反応を楽しむ10のセリフ
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一人で廊下を歩く私の足音が、静かな屯所にひっそりと響く。
あてもなくペタペタと歩き続けていたが、ちらちらと見える星が気になった私は縁側にちょこんと座り込んだ。
まだ少し肌寒さの残る夜、考え事と言うにはあまりにしょうもない考え事をしていて眠れなくなってしまった私は、庭でも見て心を落ち着かせようと思ったのだ。
と、大袈裟に現状を整理してみたものの、実際のところはこうだ。
ただ単に明日の休みをどう過ごそうかと考えていたら段々と目が冴えてしまい、次に早く寝ようと思えば思うほどに眠れなくなってしまった、というだけのよくある話。
「ふー、遠足前の子供のような気持ちだわ」
やれやれと独り言を呟いて空を見上げると、遠くでちらちらと見えていた星が真上にもしっかりと広がっていた。
今日は空が澄んでいるのか、よく見える。
「こんなに綺麗なのに、みーんな寝ちゃって見てないんだもんなぁ。もったいない」
放り出した足をぶらぶらさせながら、ごろんとそのまま後ろに倒れれば、ひんやりとした感触に包まれた。
もう夏が近いといっても、まだ夜は冷える。
全然眠たくなる気配もなく、ため息をついた時、ガサッと植木が揺れる音がして慌てて飛び起きた。
「なっなっ何?!」
あまりの驚きに裏返った声を上げれば、ガサガサと葉を揺らしながら出てきたのは真っ黒い服に身を包んだ山崎さんだった。
いてて、と言いながら砂をはらう山崎さんは、忍者のような格好をしているところを見ると、任務の帰りだったのだろう。
「あれっぽん子ちゃん?こんな時間に何してるの?」
心臓をばくばくさせながら狼狽える私とは対照的に、山崎さんはいつものあっけらかんとした態度でこちらに問いかけてきた。
そのブレないメンタルは流石監察と言ったところだろうが、あまりにも変わらないその態度に軽く得体の知れない恐怖すら感じてしまった。
「い、いや、ちょっと眠れなくて…」
「へぇー、まぁそんな時もあるよね。あっところで夜食とか無いよね…?」
「そうですね…もう前部片付けちゃってるかと…」
「だよねぇ…腹減ったなぁ…」
ガッカリした様子の山崎さんは、あっ!と閃いたような顔をしてこちらに近づいてきた。
そして私の隣に座り込むと、いたずらっぽい顔でにひひと笑っている。
「ぽん子ちゃん、お腹すいてない?」
「えっ…と……、小腹が空いてる…かなぁ」
「おっしゃ、じゃあちょっと内緒で出かけようか」
「えっ!で、でも女中は安全対策で夜間は外出は……」
「あー……」
いい考えでしょ!と言わんばかりの顔でニコニコされていたが、今もし勝手に出たのがバレたら、私も山崎さんも副長にお説教をくらうのは目に見えている。
副長にいつも叱られている山崎さんは慣れっこかも知れないが、私は真面目に働いているからあのテンションで詰め寄られては泣くか漏らしてしまうかもしれない。いや実際は漏らさないけどね。
「俺がいるし、大丈夫でしょ」
そんな不安をあらわにした私を他所に、山崎さんは軽く笑って言いのけると、汚れ落としてくるから待っててね~と急ぎ足で立ち去ってしまった。
「山崎さんとだと、余計に怒られちゃいそうなんだけど…大丈夫なのかな」
ぼそっと失礼なことを呟いても、誰も教えてはくれない。
このまま部屋に戻っても、結局布団の上でゴロゴロしているだけだろうし、夜間の外出…しかも内緒でなんて、本当はちょっと楽しそうだなんて思い始めていた私は履物だけ取りに行くと、縁側に戻って山崎さんを待つことにした。
そうこうしているうちに、まだ少し濡れた髪のままの山崎さんが走って戻ってきてくれて、こっそり塀を乗り越えて外に出ることに成功した。
