近くて遠いあなたに恋をする話(山崎)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
山崎6
ざわざわと騒がしい店内を見回しても、お客さんが入る度に入口を気にしてみても、そこに彼の姿はない。
山崎さんからキスをされたあの夜から、山崎さんとは顔を合わせていない。
そもそも会ったところで、どんな顔をすればいいのか分からないし、驚いてしまったからとはいえ、私は山崎さんを突き飛ばしてしまった。
それに、嫌だったらと前置きをされて、私は一旦山崎さんを受け止めておいて突き放したのだ。
「嫌われたと思われているかもしれない……」
「辛気臭い顔してどうしたよ?」
「坂田さん…いえ…」
テーブルを拭きながらため息をついた私の隣りの椅子を引きながら、覗き込んできたのは相変わらずやる気のない目をした坂田さんだった。
ふーんとさほど興味を持たないような返事をしながら、いつもの小豆たっぷりの宇治銀時丼を注文した坂田さんは、頬杖をつきながら私にちょいちょいと手招きをした。
「悩み事があるなら銀さんに話してみ?」
「坂田さんに相談して解決するとは思えませんので、結構です」
「いやいや、これでも長年の経験ってやつがな…」
「………………」
「せめてなんか言えよ!俺が滑ったみたいになんだろーが!……とにかく話した方が楽になる事もあんだろ」
「そうですかね…」
「そんなもんさ」
坂田さんに話したら余計に拗れそうな気がする、などと一瞬考えてしまったが、それを見抜かれる前に布巾を片手に小さく会釈をして裏へと引っ込んだ。
たしかに相談する相手が居ない今の状況で、一人で抱え込んでいても何の解決もしないだろう。
そう考えれば、坂田さんの言うことは一理あるのかもしれない。
ご飯の上に小豆を乗せただけの丼を届けた私は、坂田さんに話を聞いてもらうため、時間を作ってもらうことにした。
「ちょっと待て、一回頭整理させてくんね?」
「どうぞ」
二人しか居ない万事屋に、静かな空気だけが漂っている。
あれから閉店間際に坂田さんはもう一度顔を出してくれた。
閉店後に飲みながら聞くと言われたが、酔っ払いに相談するのは嫌だと断った私を万事屋まで招くのに、迎えに来たという。
「夜道に女ひとりは危ないだろ」などと言った坂田さんに、珍しいこともあるものだと感心したが、それは間違いだった。
そのままスーパーに立ち寄った坂田さんから夜食と甘味を集られた時、私は坂田さんのことをきっとゴミを見るような目をしていたに違いない。
「つーか誰だよソイツ」
「えっ?それは言えません」
「まさかお前……あのドS魔人に」
「ドS魔人?誰ですか?」
「えーと…真選組の茶髪のやつ」
「沖田さんじゃありませんよ」
「だよな」
坂田さんは私をじいっと見つめると、何度か瞬きをして相手を探っているようだった。
だが、これからどうすればいいのかを考えたい私にとっては、そのような詮索はただただ不躾なのでは、と思って知らんぷりをして買ってきたお茶を一口啜る。
「じゃああっちか。ジミーか」
「ぶっ!!」
口にお茶が広がった瞬間、タイミングを見計らったかのように坂田さんがポツリと零した。
ハッキリと耳に飛び込んできたその一言に、少しだけお茶を吹き出してしまった。
慌ててハンカチで滴り落ちたお茶を拭くと、坂田さんは楽しそうに「当たりみてーだな」などと笑っている。
「おいおい大丈夫かよ。それにしてもアイツなかなかやるじゃねぇか」
「……その前に、何で分かったんですか…」
「いや分かるだろ。ジミーにだけ接客態度ちげーからよォ。ぽん子ちゃんバレバレだって」
さも当たり前の事のように話す坂田さんを見れば、逆に驚いた顔で口元を引き攣らせている。
まさか態度に現れていたとは思っていなかった私は、急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になるのをひしひしと感じた。
「つーかさ、両思いだろお前ら」
「いや…えっ…いや、まさか…」
「どう考えてもそうだと思うけどな。それに何を悩んでんだ?」
「何を、と言われると…」
私は山崎さんのことが好きなのは確かだ。
