土方くんとトッシーと私と(土方)
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無事に期末試験が終わり、さぁあとは春休みを待つだけだと気の抜けたホワイトデー目前に、問題は発生した。
事件は一通のメッセージにある。
その送り主は、シンプルかつ的確に私の心臓を撃ち抜いてきた。
『最近俺の事避けてねぇ?』
土方くんからそう送られてきたのはたった数分前のことだ。
たったのこの一言で、私の体はさぁっと血の気が引いた様に冷たくなった気がした。
『そうかな?試験とかで忙しかったからかも』
バレていた上にまさかこんなメッセージが届くとは思っておらず、思考が一時停止してしまったがやっとの思いで返信すると、即座に既読が着いてしまった。
「えっ待ってたのかな…いやいや、開きっぱなしで置いてたのかもしれないよね…」
ベッドの上で意味の無い独り言をブツブツ唱えながら、私はスマホを頭上に置くと腕組みをして忙しなく左右に寝返りを打つ。
しばらくすると、ピロンと軽快な音が響いたので慌てて手に取れば土方くんの名前が画面に現れた。
『そうか
トッシーが最近会ってねぇって寂しがってたぜ
たまには俺とも付き合えよ』
「俺とも付き合えよって!友達以上の事を期待してしまううう!」
メッセージを開いて数秒後、スマホを再び頭上に置いた私は勢いよく左右に転がりながら胸の内をあらわにした。
結局、バレていたら恥ずかしいけどやっぱり好きだし、あわよくば両思いにはなりたいのだ。
それを振られるのが怖くて、避けてるなんてバカみたいなことをしているのは十分に理解しているが、どうにも勝手に距離を置いてしまうから小心者はいけない。
「あー…告白しようと頑張ったあの覚悟は一体どこへ…?」
問いかけても勿論答えが帰ってくることは無い。
ただチクタクと時計の音が響くだけで、私はすっかり最近の癖になりつつある何度目かのため息を吐いた。
避けているのも、恐らくバレてしまっているだろう。
いやむしろバレない方がおかしいくらいだ。
きっと私は挙動不審だったろうし、土方くんは周りをよく見る人だから、私がこんな調子なのを気づかない訳がないだろう。
それでもやっぱり顔を合わせてどうしていいか分からず、ついにはホワイトデーとなってしまった。
とはいえ朝からとくに変わったことも無く、土方くんのクラスに近づくこともない私はいつも通りに過ごしていた。
「今はちょっと気まずいけど、もうちょっとしたら平気になるし」
そう自分に言い聞かせて、学校をやり過ごす。勿論、家で鉢合わせでもしたら逃げ場は無いのでトッシーとも会っていない。
もう少し、もう少しと言いながら、ズルズルと先延ばしにしていたツケが回ってきたのか、放課後、私は土方くんに問答無用で捉えられてしまった。
服部先生に課題を届けた後、さぁ帰るかと歩いていた廊下で、まるで漫画のワンシーンのように角を曲がった所で土方くんと遭遇してしまったのだ。
「悪い、ちょっと付き合え」
挨拶もできず逃げようとした私の腕を掴んだ土方くんは、ずんずんと廊下を足早に歩き出した。
引っ張られながら向かった先は、一緒にお昼ご飯を食べたあの空き教室だった。
未だ使われていない教室に勝手に入り、土方くんの手は窓際まで来てようやく離された。
「土方くん…?」
たった数週間ほどだが、久々に見た土方くんの顔は少し怒っているようにも見えて、私は目を逸らした。
そんな私に何も言わずに土方くんがポケットに手を突っ込んで、小さな袋を取り出すと私の手に無理やり握らせた。
手のひらサイズの袋の中から、カラフルなお菓子がチラリと見えている。
「えっ…これ、バレンタインのお返し…?」
おずおずと顔を上げて確認するように問いかけてみれば、土方くんは少し恥ずかしそうに咳払いをすると、腕組みをして深呼吸をした。
そしてキッと鋭い視線で私の方を見たその顔は、ほんのりと赤く染っているように見える。
「ホントはな、アイツにゃ頼りたくなかったんだよ
でもぽん田の好みとか分かんなくて、アイツの部屋行ってぽん田に聞けって言ったらお前、逆に俺の好きなものとか聞いてくるし…」
「アイツって、トッシー?」
「そうだよ、んで聞きたくても避けられるし。
そのクセ、聞いても避けてねぇとか意味分かんねぇ」
真っ直ぐな瞳で間違いではないことを言われると、私は何も言えずウッと小さく漏らして目を泳がすことしか出来ない。
そんな私に呆れたようにため息をついた土方くんが、組んでいた腕をだらりと解いた。
「ご、ごめん…ホントは避けてた…」
「いいよ、別に
つか謝るのはむしろ俺だ」
「…え?何で?」
困惑する私を他所に、土方くんは私に一歩近づくと、再び私の腕を握った。
