土方くんとトッシーと私と(土方)
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2月です。2月といえばそう、バレンタインです!
バレンタインといえば、好きな人への想いを伝えるのに1番分かりやすい日だと私は思います。
なので土方くんに少しでも思いが伝わればと考えて、こっそりリサーチに励んでいました。
「十四郎は甘いもの苦手でござるよ。僕もだけど、貰えるなら食べるよ。えっくれないの?くれるよね?女子の間では友チョコってあるでしょ?僕は女子じゃないけどぽん子氏のことは親友だと思ってるから信じてるよ!ちゃんとお返しもするし!」
電話越しのトッシーの叫びは聞き流しながら通話を終え、土方くんが甘いものは苦手だと知った上でさほど料理が得意ではない私が作るべきは何だと考えた。
そしてたどり着いた答えは、コーヒー味のクッキーだった。
ピロンピロンと送られてくるトッシーからのメッセージの通知をオフにし、静かになった画面上に指を走らせながらレシピを調べてせっせと必要なものや手順を確認していく。
「土方くん、喜んでくれるかなぁ」
もしかしたら他の子達からも貰うかも知れないが、何とか2人になれるタイミングを見計らってさりげなく渡すのだ。
そして確かな感触があれば……って確かな感触が何かは分からないけれど、その時がきたら勇気をだして告白してみよう。
「出来たらだけどね!出来たらね!」
頬を挟みながら、自分にそう言い訳してきゃあきゃあ騒いでいるとお母さんから注意をされたので、静かに計画を立てることにした。
そうして迎えたバレンタインデーの朝、準備には夜までかかってしまったものの久々にお菓子作りをしたわりにはこじんまりとラッピングされた目の前のクッキーはまぁまぁの出来だと言えよう。
「あとは渡すだけなんだけど…」
こっそりと鞄に忍ばせ、持ってきたもののいつ渡せるだろうかと私は悩んでいた。
事前に声をかけてはあまりに露骨すぎるだろうかと完全に逃げ腰になっていた私は、土方くんへ何のアクションも起こせずにただただ普通に授業を受けて、今はもう昼休みになってしまった。
これはもう突撃しかないと土方くんのクラスへ向かうも、近藤くんがお妙ちゃんにしばかれているいつもの光景だけが広がるそこに土方くんの姿はなく肩を落として教室を後にする。
「いないなぁ」
あちこち歩いたが土方くんを見つけることが出来ず、諦めて自分のクラスへ引き返そうと向かう途中の渡り廊下で銀八先生が前からいつも以上に気だるそうにこちらへ歩いてくるのが見えた。
「先生こんにちは」
「おー」
すれ違いざま声をかけると、こちらを見た先生は私の手元に視線を落としたかと思うと一気に怖い顔へと豹変した。
えっなに怖!とびびって体に力が入った瞬間、先生の手は私が抱えたお菓子の袋をがっしりと掴んでいた。
「なっなっなんですか?!」
「ちょいちょいちょいぽん田ちゃんよォ。これお菓子じゃない?バレンタインだからってガキ同士イチャイチャしてんじゃねーよ!まずは人生の先輩である俺に寄越せ!」
「ええ!?横暴すぎやしませんか!?」
ぐいぐいと引っ張られ、今にも奪われてしまいそうな袋をこちらも負けじと離さずにいると、銀八先生は怖い顔のままグッと距離を詰めてきた。
「ぽん田ちゃん、お願いだから寂しーぃ先生に恵んでくんないかな」
「ぃぃぃい嫌です!」
これがお菓子であると確実に分かっている先生は私の指を1本ずつ引き剥がそうとしているが、これは先生へではなく土方くんへ用意したものだ。
おいそれと渡す訳にはいかないと私も必死になって掴んでいると、突然の軽い物音と同時に先生の手が離れた。
「あわわっ…?!」
反動で後ろへ倒れそうになった所を優しく背中から支えられ、顔を上げると先生が一足の上履きを片手にわなわなと震えているのが見えた。
そうして後ろを振り向くと、土方くんが私を支えてくれているではないか。
「おめーら何してんだよ」
呆れた様子の土方くんが、私と先生を交互に見てそう言った瞬間、白い物体が土方くんに飛んできた。
「隙ありィィ!」
「ああっ!」
私の両肩を背後で掴んだままだった土方くんの顔面には先生が持っていた上履きが投げつけられ、私の手の内からは器用なことにお菓子だけが抜き取られてしまっている。
ぽとりと上履きが廊下に落ちた時には、先生はお菓子を高々と掲げながらドヤ顔で走り去ってしまうところだった。
「土方くん…大丈夫?」
「おぅ…」
呆然と見送ったのもつかの間、はっとして振り向いたら明らかに不機嫌そうな土方くんは落ちた上履きを履いて、前髪の汚れをさっさっと落とすように払った。
「銀八と何してたんだよ」
「あぁっそうだ!えっと…」