ただ山崎さんに酷いことをしてしまった私は、どう接したらいいか分からないし、山崎さんの気持ちが分からない今、そもそも私からはどうもできないと思うのだが。
「山崎さんの気持ちが……分からないんです」
「いや、だからァ」
「きっ、気まぐれかも知れないでしょう。あの時、何となくそういう雰囲気で、何となくそんな気分になった、とか」
「……はぁ」
きゅうっと手を握りしめながら、ぽつりと口にしていけば、先程まで熱かった顔が、頭がスウっと冷めていくのがわかる。
「それに私だって山崎さんのこと、好きだけど…」
「だけど?」
「その……された時に…」
「突き飛ばしちゃったから本気で好きかどうか分かんねーってか?」
「そっそういう訳じゃない、と思いますけど…」
嬉しいよりもまず、恥ずかしいとかどうしてとか、そんな事を考えてしまったことで、私だって不安になってしまった。
好きって何だろうと。
そんな私の心中を知ってか知らずか、坂田さんは私の隣りに腰を下ろす。
その反動で私の体は坂田さんに傾き、そのまま坂田さんは私の肩をぐっと抱き寄せた。
「んじゃあ俺とキスしたら分かんじゃね?」
「えっ不快です」
「ぽん子ちゃんのそういうとこ嫌いじゃないけど傷つくわー…」
パッと手を離した坂田さんから改めて距離をとって座り直すと、彼はがっくりと頭を垂らして落ち込む素振りを見せている。
だがすぐに顔を上げて、真顔でこちらを見てきた坂田さんの態度に落ち込んだのは振りであろうことは容易に想像が着いた。
「まぁ、そういうことだろ?俺は嫌でジミーは良いって。答え出てるじゃねぇか」
「良いって言うか…いや、そういう事ですかね…」
「ぽん子ちゃんよォ……飯は美味いのに、性格に難ありすぎだな。これじゃジミーも苦労すんなぁ」
「喧嘩売ってますね?」
「売ってねーよ。知ってたけどマジで面倒くせーな」
やれやれといったわざとらしいジェスチャー。
坂田さんなりに私を励ましてくれたのだろう。
そのまま挙げられた手が私の頭に着地し、ぽんぽんと二度ほど軽く叩くと、坂田さんはニンマリと笑ってみせた。
「大丈夫だって。何も心配いらねェよ」
君のためだけに探した言葉
ざわざわと騒がしい店内を見回しても、お客さんが入る度に入口を気にしてみても、そこに彼の姿はない。
山崎さんからキスをされたあの夜から、山崎さんとは顔を合わせていない。
そもそも会ったところで、どんな顔をすればいいのか分からないし、驚いてしまったからとはいえ、私は山崎さんを突き飛ばしてしまった。
それに、嫌だったらと前置きをされて、私は一旦山崎さんを受け止めておいて突き放したのだ。
「嫌われたと思われているかもしれない……」
「辛気臭い顔してどうしたよ?」
「坂田さん…いえ…」
テーブルを拭きながらため息をついた私の隣りの椅子を引きながら、覗き込んできたのは相変わらずやる気のない目をした坂田さんだった。
ふーんとさほど興味を持たないような返事をしながら、いつもの小豆たっぷりの宇治銀時丼を注文した坂田さんは、頬杖をつきながら私にちょいちょいと手招きをした。
「悩み事があるなら銀さんに話してみ?」
「坂田さんに相談して解決するとは思えませんので、結構です」
「いやいや、これでも長年の経験ってやつがな…」
「………………」
「せめてなんか言えよ!俺が滑ったみたいになんだろーが!……とにかく話した方が楽になる事もあんだろ」
「そうですかね…」
「そんなもんさ」
坂田さんに話したら余計に拗れそうな気がする、などと一瞬考えてしまったが、それを見抜かれる前に布巾を片手に小さく会釈をして裏へと引っ込んだ。
たしかに相談する相手が居ない今の状況で、一人で抱え込んでいても何の解決もしないだろう。
そう考えれば、坂田さんの言うことは一理あるのかもしれない。
ご飯の上に小豆を乗せただけの丼を届けた私は、坂田さんに話を聞いてもらうため、時間を作ってもらうことにした。
「ちょっと待て、一回頭整理させてくんね?」
「どうぞ」
二人しか居ない万事屋に、静かな空気だけが漂っている。
あれから閉店間際に坂田さんはもう一度顔を出してくれた。