持っていたお菓子の袋が小さくクシャッと音を立てたが、それを気にする余裕などない。
土方くんは困ったような顔で、ぽつりと小さな声で「全部知ってる」と呟いた。
「えっ?えっ、それってどういう…」
「だからその…ぽん田が俺をどう思ってるかとか、そういうこと」
決して大きい声ではなかったその言葉が、グサリと頭の中に突き刺さったような気がした。
瞬間、掴まれている腕の方が先か、顔の方が先か、私の体は燃えるように熱く鼓動は恐ろしく早まったのが分かった。
何か言いたいが、パクパクと口を動かすしかできず、手を掴まれたままで土方くんを見れば、見間違いではなく土方くんも頬が赤くなっている。
「照れんな!俺まで恥ずかしくなるだろうが!」
「そ、そんなこと言われてもっ!」
「俺も!同じだから気にすんな!」
掴まれたままの腕を急に強く引っ張られ、よろけながらも空いた手で掴まった土方くんの胸に私は熱い耳を押し付けることになった。
頭はしっかりともう片方の手で掴まれていて、顔を見ることは出来ないが土方くんの心臓も、ばくばくと早まっているような気がした。
「俺も、ぽん田が好きだ」
頭上で聞こえたその声に、私の思考はピタリと停止してしまった。
一秒か、はたまた数秒か、真っ白になった頭の中にゆっくりと音が入ってきた時、今度は沸騰しそうなほどジワジワと顔が熱くなって、思わず掴んだままの土方くんの制服を強く握りしめた。
「えっ、そっ、えぇっ?!」
もうダメだ、上手く言葉すら出てこない。
そんな私に、土方くんは笑いをこらえているのかクックっと震えながら私の頭を小さく揺らしている。
そのうち耐えきれなくなったのか、笑い声を上げ始め、私はもう情報を整理するので精一杯でほんのり目には涙が浮かんでいる。
「悪い、ぽん田が変になるから」
「変って!だって…!」
ひとしきり笑って落ち着いたのか、土方くんは腕は掴んだままそっと離れると、しっかりと目線を合わせて口元を弛めた。
「ぽん田が好きだ
俺と付き合ってください」
ほんのりと浮かんでいた涙がじわじわと質量を増して、ついにはポロリと頬を伝った。
そんな私の目元を袖口で拭ってくれた土方くんは、これまで見てきたどの土方くんよりも優しくて、かっこよかった。
「私も…土方くんが、好き!」
泣きながらそう言うと、土方くんは意地悪な顔で「知ってる」と、楽しそうに笑った。
きっと涙で可愛くなかったかもしれないけど、私も嬉しくて不器用に笑ってみせた。
春は手のひらに
事件は一通のメッセージにある。
その送り主は、シンプルかつ的確に私の心臓を撃ち抜いてきた。
『最近俺の事避けてねぇ?』
土方くんからそう送られてきたのはたった数分前のことだ。
たったのこの一言で、私の体はさぁっと血の気が引いた様に冷たくなった気がした。
『そうかな?試験とかで忙しかったからかも』
バレていた上にまさかこんなメッセージが届くとは思っておらず、思考が一時停止してしまったがやっとの思いで返信すると、即座に既読が着いてしまった。
「えっ待ってたのかな…いやいや、開きっぱなしで置いてたのかもしれないよね…」
ベッドの上で意味の無い独り言をブツブツ唱えながら、私はスマホを頭上に置くと腕組みをして忙しなく左右に寝返りを打つ。
しばらくすると、ピロンと軽快な音が響いたので慌てて手に取れば土方くんの名前が画面に現れた。
『そうか
トッシーが最近会ってねぇって寂しがってたぜ
たまには俺とも付き合えよ』
「俺とも付き合えよって!友達以上の事を期待してしまううう!」
メッセージを開いて数秒後、スマホを再び頭上に置いた私は勢いよく左右に転がりながら胸の内をあらわにした。
結局、バレていたら恥ずかしいけどやっぱり好きだし、あわよくば両思いにはなりたいのだ。
それを振られるのが怖くて、避けてるなんてバカみたいなことをしているのは十分に理解しているが、どうにも勝手に距離を置いてしまうから小心者はいけない。
「あー…告白しようと頑張ったあの覚悟は一体どこへ…?」
問いかけても勿論答えが帰ってくることは無い。
ただチクタクと時計の音が響くだけで、私はすっかり最近の癖になりつつある何度目かのため息を吐いた。
避けているのも、恐らくバレてしまっているだろう。
いやむしろバレない方がおかしいくらいだ。
きっと私は挙動不審だったろうし、土方くんは周りをよく見る人だから、私がこんな調子なのを気づかない訳がないだろう。
それでもやっぱり顔を合わせてどうしていいか分からず、ついにはホワイトデーとなってしまった。
とはいえ朝からとくに変わったことも無く、土方くんのクラスに近づくこともない私はいつも通りに過ごしていた。
「今はちょっと気まずいけど、もうちょっとしたら平気になるし」
