付喪神と一緒
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「銀時、銀さん、銀ちゃん、銀」
机の上でポッキーを1本ずつ取り出しては、小さな体でサクサクと食べる神さまをじいっと眺めながら神さまの名前を口にしていると、ふわふわの神さまはこちらをくるりと振り返った。
『え?何?』
「呼び方をどれがいいかなぁって」
『好きに呼べばいいじゃねェか』
また1本、箱から引きずり出しながらポッキーを食べる神さまは、最近はイタズラもしなくなり大人しくなった。
たまに鳩やカラスに追いかけ回されたりしていて本当に神様らしくないのだが、こういうものなのだろうか?
「じゃあー…銀ちゃんかな?小さくてふわふわで可愛いし!」
『可愛いよりかっこいいだろ~』
「う、ウーン…三頭身だからな…」
銀ちゃんと名付けられて不満はなさそうだが、わざと怒ったような素振りを見せる銀ちゃんはマスコットキャラクターのようだ。
手乗りサイズなのと、三頭身ほどしかないのでどうしてもかっこいいというよりは……なのだが、口にしたら怒るので、黙っておこう。
「あ~明日は学校かぁ~」
椅子に座ってくるりと回転しながらそう呟けば、銀ちゃんは嬉しそうにぴょんと跳ねた。
『っしゃー!また学校に行けるんだな!帰りにコンビニ寄ってお菓子買って帰ろうぜ』
「私はこのまま引きこもっていたいけどねぇ~」
『ったくよ~近頃の若いモンは駄目だなァ』
銀ちゃんは私の肩にふわりと飛び移り、ぴんぴんと髪の毛を引っ張って怒り出した。
どうやら銀ちゃんはこの世界が気に入っているみたいで、よく外に出ようとせがんでいた。
それもたった土日の休みですら篭っているのが退屈なようで、休みの日はまるで小さな子供のように朝から夜まで大騒ぎだ。
***
「ぽん子!いい朝アルな!」
「おはよう~」
神楽ちゃんは今日も朝から元気いっぱいだ。
目の前を歩いていた近藤くんも妙ちゃんに蹴り飛ばされながら元気に挨拶していて、高校生の朝には見えない風景だが、これがいつもの私の世界だ。
『毎日毎日、朝から騒がしい奴らだな』
「元気があっていいことでしょ」
周りの人には見えない銀ちゃんにこそこそ返事をすれば、そんなもんかねぇと悪態をついているものの、その表情は言葉の割には楽しそうに見える。
(昔を思い出しているのかなぁ
って、銀ちゃんに過去があるかどうかとか知らないけど)
「ぽん子、悪いけど課題見せてくだせェ」
「また?!最近いっつも沖田くん忘れてない?」
『出たなドS魔人!』
教室に着いて椅子に座った途端、私は背後からポンポンと軽く頭を叩かれた。
振り向けばニヤリと笑いながらノートを丸めて持つ沖田くんの姿が。
「仕方ねぇだろィ。風紀委員もしながら課題もこなしてって、俺ァ忙しいんでィ」
「いや土方くんも近藤くんも同じでしょ」
ここ数日の間でお決まりとなりつつあるこのやり取りを聞いていた銀ちゃんは、ぴょいと沖田くんの頭に飛び乗ると、何を思ったのか腰に差していた木刀を沖田くんの頭に突き刺そうとしている。
「ん?」
『うぉっ!あ、あぶね…』
その瞬間、沖田くんは頭頂部をサッと払うような仕草で銀ちゃんを叩き落とそうとしたが、すんでのところで銀ちゃんは飛び跳ねて事なきを得た。
まるで銀ちゃんがそこに居るのを知っていたかのようなタイミングで動いた沖田くんに、もしかして私以外にも見える人なのでは!と期待を寄せた。
「なんでィ、虫でも止まったかと思ったが何もねェや」
わしゃわしゃと頭を搔く沖田くんの言葉に、そんな訳ないかとガッカリしつつ、私はご要望のノートを渡した。
他の人にも銀ちゃんが見えていたら、きっと銀ちゃんももっと楽しいだろうにと思うけれど、その願いはなかなか叶いそうにはない。
「ねぇ銀ちゃん、私の他にも銀ちゃんのことが見える人に会えるといいね」
沖田くんの頭から私の机に着地した銀ちゃんのふわふわの髪を指先でそっと触れながらこっそり声をかけたら、銀ちゃんはフンっと鼻で笑ってそっぽを向いてしまった。
『変なやつに目ぇ付けられても困るからな!
俺にはぽん子だけで十分だよ』
そう言った銀ちゃんの横顔はほんのり赤くて、照れ隠しなのは一目瞭然だった。
だけどそう言えば銀ちゃんは不機嫌になってしまいそうで、私は何も言わずに「そっか」とだけ返事をして銀ちゃんの頭を優しく撫でた。
だけど、と私はずっと思っていた。
私が気付くまで銀ちゃんはひとりぼっちで、きっと私や他の誰かに自分の存在をずっとアピールし続けていたんだと思う。
誰に聞こえなくても話しかけて、必死に何かを伝えようとしてくれていたんだろう。
どんな気持ちでいたんだろうと思うと、私は胸を締め付けられるように苦しくて、同時に銀ちゃんを見つけることが出来て良かったと本当に思えた。
「銀ちゃん、大好きよ」
『なっ何だよ急に…』
小さな神様は恥ずかしそうに背中を向けてしまったけれど、楽しそうにくるりと一回りした。