あんたには、お礼をしたいと思えたから
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コンビニから家に帰る途中、路地裏で1人の男の子を見つけた。
コンクリートの壁に背中を預け、足を投げ出し、深く俯いている。口元には血が滲んでいて、腕にも傷があって、ひと暴れしてきた後みたいだ。
近くにしゃがみこんでも反応は無い。心配になりながら、私はレジ袋から取り出したミネラルウォーターをハンカチに含ませて、彼の口元についた血をそっと拭おうとした。
「っ!? 触んなっ!」
「わっ!?」
その時、弾かれたように彼の腕が動き、大きい手が私の肩をドンと強く押した。その衝撃に耐えられず、どさっと尻もちをつく。
良かった。意識が戻ったのか。
そう思いながら、私は手負いの獣みたいな男の子を見つめた。赤いパーカーの上に羽織った学ランから、高校生くらいかなという目星がついた。
「驚かせてごめんね。その怪我、痛そうだから、手当だけさせてくれないかな?」
「……」
「大丈夫。それ以外のことはしないから」
「……」
うーん。何か本当に、怪我した野良犬を相手にしてる気分になってきた。
本気で嫌なら逃げ出すだろうに、動くのが億劫なのか、彼は無言で私を睨みつけるだけだ。
そろりそろりとハンカチを伸ばす。
彼はそれを片手で遮る。
「……やめろ。汚れんだろ」
「今日1日使ってないから綺麗だよ」
「……そうじゃねえよ」
「……あ。別に人の血なんて気にしないよ。手当が大事だし。ほら腕も出す」
痛くしないように気をつけつつ、優しく彼の傷にハンカチを当てていく。最初は抵抗するように身じろぎしていた彼だけど、少しずつ大人しくなっていった。
不良にしては珍しい、染めたことがなさそうな黒髪。ルビーとエメラルドをはめ込んだような瞳には、あまり輝きが見えない。左目の下にはホクロが1つ。
ムスッとしてるけど、精悍な顔立ちをしている。
カバンに入れていた絆創膏を、全部の傷にぺたりと貼り付けてから、私はハンカチを彼の頬に当てた。
「よし、終わり。頬が少し腫れてるから、これで冷やしてね。それじゃ」
手当以外のことはしないと言ったので、私はさっと立ち上がり、彼に軽く手を振って路地裏を出る。
ハンカチは別に惜しくなかった。
それに、もう会うことは無いだろうと思っていたし、歳下に見返りを求めるほど落ちぶれていないつもりだった。
だから、もう1度彼に会ったとき、私はかなり驚いた。
再会のきっかけは、私が3人くらいの男の人に絡まれていたのを、彼が助けてくれたことだった。
「君、あの時の不良くん」
そう声をかけると、彼は眉間にシワを寄せた。
「助けてくれてありがとう。名も知らぬ少年」
呼び方を変えてみたけど、雰囲気から察するに、彼はそっちもお気に召さないみたいだった。
「ムスッとしてても分からないよ。ちゃんと名前を呼ばれたいなら、そう言わないと」
「……あんただって、名乗らずにどっか行っただろーが」
「手当以外する気無かったからね。私は苗字 名前。君は?」
「……山田 一郎」
「覚えやすいね」
率直な感想を言ったとき、一郎くんがずいっと小さな包みを差し出してきた。雑貨屋さんにありそうな、オシャレなデザインのやつ。
「ん」
「?」
「ん!」
「待ってこれ何」
アニメ映画で見たような、ちょっと既視感のあるやり取りをしながら、受け取って包みを開けてみる。
中身は、花の刺繍が入った水色のハンカチだった。
「え、可愛い。これどうしたの?」
「……この前、あんたのハンカチ駄目にしちまったから」
「気にしなくてよかったのに。律儀だねぇ」
ちゃんとお礼をするなんて偉いなぁ。
それに、この見た目で雑貨屋行ったのかと思うと、その光景をちょっと見たいような気になってくる。なんて、失礼かな。
「────────」
「? 一郎くん、今なんて言ったの?」
「……別に。何も」
「そっか。ハンカチありがとう。大事にしまっておくね」
「いや使えよ」
「あはは。はーい」