序章



「わたくしに魔法のまどをあけてみせてくれたのは、この部屋です。そこのまどから、わたくしは、じぶんの生きる世界や時代とはちがった、またべつの世界や時代をのぞきました」

イギリスの児童文学作家、エリナー・ファージョンは、子どもの頃の読書についてこんなふうに語っていた。

私にとって本を読むことは、ドアを開けて、そこに広がっている世界や物語の中を、登場人物たちと一緒に進んでいくことだった。

私に読書の楽しさを教えてくれたのは、おばあちゃんだ。『いばら姫』や『おやゆび姫』、『赤ずきん』に『オズの魔法使い』。他にもいろいろな物語を読み聞かせてくれた。

絵本だけじゃなく、おばあちゃんが自分で作ったお話を、聞かせてもらうこともあった。

それは、人々の想像力が降り積もって生まれた、おとぎ話の世界――パンタシアの物語。王様や魔法使いがいて、妖精がいて、不思議な生き物がいて、優しい人たちが暮らしている素敵な世界。

「すごいねえ、ほんとにあるみたいだね」
「おや。まるで無いと思ってるような言い方だね。セイラ」
「ちがうの? おばあちゃんがつくったおはなしじゃないの?」
「違うとも。パンタシアも、魔法使いも、美しい国も、本当にあるのさ」
「それなら、わたしもいってみたい!」
「今は難しいね。でも、"流れ"がお前を導く日が来れば、きっとたどり着ける」

おばあちゃんが、緑色の目で私を見下ろしながら、優しく頭を撫でてくれる。ゆるやかに波打つ純白の髪が、花嫁さんのベールみたいに下りてくるのが、私は好きだった。

「お前は、空想が力になることを知っているからね」

絵本に出てくる仙女さまのようなおばあちゃんが、秘密を口にするようにささやく。その言葉は、私には預言めいたものに聞こえた。
おばあちゃんが身につけている、オパールのブローチが、ゆらりと虹色にきらめく。

「もしたどり着いたら、お前が見てきた物語を、私に聞かせておくれ。可愛いセイラ。……私の孫よ」
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