魔女とみなしご三兄弟
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「……人間の子ども? 珍しいね。こんな所まで来るなんて」
突然聞こえた知らない人物の声に、"彼ら"は肩をビクッと震わせる。
生い茂る草を踏みしめて現れたのは、墨で染めたようなワンピースと帽子をまとった、17歳くらいの少女だった。
赤いリボンがついたとんがり帽子は、彼女の頭にはやや大きいサイズで、ずり落ちないように片手で押さえている。
その格好は、絵本に出てくるような魔女にそっくりだった。
少女は興味深そうに、警戒するような目を向けながらも動けなくなっている3人の子どもたちを、じっと見つめた。
3兄弟なのだろう。ボサボサの黒髪や左右で色が異なる目といった共通点があり、3人ともよく見ると綺麗な顔立ちをしている。
ただ、貧しさかそれとも別の理由があるのか、着ている服はボロボロで、全体的に薄汚れていた。腕や膝、何も履いていない足には転んだような擦り傷がいくつもあって、血が滲んでいる。
1番小さい子は3歳くらい、真ん中の子は6歳くらい、1番大きい子は8歳くらいだろうか。
「迷子なの? 家、分かる?」
「……帰らねぇ」
「家出でもした?」
「……」
長兄らしい男の子と、目線を合わせるようにしゃがみこむ。赤と緑の色を持つ子は、弟たちを守るように立ちながら、少女の目をじっと見る。
その時、黄色と緑の色を持つ次兄らしい子が、小さな弟を抱き寄せながら、緊張したような声で言った。
「おねがい、たすけて。おれたち、にげてきたんだ」
「逃げてきたって……何か不穏だね。もしかして、最近噂になってる人売りからかな?」
「……うん」
「なるほど……」
ふむ、と少し考えてから、少女はそっと自分の手を3人の方へ差し伸べる。
「よかったら、うちへおいでよ。ここは森の奥だから追手は来られないと思うけど、代わりに魔獣がうようよいるからね。君たちみたいに武器を持たない子どもは、すぐ食べられちゃうよ」
「ひえっ」
「だから、私の家で暮らさない? 君たちにとって、悪い話では無いと思うよ」
魔獣と聞いて怯えた様子を見せる彼らに、優しく誠実な言葉をかける少女。
その気持ちが伝わったのか、赤と緑の色を持つ少年は、思い切ったように少女の手を掴んだ。
「……お願い、します」
「よし。そうと決まったら帰ろっか。家に着いたらまず手当だね。あ、先に体を洗った方が良いのかな」
少女は、名をシオリと言った。
3人の兄弟たちは、上から順番に、イチロウ、ジロウ、サブロウと名乗った。
***
「ねぇ、シオリ」
「ん? どうしたのサブちゃん」
4人での生活に慣れてきた頃、本の部屋から持ってきたらしい魔導書を抱えたサブロウが、シオリの服の裾を軽く引っ張った。
「マホウでやさいをつくれば、そだてなくてもいいんじゃない?」
「もう効率を求めちゃうか。君、将来すごい人になるよ」
サブロウの小さな頭を撫でながら、シオリは丁寧に世話をしている畑を見て、こう続ける。
「でもね。何でもかんでもパパッと済ませたら、つまんないでしょ?楽しみにしながら何かを待つ時間って、けっこう大事なんだよ」
「そうなの?」
「も少し大きくなったら分かるかな」
大きな緑色と青色の目で、サブロウはシオリを見上げた。
この家に来てからたくさんの本を読むようになったけど、まだ自分が知らないことがあることに、サブロウは何だかワクワクしていた。
***
「シオリ……ごめん……」
「あちゃあ。これまた派手なことになってんね」
森の中で遊んでいたジロウが、怒られることを覚悟しているように眉を下げて帰ってきた。
どうやら枝に引っかけたらしく、シオリがミシンや手作業で縫ったシャツやズボンが所々裂けている。
「ジロちゃんはホントにわんぱくだなぁ。怪我はかすり傷だけ?」
「おこんねぇの……?」
「ジロちゃんは怒られたいの?」
「やだ」
ぶんぶんと正直に首を横に振るジロウに、シオリはクスッと笑みをこぼす。
「服はまた縫えばいいし、子どもは元気なのが1番だからね。大怪我して帰ってくるよりは、ずっといいよ」
「そっか」
「まぁ毎日のように破かれたら、さすがに
「う、ごめんなさい!もうしない!」
「あはは、分かればよろしい」
傷に自家製の薬を塗り、服の破けたところを直してくれるシオリを見て、ジロウはもうあまり記憶に残っていない母の姿を思い浮かべていた。
***
「まーーーたイっちゃんはもーーー」
「わ、悪い……」
ジロウとはまた違う傷をこしらえて帰ってきたイチロウに、シオリはジト目でデコピンをくらわした。
「何で魔獣たちに喧嘩売りに行くの? あの子たち、イっちゃんが私の家族だから手加減してくれてるんだからね?」
「……強くなりてえから」
「なら体を鍛えるとこから始めんか。棒切れ1本でグリフォンに立ち向かえるわけないでしょ」
シオリは説教をしながらイチロウの傷を洗い、畑から採れたハーブで作った薬を塗りつけて、白い布をまく。
何でこの子は強くなろうと焦るんだろう。
ジロちゃんやサブちゃんのためかな。
「戦うより、共存する道も考えてみたら? 今まで見えなかった方法が見つかるかもよ」
毎日のように挑みに行くイチロウを、森に住む魔獣たちが気に入り始めていることを、シオリは彼らから聞いて知っていた。
どうやらイチロウには、ビーストテイマーの才能があるようだった。
***
「シオリ、ただいま!」
「イっちゃんおかえり! 森の様子どうだった?」
「今日も侵入者はゼロ。あいつらも森中確認してくれたから、死角は無いぜ」
「さすがぁ。頼もしい」
「兄ちゃんおかえり! シオリー、野菜の収穫終わった! ここに置いとくぞ」
「ジロちゃんありがとー! 助かるわー」
「いち兄おかえりなさい。シオリ、足りなくなってるハーブ薬があったから、新しく作っておいたよ」
「サブちゃん、薬作り上手くなったねぇ。教えたかいがあったわ」
3人をこの家に置いてから数年後。彼らはすくすくと成長してシオリの背を追い越し、身体や顔つきも
イチロウはビーストテイマーとして森を守り、ジロウは野菜の収穫や家の修理で腕を振るう。サブロウはシオリに教わって、薬の調合を覚えたり、ちょっとした魔法を上手く使いこなしたりしている。
少年から青年に変わっていく速さを目の当たりにし、シオリは「大きくなって……」と片手で目を押さえた。
心が熱く震えるような、彼らが自分の手を離れていくような。そんな不思議な気持ちを、シオリは生まれて初めて噛み締めていた。