ヒプマイ劇場
配役
✾王子役……山田二郎
✾継母役……夢野幻太郎
✾義姉1役……飴村乱数
✾義姉2役……有栖川帝統
✾魔法使い役……山田三郎
✾国王役……山田一郎
***
昔むかし。あるお金持ちの家で、優しい両親と可愛らしい女の子が幸せに暮らしていました。
ところがある日、お母さんが病で亡くなってしまい、その悲しみを埋めるためにお父さんは別の女性と再婚しました。
新しいお母さんとその連れ子2人と共に、穏やかな生活を取り戻せるかと思った矢先、お父さんまでもが病気で息を引き取ってしまいます。
新しいお母さんと連れ子2人が本性を現したのは、お父さんたちの遺産を彼女たちが継いでからでした。
「シンデレラ。部屋の隅にホコリが溜まっていましたよ」
「えっ、申し訳ありません! すぐに磨き直してきます!」
「まぁ嘘なんですけどね。あ、そろそろお茶の時間なので、茶請けの用意をお願い致します〜」
「何だよ! 雑巾持ってきちゃったじゃん!」
女の子は本来なら令嬢の身分であるにもかかわらず、小間使いのような扱いをされ、料理や掃除や洗濯を任されていました。
「シンデレラ〜! 僕これからオネーさんやオニーさんたちとパーティーするんだけどね、僕のヘアメイクしてくれないかな?」
「私これから水汲みに行くんですけども」
「え〜やってくれるの? シンデレラってば優しい! サイドを編み込みにして、このコサージュ付けてくれると嬉しいな☆」
「そこまで決まってるなら自分でやってくださいよ! もう、そこに座って! 今するから!」
暖炉の掃除をするせいで女の子の顔や服は灰で汚れ、いつしか彼女は"
「シンデレラー! 賭場に行くから金貸してくれー!」
「私よりあんたの方が金持ちだろうがぁ! てか仮にも令嬢(役)が博打をするな!」
ひねくれ者で、自由人で、奔放な彼女たちに振り回されながらも、シンデレラは懸命に家事をこなす生活を送っていました。
そんなとき、お屋敷にお城からの招待状が届きました。王子の花嫁を決めるために、国中の未婚女性を集めて舞踏会を開くというのです。
「妾は未亡人なので、玉の輿も夢ではありませんねぇ。未成年に興味は無いのでパスしますが」
「舞踏会! 楽しそう! どんなドレス着ていこうかな〜♪」
「城でやるってことは美味いメシ食い放題じゃねーか! 行く!」
招待状を囲んで楽しそうにはしゃぐ3人は、さっそく準備を始めています。それを手伝いながら、シンデレラは継母に本心を告げることを決めました。
「私も舞踏会に行きたいです! どうか連れていってください!」
「おや、貴女がおねだりするなんて珍しい。良いですよ。たまには外に出かけないと、筋力が弱って足に根が張り、車椅子での生活を余儀なくされると聞きますし」
「え、マジか……。頼んでみるもんだな……」
「嘘だけどね」
「落として上げるなよこの鬼!」
3人にからかわれ遊ばれる日常から、少しでも逃避したいというシンデレラの思いは届きません。
しかもシンデレラにはドレスも靴も無く、舞踏会にふさわしい装いをすることが出来ないのです。
留守番を頼んで馬車に乗り、意気揚々と舞踏会に出かけていく3人を見送ってから、シンデレラは屋根裏部屋のベッドに倒れ込みました。
「あーあ……。行ってみたかったな、お城の舞踏会。もういいや、今日は寝る。ふて寝する」
「貴女がどうしても出かけたいって言うなら、僕が手伝ってあげてもいいですよ」
「……え?」
突然聞こえた自分以外の声に、驚いたシンデレラが辺りを見回すと、闇色のローブをまとった黒髪の美少年が近くに立っていました。
「え?待って君どちら様?」
「魔法使いなfourteenです」
「突然の良発音」
「話を逸らさないでもらえます? 舞踏会に行きたいなら、僕が魔法をかけてあげます。時間は有限なので早く選択を」
「アッはい行きたいです!」
合理的に話を進める魔法使いにつられて、シンデレラが勢いよく首を縦に振ったとき、魔法使いが振った杖の先にある星が眩しく輝きます。
するとシンデレラが着ていた服は、赤いリボンが腰に巻かれた青い絹のドレスに。
履いていた靴は、透明なガラスの靴に。
頭に巻いていた布は、宝石をちりばめたティアラに。
灰で汚れていた顔や手は、元の白く滑らかな状態に変わっていたのです。
360度どんな角度で見ても、そこに立つ少女は小間使いではなく、立派なお姫様そのものに見えます。
「これが私……?! マジか!?」
「馬車も用意しました。門限もとい魔法が効くのは12時までです。鐘が鳴り終わる前に、家に帰ってくださいね」
「いえっさー!」
これで心配する要素は何もありません。
魔法使いに見送られ、シンデレラは喜びでドキドキする胸を押さえ、お城へ向かいました。
その頃お城では、豪華で賑やかな舞踏会の真っ最中でした。
誰もが楽しそうに過ごしているのに、王子だけは憂鬱そうな顔をして、高い位置に置かれた椅子に腰かけていました。
