

こうして白雪姫は、優しい3兄弟のところで暮らすことになりました。

白雪姫は毎日家を綺麗にし、栄養が偏らない献立を考え、美味しい料理を作りました。

3人は朝から夕方まで山で働いているので、昼の間は白雪姫が1人になることが心配でした。

「お妃には気をつけてください」

「誰かが来ても、うちの中に入れちゃダメだからな」

「居留守を使ってくださいね。自分の身を大事にしてください」

「分かった。3人も怪我には気をつけてね。行ってらっしゃい」


……さて、あのお妃の方は情緒が安定して、以前のように自分磨きに専念していました。

しかし、別の国にいたのです。白雪姫の美しさを妬む、うぬぼれやのお妃が。

彼女は白雪姫の噂を聞きつけ、自分よりも人を惹きつける彼女が憎らしくて疎ましくてたまらなくなりました。他国の人のことなのに、どうしてそんなに怒れるのでしょうね。不思議ですね。でも醜い嫉妬心って、そういうところがありますよね。

彼女はお金で1人の男を雇い、白雪姫の暗殺を命じました。
彼は金で動く人間でしたので、目的の彼女の居場所を探り当て、物売りに変装して彼女に会いに行きました。

「綺麗な品物があるんだが、いらないか?」

トントンとドアを叩く音に、白雪姫はびくっと反応しましたが、3人との約束を思い出してじっとしていました。

「出てこねぇな……」

この時間は、小人たちの留守番してるはずなんだがな。物売りはそう思いましたが、本人が全く出てこないので、その日は帰ることにしました。

そして次の日。

「いい品物があるんだが、いらないか?」

素敵な飾りがついたくしを、窓からチラつかせながら、物売りはドアをノックします。白雪姫はまた息を殺し、誰もいないふりをしました。

「うーん、警戒心が強い嬢ちゃんだな」

ただでは転ばない物売りは、1つの案を考えました。知り合いの魔女に頼んで毒リンゴを作ってもらい、それを持ってまたあの家に向かいました。

白雪姫はその日、散歩に行く予定でした。2回も知らない人に来られたので、居留守ではなく本当の留守にしたくなり、少し外の空気を吸いたくなったのです。

「綺麗なお花があったら、家に飾ろうかな」

そう思っていた時でした。
倒れている男の人を見つけたのは。

「え……っ!? だ、大丈夫ですか!?」

慌てて駆け寄り、彼の頬にふれると、男の人はゆっくり目を開けました。

「わ、悪い……水を貰えねぇか……?」

「お水ですね。分かりました」

か細い声で告げる彼のために、白雪姫はすぐ家に戻り、コップに水をんで彼に飲ませました。

「いやぁ、助かった。薬草を採りにきたんだが、道に迷っちまってな」

「そうだったんですか」

へらりと笑って見せながら、彼は内心にやりと笑いました。
この嬢ちゃんは、自分より他人を優先するタイプか。今回は上手くいきそうだな。

「助けてくれた礼だ。このリンゴをあんたにやろう」

「え、お礼なんていいですよ」

「命を助けて貰ったんだ。受け取ってくれ」

差し出されたのは、つやつやと赤い、とても美味しそうなリンゴでした。こんなに見事なリンゴは滅多に無いでしょう。

白雪姫は知りません。その魅惑的なリンゴには、とても恐ろしい毒が芯まで染み込んであるということに。

吸い寄せられるように受け取り、白雪姫は甘い香りを放つリンゴを、1口かじりました。

その途端、毒が全身に回り、白雪姫はぱたりとその場に倒れてしまいました。

夕方になって帰ってきた3兄弟は、家の前で倒れている白雪姫を見て、とても驚きました。

体は冷たく強ばり、息もしていません。労りの言葉をかけてくれた唇は動かず、優しく見つめてくれた目は開きません。

彼らは悲しみ、涙を流しました。お葬式をしようとしましたが、彼女は生きていた頃のように綺麗なままでした。

「まだ寝てるみたいだ……」

「兄ちゃん、こんな状態の白雪姫を土に埋めるなんて、俺できないよ」

「そうだな……」

3人は透き通ったガラスで棺を作り、その中に柔らかいクッションを敷いて、彼女を寝かせました。
蓋には金文字で名前と身分を書き、家の側に置きました。そして1人がいつも、棺の番をすることにしました。

白雪姫の姿は変わりません。肌の色つやは良く、髪も黒いまま。死んだのではなく、本当にただ眠っているだけのようでした。

そんなある日、狩りに来ていた1人の王子が森に迷い込み、3兄弟の家に泊まりました。その時、ガラスの棺に入った白雪姫に、目を奪われたのです。

「王の娘である彼女が、何故ここに?」

「……リンゴを使った毒殺。彼女を狙ったのは、別の国の妃だ」

その日、棺の番だった三男は、自分が調べたことを王子に伝えました。すると王子は、ふところから包みを取り出して言いました。

「それなら、この薬草を煎じて飲ませるといい。これには解毒作用があるからな」

「待って。何で王子がそんなの持ってるの? そして何で薬学の技能あるわけ?」

「武術はもちろん、知識も王族には欠かせないからな」

王子は薬草を煮出して飲み薬を作り、それを白雪姫に口移しで飲ませました。

するとなんということでしょう。

固く閉じられていた白雪姫のまぶたがぱっちりと開き、王子の目を見つめ返したのです。

「私、どこにいるんですか?」

「小官のそばにいる」

王子は彼女を城に迎え、自分の花嫁にしたいと言いました。なので、彼女とまた一緒に暮らせると喜んでいた3兄弟と少し……いや、かなり揉めました。

その時ちょうど王子を探しに来た家来2人を仲介役とし、白雪姫の意思も聞いて、話し合った結果。

白雪姫と王子は一緒にお城へ行き、立派な結婚式をして、幸せに暮らしたそうです。しばしば3兄弟のところへ里帰りをしているとか。

めでたしめでたし。
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