閉店後に飲みながら聞くと言われたが、酔っ払いに相談するのは嫌だと断った私を万事屋まで招くのに、迎えに来たという。
「夜道に女ひとりは危ないだろ」などと言った坂田さんに、珍しいこともあるものだと感心したが、それは間違いだった。
そのままスーパーに立ち寄った坂田さんから夜食と甘味を集られた時、私は坂田さんのことをきっとゴミを見るような目をしていたに違いない。
「つーか誰だよソイツ」
「えっ?それは言えません」
「まさかお前……あのドS魔人に」
「ドS魔人?誰ですか?」
「えーと…真選組の茶髪のやつ」
「沖田さんじゃありませんよ」
「だよな」
坂田さんは私をじいっと見つめると、何度か瞬きをして相手を探っているようだった。
だが、これからどうすればいいのかを考えたい私にとっては、そのような詮索はただただ不躾なのでは、と思って知らんぷりをして買ってきたお茶を一口啜る。
「じゃああっちか。ジミーか」
「ぶっ!!」
口にお茶が広がった瞬間、タイミングを見計らったかのように坂田さんがポツリと零した。
ハッキリと耳に飛び込んできたその一言に、少しだけお茶を吹き出してしまった。
慌ててハンカチで滴り落ちたお茶を拭くと、坂田さんは楽しそうに「当たりみてーだな」などと笑っている。
「おいおい大丈夫かよ。それにしてもアイツなかなかやるじゃねぇか」
「……その前に、何で分かったんですか…」
「いや分かるだろ。ジミーにだけ接客態度ちげーからよォ。ぽん子ちゃんバレバレだって」
さも当たり前の事のように話す坂田さんを見れば、逆に驚いた顔で口元を引き攣らせている。
まさか態度に現れていたとは思っていなかった私は、急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になるのをひしひしと感じた。
「つーかさ、両思いだろお前ら」
「いや…えっ…いや、まさか…」
「どう考えてもそうだと思うけどな。それに何を悩んでんだ?」
「何を、と言われると…」
私は山崎さんのことが好きなのは確かだ。
ただ山崎さんに酷いことをしてしまった私は、どう接したらいいか分からないし、山崎さんの気持ちが分からない今、そもそも私からはどうもできないと思うのだが。
「山崎さんの気持ちが……分からないんです」
「いや、だからァ」
「きっ、気まぐれかも知れないでしょう。あの時、何となくそういう雰囲気で、何となくそんな気分になった、とか」
「……はぁ」
きゅうっと手を握りしめながら、ぽつりと口にしていけば、先程まで熱かった顔が、頭がスウっと冷めていくのがわかる。
「それに私だって山崎さんのこと、好きだけど…」
「だけど?」
「その……された時に…」
「突き飛ばしちゃったから本気で好きかどうか分かんねーってか?」
「そっそういう訳じゃない、と思いますけど…」
嬉しいよりもまず、恥ずかしいとかどうしてとか、そんな事を考えてしまったことで、私だって不安になってしまった。
好きって何だろうと。
そんな私の心中を知ってか知らずか、坂田さんは私の隣りに腰を下ろす。
その反動で私の体は坂田さんに傾き、そのまま坂田さんは私の肩をぐっと抱き寄せた。
「んじゃあ俺とキスしたら分かんじゃね?」
「えっ不快です」
「ぽん子ちゃんのそういうとこ嫌いじゃないけど傷つくわー…」
パッと手を離した坂田さんから改めて距離をとって座り直すと、彼はがっくりと頭を垂らして落ち込む素振りを見せている。
だがすぐに顔を上げて、真顔でこちらを見てきた坂田さんの態度に落ち込んだのは振りであろうことは容易に想像が着いた。
「まぁ、そういうことだろ?俺は嫌でジミーは良いって。答え出てるじゃねぇか」
「良いって言うか…いや、そういう事ですかね…」
「ぽん子ちゃんよォ……飯は美味いのに、性格に難ありすぎだな。これじゃジミーも苦労すんなぁ」
「喧嘩売ってますね?」
「売ってねーよ。知ってたけどマジで面倒くせーな」
やれやれといったわざとらしいジェスチャー。
坂田さんなりに私を励ましてくれたのだろう。
そのまま挙げられた手が私の頭に着地し、ぽんぽんと二度ほど軽く叩くと、坂田さんはニンマリと笑ってみせた。
「大丈夫だって。何も心配いらねェよ」
君のためだけに探した言葉