何でもない日が一番
佐藤 佑という人間は、善人か悪人かと問われれば、善人に分類されると思う。
まず、佐藤は真面目だ。
座学でも体術でも、適当にやり過ごすということが無い。そもそも、そんなことをしたら禪院先輩にボコボコにされるだろうし、呪術師の世界では生きていけなくなる。
目で、耳で、肌で、手足の感覚で。頭だけじゃなく、自分の身体全てで知識や技術を吸収しようとしているかのような気迫さえ感じるほどに、あいつは真剣に取り組んでいる。
教えられたことを飲み込んで、実行に移す素直さもある。俺や釘崎みたいに、先輩に対して生意気と評されるような態度を取ることは無い。それでいて、先輩に媚びたり服従したりするようなことも無い。
次に、佐藤は意外とノリがいいというか、冗談を言うことがある。
少年院に行った時。出口が無くなったことに動揺した虎杖や釘崎と、一緒に盆踊りを踊り出したり、玉犬を撫でくりまわしたり、緊張感に欠ける行動を取っていた。
交流会に向けた特訓で、俺との手合わせを終えた時。あいつは疲れたのか、地面の上に大の字になって、「夕陽に向かって走ろうぜ……」なんて呟いていた。あの時は日が傾くまでに、まだまだ時間があったのにだ。どこの青くさい青春ドラマだ。
真面目で素直で、どこか周りの影響を受けやすい、まっさらな人間。
白い環境にいれば白に、黒い環境にいれば黒に染まりそうなやつ。
子どもじみているわけじゃないのに、そんな子どもに似た純朴なところがある。
時に自分の考えを、鋭いくらいにはっきり言うギャップもあるからか、俺は佐藤の姿をよく目で追うようになっていた。
特級相当の仮想怨霊を2体使役している。
彼女に害をなそうとすれば、黒い茨が飛び出す。
更に複数の術式を持つと言われる存在。
佐藤のことが気になるのは、あいつについて分からないことが多いことも、関係しているのかもしれない。
「佑はいろいろ未知数だからさ。皆で刺激して、上手く引き出してほしいんだよね」
「ほら、若人たちって、お互いに切磋琢磨して成長していくもんでしょ」
五条先生はそう言っていたが、あの人のことだから、面倒事を俺たちに体よく押し付けた可能性が高い。
佐藤のことを知るには、どうすればいいのか。
そんなことを考えながら、俺は教室や校庭で、佐藤と顔を合わせるのだった。