ブスっとした顔で土方くんに問われるが、クッキーを失った今ここで正直に話してしまっていいものなのかと悩むうち、土方くんが大きくため息をついた。
そして俯いた私の手を取り、何も言わずにぐんぐんと廊下を進んで行くと、たどり着いたのは鍵のかかっていない空き教室だった。
「お前まだ飯食ってないんだろ?時間ねぇからさっさと座って食えよ」
土方くんは机にきちんと仕舞われていた椅子を出すと私を座らせ、彼も隣の席に座って時計を指さしながら「早く」と言った。
会った時には気が付かなかったが、土方くんはビニール袋から焼きそばパンを取り出すと、包装を破って口にしている。
その姿に私も慌ててお弁当を開け、少し急いで口に放り込んでいく。
時間が無いからとはいえ、しんと静まり返る教室で2人もくもくと食事をするこの光景は他の人から見たらきっと異様に違いない。
私だってあの人たち何してるんだろう?と思わずには居られないだろう。
少し緊張しながらもあっという間に食べ終えた私と土方くんはお互いに顔を見合せると、これまた無言で椅子を片付け何事も無かったように自分たちの教室へ戻ることにした。
せっかく2人だったのに何も話せず寂しい気もしたけれど、告白どころか頑張って作ったクッキーすら渡すことも出来なくなりすっかり意気消沈してしまっていた。
「あっ」
がっくりと落ち込む私の前で急に足を止めた土方くんがくるりと振り返り、ポケットの中から何かを取り出して私へと突き出してきた。
反射的に手を出して受け取ると、広げた手にあったのはひとつの小さな飴だ。
「えっ?」
「やる」
土方くんはそれだけを言うと、くるりと前を向きスタスタと歩き出してしまった。
呆気に取られてその背中を見送っているとクラスメイトから声をかけられ、慌てて教室へと戻った私は大切なものをしまうように、お弁当袋の中へそっと飴をしまいこんだ。
それから土方くんへ「さっきはありがとう!」とメッセージを送信して授業の準備をしていたら、小さく通知音が鳴った。
画面を開くと土方くんから親指を立てたスタンプがひとつ届いていた。
たったそれだけの事だったが、何だかものすごく嬉しくて頬が緩んでいく。
バレンタイン大作戦
「銀八せんせー、ぽん田からパクったやつ食えました?」
「うっせぇな食ってねーよ!急に来た定春に全部食われたわ!誰だあのバカ犬放した奴ァ!」
「あっそれ私アル」
「神楽ァァァ」
俺のを取ろうとした罰だと小さく呟いた土方の声は、いつも通り騒々しいクラスメイトの声にかき消されて誰にも届くことはなかった。
バレンタインといえば、好きな人への想いを伝えるのに1番分かりやすい日だと私は思います。
なので土方くんに少しでも思いが伝わればと考えて、こっそりリサーチに励んでいました。
「十四郎は甘いもの苦手でござるよ。僕もだけど、貰えるなら食べるよ。えっくれないの?くれるよね?女子の間では友チョコってあるでしょ?僕は女子じゃないけどぽん子氏のことは親友だと思ってるから信じてるよ!ちゃんとお返しもするし!」
電話越しのトッシーの叫びは聞き流しながら通話を終え、土方くんが甘いものは苦手だと知った上でさほど料理が得意ではない私が作るべきは何だと考えた。
そしてたどり着いた答えは、コーヒー味のクッキーだった。
ピロンピロンと送られてくるトッシーからのメッセージの通知をオフにし、静かになった画面上に指を走らせながらレシピを調べてせっせと必要なものや手順を確認していく。
「土方くん、喜んでくれるかなぁ」
もしかしたら他の子達からも貰うかも知れないが、何とか2人になれるタイミングを見計らってさりげなく渡すのだ。
そして確かな感触があれば……って確かな感触が何かは分からないけれど、その時がきたら勇気をだして告白してみよう。
「出来たらだけどね!出来たらね!」
頬を挟みながら、自分にそう言い訳してきゃあきゃあ騒いでいるとお母さんから注意をされたので、静かに計画を立てることにした。
そうして迎えたバレンタインデーの朝、準備には夜までかかってしまったものの久々にお菓子作りをしたわりにはこじんまりとラッピングされた目の前のクッキーはまぁまぁの出来だと言えよう。
「あとは渡すだけなんだけど…」
こっそりと鞄に忍ばせ、持ってきたもののいつ渡せるだろうかと私は悩んでいた。
事前に声をかけてはあまりに露骨すぎるだろうかと完全に逃げ腰になっていた私は、土方くんへ何のアクションも起こせずにただただ普通に授業を受けて、今はもう昼休みになってしまった。
これはもう突撃しかないと土方くんのクラスへ向かうも、近藤くんがお妙ちゃんにしばかれているいつもの光景だけが広がるそこに土方くんの姿はなく肩を落として教室を後にする。
「いないなぁ」
あちこち歩いたが土方くんを見つけることが出来ず、諦めて自分のクラスへ引き返そうと向かう途中の渡り廊下で銀八先生が前からいつも以上に気だるそうにこちらへ歩いてくるのが見えた。