左右で色が違う目を伏せてため息をつくその姿は、彼の年の割には色っぽい雰囲気を醸し出していて、余計女性たちの心を惹きつけます。
「気になる人は見つかったか?」
「兄ちゃん……。やっぱ俺には、結婚なんてまだ早いよ。しかも今日初めて会う奴と、どう話していいか分かんねーし……」
顔を赤くして困ったように眉を下げる王子を見て、彼の兄でもある国王はその背中を軽く叩きました。
「気持ちは分かるけど、人生のパートナーを見つける大事な場だ。座ったままなのは、もったいねえぞ」
「うん……。ちょっと外の空気吸ってくる」
「おう」
王子は複雑な気持ちでいました。
顔も知らない他人なのに、恐らく王子という肩書き目当てで集まる女性と、結婚なんてとても考えられません。
どうせなら、前に読んだ物語のように、自分のことを理解してくれる女性と出会いたい。
それが王子の夢でした。
「はぁ……」
王子が会場の外にある庭園で、ベンチに座ってため息をついたときです。
「どうしたんですか? こんな所で」
いきなりかけられた声に顔を上げると、そこには盛りの花よりも愛らしく可憐な少女が、月明かりに照らされて立っていました。
彼女はちょうどお城に到着し、会場を探し歩いていたシンデレラでした。
「な……っ!? 何だお前! 何でこんな所にいるんだよ!?」
「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。ちょっと舞踏会に遅刻して迷子になってる、ただの女の子です。お気になさらず」
「……お前も、王子とその、け、結婚したくて来たのかよ……」
「いや全然」
「はぁ!?」
「え、そんな驚く?」
目をむく王子に、何も知らないシンデレラは敬語を無くして不思議そうに首を傾げてから、目の前に広がる花園を見渡しました。
「それにしても、手入れが大変そうだけど、ここはすごく綺麗な場所だね」
「あ、当たり前だろ……。結構な数の庭師が、ここの世話してるから」
「あーなるほど! やっぱりお城は人手が多いよねぇ。羨ましいなー」
王子の花嫁が目当てではなく、王子の顔すらも把握していない。
舞踏会は既に始まっているのに焦らず、庭の手入れの心配をしながらもその美しさを褒める、おかしな姫君。
王子はそんなシンデレラのことが、気になってたまりませんでした。
「……お前さ、王子と結婚するのが目的じゃないなら、何で舞踏会に来たんだよ」
「君って知りたがりさんだねぇ。いいよ、教えてあげる。非日常を感じたかったからだよ。私、家だと色々大変なんだよね」
「へー……」
気が緩んでいるような笑顔を見せるシンデレラに、王子は胸をときめかせながら、彼女を身近な存在に感じ始めました。
王子も剣の鍛錬や勉学や馬術等に、毎日必死で取り組んでいましたから。
話をするうちに、2人は仲良くなっていきました。
誰にも邪魔されない2人だけの空間が、とても居心地が良くて、この時間が永遠に続けばいいと思うほどに……。
その時、お城の鐘が高らかに鳴り響きました。
シンデレラがハッと時計を見上げると、もうすぐ魔法が解けてしまう12時です。
「ごめん! 私、帰らなきゃ!」
「えっ!? 帰るの早くね!?」
返事を待たずにスカートをたくし上げ、一目散に駆け出すシンデレラ。
驚き困惑しながらも、やっと見つけた結婚したい人を、簡単に逃がしたくない王子。
「ちょー!? 何で追いかけてくんの!?」
「お前が逃げるからだろ! 待てって!」
「無理ですー! 待てません! こちとら遊びじゃねーんだよ!」
鐘はあと数回で鳴り終わってしまいます。
あんまり急いだのでガラスの靴の片方が脱げてしまいましたが、拾う余裕が無いシンデレラはそのまま放置しました。
「あいつ足早すぎだろ……」
体力に自信があった王子でも、彼女を捕まえることはできませんでした。
どこの家の生まれなのか、どんな名前なのか、探すための手がかりは聞いていません。
もうこのまま彼女には会えないのでしょうか?
いいえ、そんな心配は無用でした。
階段に転がっているガラスの靴を、王子は傷をつけないように恐る恐る拾い上げ、決意のこもった目でそれを見つめました。
***
「つーわけで迎えに来た。もう逃がさねーからな」
「待って仕事早すぎない!? まだ1日しか経ってないよ!?」
「実は俺、国中にダチがたくさんいてさ。そいつらから色々聞いて探し当てた。ちなみに裏付けはこれな」
「私が落っことしたガラスの靴やんけ。……いいの? 私はお姫様じゃないんだよ? こんな小間使いだよ?」
「そんなの関係ねーよ。俺はお前と一緒にいたい。結婚すんならお前がいい。俺と家族になってくれ!」
「……っ、はい!」
こうしてシンデレラと、熱意と人脈で意中の人を見つけ出した王子は結婚式を挙げ、人生を終えるまで幸せに暮らしました。
めでたしめでたし。