君の神様になりたかった
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暗いところは嫌い。
過去のトラウマに引きずられるように、悲しい、辛い、悔しい、寂しい、怖い、そんなマイナスな感情が一気に吹き上がってくるから。
そうなったきっかけは、5年くらい前だ。
小学生の頃は、楽しいこともあったけど悲しいことも多くて、思い出すと胸が苦しくなる。
小学2年生のときに隣の席になった、ある男の子と仲良くなった。
元気で運動が得意な子。
その子はお父さんもお母さんもいなくて、児童養護施設で暮らしていた。
その施設は、私がお母さんと住んでいたアパートの近くにあって、私たちはよく遊んだり、私の家でおやつを食べたりした。
その子の弟くんやお兄さんも一緒に。
その子を「じろちゃん」、弟くんを「さぶちゃん」、お兄さんを「いっちゃん」と呼ぶくらい仲良くなった。毎日楽しかった。
でも6年生になったとき、同じ学校の男の子たちが、じろちゃんとさぶちゃんをいじめるようになった。
お父さんもお母さんもいて恵まれてるのに、人をバカにすることしかできない。今思えば、あのいじめっ子たちはすごく可哀想な人間だったんだろう。
「やめてよ。そういうのカッコ悪いよ」
そう言うと、今度は私とじろちゃんが付き合ってるとからかうようになった。
それでも負けずに、私はじろちゃんたちの味方でいようと決めた。
だけど、それ以来じろちゃんは私を避けるようになった。
毎日傷だらけで、暗い顔で、でも何も言ってくれない。
力になりたいのに。助けになりたいのに。
「大丈夫」で片付けられたら、私は何もできなくて、放課後すぐに2人を追いかけた。
そしたら、中学生か高校生くらいの怖い男の人が、さぶちゃんから封筒を取り上げてるのを見つけた。
後のことは、正直ぼんやりしてる。
唯一の武器になるランドセルを振り回して突進して、蹴られた。そんな映像が切れ切れに残ってる。
倒れた私を庇うじろちゃんと泣いてるさぶちゃんがぼやけて見えて、自分はなんて無力なんだろうと、唇を血が滲むほど噛み締めていた。
「自分で解決しようと思ったんだ。志織は友達だから、巻き込みたくなかったんだ」
そんな形で、じろちゃんが私を避けていた理由を知った。
数日後、怖い人はパタリと来なくなった。
それは良かったんだけど、なぜかいっちゃんと会うことが今まで以上に無くなった。
何でだろうなと考えながら、あの日、お母さんと買い物に出かけた。
「今日の夕飯は何にしようか」
「久しぶりに肉じゃが食べたい!」
「じゃあそれにしよっか。今日もお手伝いよろしくね」
「うん!」
そんな平凡な会話をしながら帰ってきたとき、30代くらいの男の人が現れた。
お母さんが表情を強ばらせ、私を連れてアパートに逃げ込もうとしたけど、その人は玄関に押し入ってきた。
「金を貸してくれ」「やり直そう」と、何かに取り憑かれているような顔でその人は言った。
お母さんは私を守るように抱きしめて、何度も首を横に振って、「帰ってください」と必死な様子で言った。
男の人は怒り出し、お母さんを殴り、上着から包丁を取り出した。
お母さんが私を連れて部屋に走り、私を押し入れの中に入れる。
「お母さ、待って」
「大丈夫だから、ここで待ってて」
赤く腫れた頬で笑うお母さん。
閉められた扉。鍵がかかる音。
そこからの記憶は断片的だ。
物が壊れる音。男の人の怒鳴り声。
お母さんのうめき声。
真っ暗闇の中で、そんな音だけが聞こえて、怖くて怖くて体が震えた。
泣きながら、耳を塞いでうずくまる。
(何で、なんで、こんなことに)
目が覚めたとき、暗闇の向こうから複数の人の話し声がして、私はお母さんを呼びながら扉を叩いた。
鍵が回る音がし、扉が開く。
勢い余って倒れ込んだ私を受け止めたのは、お母さんではなく、眼鏡をかけた警察官さんだった。
「お母さん……?」
部屋の中は変わり果てていた。
めちゃめちゃになった家具。
散乱した小物。
床に広がる赤黒い液体。
それを見て、私は気を失った。
***
ピピピピッ、ピピピピッ。
電子音を鳴らす目覚まし時計を止めて、私は「っあ〜〜…………」と
「久々に嫌な夢見た……」
常夜灯が必要ないほど明るくなった窓の向こうを見て、朝が来たことを実感する。
ここはイケブクロにある、萬屋ヤマダの事務所兼自宅の一部屋。
あれから色々……本当に色々あり、私は3年ほどお世話になった児童養護施設を出て、いっちゃんたちの家に居候していた。
「朝に嫌なことがあったら、今日1日嫌なことは何も起きない。さて、朝の支度しよーっと」
持論を呟きながらベッドから出る。
今まで
「成長するにつれて、世界が少しずつ生きやすくなることもあるんだなぁ」
洗濯機のスイッチを押しながら独りごちる。
大切な人の神様にはなれなかったけど、12歳の私には出来なかったことが、17歳の私には出来るようになった。
例えば、突っかかってくる人の対処法とか、自分の感情のコントロールとか。
それに、物理的に守るための腕力は無いけど、支えるための能力ならある。
前を向いていく3人のために、私が出来ることをこれからもしていこう。
「おらぁっ!起きろじろちゃんっ!」
「どわーっ!?志織お前っ、いきなり布団引っぺがすんじゃねーよ!」
「こうしたほうが目、覚めるでしょ?あと遅くまでラノベ読むのやめたほうが良いんじゃない?」
「え、何で知って……あっ」
枕元に3冊積み重なったラノベを指さすと、じろちゃんは「やべっ」と言うような顔をした。
「昨日の残りのカレー、さぶちゃんがよそってくれてるから、早く着替えておいでねー」
「おー、分かった!」
じろちゃんの着替えを邪魔する前に部屋を出る。ダイニングルームには、いっちゃんとさぶちゃんが朝ごはんを並べてくれていた。
「志織、おはよ。朝から元気だなー」
「おはよー、いっちゃん!」
「1回二郎に寝坊させたらどう?痛い目を見た方が懲りると思うけど」
「うーん、こっちがハラハラするからやだなぁ」
どうか、こんな幸せが、1日でも多く側にありますように。