「先生こんにちは」
「おー」
すれ違いざま声をかけると、こちらを見た先生は私の手元に視線を落としたかと思うと一気に怖い顔へと豹変した。
えっなに怖!とびびって体に力が入った瞬間、先生の手は私が抱えたお菓子の袋をがっしりと掴んでいた。
「なっなっなんですか?!」
「ちょいちょいちょいぽん田ちゃんよォ。これお菓子じゃない?バレンタインだからってガキ同士イチャイチャしてんじゃねーよ!まずは人生の先輩である俺に寄越せ!」
「ええ!?横暴すぎやしませんか!?」
ぐいぐいと引っ張られ、今にも奪われてしまいそうな袋をこちらも負けじと離さずにいると、銀八先生は怖い顔のままグッと距離を詰めてきた。
「ぽん田ちゃん、お願いだから寂しーぃ先生に恵んでくんないかな」
「ぃぃぃい嫌です!」
これがお菓子であると確実に分かっている先生は私の指を1本ずつ引き剥がそうとしているが、これは先生へではなく土方くんへ用意したものだ。
おいそれと渡す訳にはいかないと私も必死になって掴んでいると、突然の軽い物音と同時に先生の手が離れた。
「あわわっ…?!」
反動で後ろへ倒れそうになった所を優しく背中から支えられ、顔を上げると先生が一足の上履きを片手にわなわなと震えているのが見えた。
そうして後ろを振り向くと、土方くんが私を支えてくれているではないか。
「おめーら何してんだよ」
呆れた様子の土方くんが、私と先生を交互に見てそう言った瞬間、白い物体が土方くんに飛んできた。
「隙ありィィ!」
「ああっ!」
私の両肩を背後で掴んだままだった土方くんの顔面には先生が持っていた上履きが投げつけられ、私の手の内からは器用なことにお菓子だけが抜き取られてしまっている。
ぽとりと上履きが廊下に落ちた時には、先生はお菓子を高々と掲げながらドヤ顔で走り去ってしまうところだった。
「土方くん…大丈夫?」
「おぅ…」
呆然と見送ったのもつかの間、はっとして振り向いたら明らかに不機嫌そうな土方くんは落ちた上履きを履いて、前髪の汚れをさっさっと落とすように払った。
「銀八と何してたんだよ」
「あぁっそうだ!えっと…」
ブスっとした顔で土方くんに問われるが、クッキーを失った今ここで正直に話してしまっていいものなのかと悩むうち、土方くんが大きくため息をついた。
そして俯いた私の手を取り、何も言わずにぐんぐんと廊下を進んで行くと、たどり着いたのは鍵のかかっていない空き教室だった。
「お前まだ飯食ってないんだろ?時間ねぇからさっさと座って食えよ」
土方くんは机にきちんと仕舞われていた椅子を出すと私を座らせ、彼も隣の席に座って時計を指さしながら「早く」と言った。
会った時には気が付かなかったが、土方くんはビニール袋から焼きそばパンを取り出すと、包装を破って口にしている。
その姿に私も慌ててお弁当を開け、少し急いで口に放り込んでいく。
時間が無いからとはいえ、しんと静まり返る教室で2人もくもくと食事をするこの光景は他の人から見たらきっと異様に違いない。
私だってあの人たち何してるんだろう?と思わずには居られないだろう。
少し緊張しながらもあっという間に食べ終えた私と土方くんはお互いに顔を見合せると、これまた無言で椅子を片付け何事も無かったように自分たちの教室へ戻ることにした。
せっかく2人だったのに何も話せず寂しい気もしたけれど、告白どころか頑張って作ったクッキーすら渡すことも出来なくなりすっかり意気消沈してしまっていた。
「あっ」
がっくりと落ち込む私の前で急に足を止めた土方くんがくるりと振り返り、ポケットの中から何かを取り出して私へと突き出してきた。
反射的に手を出して受け取ると、広げた手にあったのはひとつの小さな飴だ。
「えっ?」
「やる」
土方くんはそれだけを言うと、くるりと前を向きスタスタと歩き出してしまった。
呆気に取られてその背中を見送っているとクラスメイトから声をかけられ、慌てて教室へと戻った私は大切なものをしまうように、お弁当袋の中へそっと飴をしまいこんだ。
それから土方くんへ「さっきはありがとう!」とメッセージを送信して授業の準備をしていたら、小さく通知音が鳴った。
画面を開くと土方くんから親指を立てたスタンプがひとつ届いていた。
たったそれだけの事だったが、何だかものすごく嬉しくて頬が緩んでいく。
バレンタイン大作戦
「銀八せんせー、ぽん田からパクったやつ食えました?」
「うっせぇな食ってねーよ!急に来た定春に全部食われたわ!誰だあのバカ犬放した奴ァ!」
「あっそれ私アル」
「神楽ァァァ」
俺のを取ろうとした罰だと小さく呟いた土方の声は、いつも通り騒々しいクラスメイトの声にかき消されて誰にも届くことはなかった。