そう自分に言い聞かせて、学校をやり過ごす。勿論、家で鉢合わせでもしたら逃げ場は無いのでトッシーとも会っていない。
もう少し、もう少しと言いながら、ズルズルと先延ばしにしていたツケが回ってきたのか、放課後、私は土方くんに問答無用で捉えられてしまった。
服部先生に課題を届けた後、さぁ帰るかと歩いていた廊下で、まるで漫画のワンシーンのように角を曲がった所で土方くんと遭遇してしまったのだ。
「悪い、ちょっと付き合え」
挨拶もできず逃げようとした私の腕を掴んだ土方くんは、ずんずんと廊下を足早に歩き出した。
引っ張られながら向かった先は、一緒にお昼ご飯を食べたあの空き教室だった。
未だ使われていない教室に勝手に入り、土方くんの手は窓際まで来てようやく離された。
「土方くん…?」
たった数週間ほどだが、久々に見た土方くんの顔は少し怒っているようにも見えて、私は目を逸らした。
そんな私に何も言わずに土方くんがポケットに手を突っ込んで、小さな袋を取り出すと私の手に無理やり握らせた。
手のひらサイズの袋の中から、カラフルなお菓子がチラリと見えている。
「えっ…これ、バレンタインのお返し…?」
おずおずと顔を上げて確認するように問いかけてみれば、土方くんは少し恥ずかしそうに咳払いをすると、腕組みをして深呼吸をした。
そしてキッと鋭い視線で私の方を見たその顔は、ほんのりと赤く染っているように見える。
「ホントはな、アイツにゃ頼りたくなかったんだよ
でもぽん田の好みとか分かんなくて、アイツの部屋行ってぽん田に聞けって言ったらお前、逆に俺の好きなものとか聞いてくるし…」
「アイツって、トッシー?」
「そうだよ、んで聞きたくても避けられるし。
そのクセ、聞いても避けてねぇとか意味分かんねぇ」
真っ直ぐな瞳で間違いではないことを言われると、私は何も言えずウッと小さく漏らして目を泳がすことしか出来ない。
そんな私に呆れたようにため息をついた土方くんが、組んでいた腕をだらりと解いた。
「ご、ごめん…ホントは避けてた…」
「いいよ、別に
つか謝るのはむしろ俺だ」
「…え?何で?」
困惑する私を他所に、土方くんは私に一歩近づくと、再び私の腕を握った。
持っていたお菓子の袋が小さくクシャッと音を立てたが、それを気にする余裕などない。
土方くんは困ったような顔で、ぽつりと小さな声で「全部知ってる」と呟いた。
「えっ?えっ、それってどういう…」
「だからその…ぽん田が俺をどう思ってるかとか、そういうこと」
決して大きい声ではなかったその言葉が、グサリと頭の中に突き刺さったような気がした。
瞬間、掴まれている腕の方が先か、顔の方が先か、私の体は燃えるように熱く鼓動は恐ろしく早まったのが分かった。
何か言いたいが、パクパクと口を動かすしかできず、手を掴まれたままで土方くんを見れば、見間違いではなく土方くんも頬が赤くなっている。
「照れんな!俺まで恥ずかしくなるだろうが!」
「そ、そんなこと言われてもっ!」
「俺も!同じだから気にすんな!」
掴まれたままの腕を急に強く引っ張られ、よろけながらも空いた手で掴まった土方くんの胸に私は熱い耳を押し付けることになった。
頭はしっかりともう片方の手で掴まれていて、顔を見ることは出来ないが土方くんの心臓も、ばくばくと早まっているような気がした。
「俺も、ぽん田が好きだ」
頭上で聞こえたその声に、私の思考はピタリと停止してしまった。
一秒か、はたまた数秒か、真っ白になった頭の中にゆっくりと音が入ってきた時、今度は沸騰しそうなほどジワジワと顔が熱くなって、思わず掴んだままの土方くんの制服を強く握りしめた。
「えっ、そっ、えぇっ?!」
もうダメだ、上手く言葉すら出てこない。
そんな私に、土方くんは笑いをこらえているのかクックっと震えながら私の頭を小さく揺らしている。
そのうち耐えきれなくなったのか、笑い声を上げ始め、私はもう情報を整理するので精一杯でほんのり目には涙が浮かんでいる。
「悪い、ぽん田が変になるから」
「変って!だって…!」
ひとしきり笑って落ち着いたのか、土方くんは腕は掴んだままそっと離れると、しっかりと目線を合わせて口元を弛めた。
「ぽん田が好きだ
俺と付き合ってください」
ほんのりと浮かんでいた涙がじわじわと質量を増して、ついにはポロリと頬を伝った。
そんな私の目元を袖口で拭ってくれた土方くんは、これまで見てきたどの土方くんよりも優しくて、かっこよかった。
「私も…土方くんが、好き!」
泣きながらそう言うと、土方くんは意地悪な顔で「知ってる」と、楽しそうに笑った。
きっと涙で可愛くなかったかもしれないけど、私も嬉しくて不器用に笑ってみせた。
春は手のひらに
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