それは、とあるハイエナの魔法
シュッとした黒いズボンに、胸と二の腕の辺りが青地に白の花柄になってるフード付きのジャージ。いろいろ試着をして、釘崎さんが選んだのはそれだった。
「白だから、釘崎さんの明るい髪色が映えるね」
「あんた分かってるじゃない」
制服からワンピースに着替えて、ふふんと満足そうに笑う釘崎さんは、呪術師じゃなくて普通の女の子に見えた。私たちまだ16歳だし、当たり前か。
マネキンに着せられているものや、ハンガーにかかった服を眺める。たまに釘崎さんが、何着か私の体に服を当てていた。
「……あ」
目に付いた服を思わず手に取る。
それは、胸元にワンポイントのむきエビの刺繍がついた、淡い緑色のジャージだった。それと、デフォルメした赤い小エビがプリントされている、半袖のTシャツ。ゆるい感じが可愛い。
「私、これにする」
「……何か気が抜けるの選んだわね。あんたエビ好きなの?」
「そういうわけじゃないけど、これにしたいなって思った」
2人でレジに並んで、お金を払ってからお店を出る。可愛いジャージを買うという目的は果たしたけど、釘崎さんはそれだけで帰る気は無かったようだ。
「裏原?? 裏原ってどこよ!! 地下!?」
「あ、明治通りから入ったキャットストリート周辺らしいよ」
スマホと服が入った袋を持って、東京の街を歩く。お花屋さんの店先で揺れる真っ赤なバラに見とれたり、立ち寄った雑貨屋さんでトランプのチャームがついたブレスレットを買ったり、マカロンが並ぶお菓子屋さんに入ってみたりしながら。
どのお店を見ても、釘崎さんの目がキラキラ輝いていた。
少し歩き疲れ、近くにあったカフェに入る。
釘崎さんはベリーのスムージーと、ホイップクリーム山盛りのパンケーキ。私はオレンジジュースと、栗のグラッセを乗せたマロンタルトを頼んだ。
「栗が好きなの?」
「栗自体はそこまでじゃないよ。でも、何でかな。マロンタルトは最近好きになった」
「あんた、自分の好きなものなのに、よく分かってないのね」
「不思議だよね。釘崎さんは何が好き?」
「流行りものとスイカかしら。あと、私のことは野薔薇でいいわよ。私も佑って呼ぶから」
「……! うん、野薔薇ちゃん!」
「ちゃん付けはしなくていいから」
注文したケーキが運ばれてくる。フォークで1口サイズに切ると、タルト生地がサクッと軽い音を立てた。ふわふわのクリームが乗ったタルトを口に入れれば、甘すぎないのに濃厚な栗の味が広がっていく。
それは、どこか懐かしく感じる味だった。
ひと口ひと口、大切にしていた何かの欠片を口に含むように、私は味わって食べた。