よく漫画や小説なんかで目にする冒険への出発シーンは、こんな気持ちなのだろうか?なんてことを考えながら夜道を歩けば、ポツポツとお店の明かりが目に入ってきた。
「わーっ、久々に夜道歩くとウキウキしちゃうなぁ」
真選組の女中になって一年ほどになる私にとっては、夜の街は遠い昔のことのように感じた。
そんなに遊び歩くようなことは無かったのだけど、やはり悪いことをしているという自覚がある分、ちょっとしたスリルに浮かれているのは事実だ。
「ウキウキしちゃうんだ。ぽん子ちゃん可愛いね」
そんな私の言葉に、山崎さんはくすくす笑ってさらりと可愛いなどと口にしてきた。
この人もしかすると、普段からこうやって人たらしをしているのかもしれないとじとりと見ているうち、山崎さんはちょいちょいと手招きをしてお店に着いたと声をかけてきた。
「おおっ、ラーメン屋さん!」
「やっぱ夜食はラーメンでしょ~」
カラカラっと軽い音を立ててほら開けられた引き戸から漂ってくるラーメンのいい匂いを私は鼻をすんと鳴らして吸い込んだ。
山崎さんは迷わずカウンター席に座り、私はその横にちょこんと腰掛けて出されたお冷に口をつけた。
「ぽん子ちゃんはちょっと少なめがいいかな?」
「そうですね、普通の量は入らないかも…」
「オッケー。すみません、注文いいですか?」
迷わず注文する姿は常連客そのもので、店員さんも慣れた様子で山崎さんと世間話をしている。
あっという間に出来上がったラーメンを目の前に出されると、食べられそうにないと言ったものの思わずお腹が軽くぐぅと鳴るほどに食欲をそそられてしまった。
こっそりお腹を隠しながら山崎さんを見たら、視線はバレバレだったのかニコッと微笑んでこちらを見られていて、お腹が鳴った音はしっかり耳に入れられてしまっていたようだ。
「頂きまぁす」
「俺も。頂きます」
ほわほわと湯気をたてるラーメンはとても美味しくて、私はあっという間に食べ終えてしまった。
隣りの山崎さんも、セットで頼んだはずなのにすっかり食べ終えてきちんと箸を置いて、ご馳走様でしたと満足そうな表情を見せている。
そして私がお財布を出す間も口を挟ませる暇もなくお会計を済ますと、それが自然なことのように私の腕を掴んでお店の外に出た。
「んじゃ、副長にバレたら面倒だし…帰るとしますか」
「あっ、はい」
お店を出て直ぐに手は離されたが、あまりのスマートさに私は驚きを隠せなかった。
普段はあんなにポンコツなのに、やはりそこは大人の魅力というものか、何もかもが先回りされていて、この人まさか意外と遊び人だったりするのではと疑いたくなるほどだ。
「山崎さん、絶対女遊びしてるでしょ」
「何急に恐ろしいこと言い出してるの、この子?!してないから!」
「だってあんまりにも扱いに慣れてる感じが…」
じろりと見ながら問えば、山崎さんは笑っているがその眉は困ったように垂れ下がっていて少し可愛い。
「女性にって言うより、人に慣れてるんじゃないかな?ほら、仕事柄敵地にもどこにでも潜り込む必要があるからね」
彼女も居ないしなぁ~と笑う山崎さんは、本当のことを話しているようでちょっと寂しそうに見えて、私は何故だか胸がきゅっとなってしまった。
そして、いつの間にか器用に結ばれていた短い襟足をきゅっと掴んで、ちょっとだけ力を入れて引っ張る。
「いだァ!!何?!」
「何となく」
「何となくで髪掴まれるとか意味がわからないよ!」
「ごめんなさい」
「えぇー…ぽん子ちゃん、情緒不安定なの?」
「…そうかも知れない」
山崎さんを見ていたら、気持ちがモヤモヤしたり楽しくなったりして今日は何だかおかしい。
きっとこんな夜更けに外出してしまったからだろう。
「ねえぽん子ちゃん」
「何ですか?」
「また今度、内緒で出かけようか」
ピンと立てた指を唇に当てて、イタズラな笑みを浮かべる山崎さん。
やっぱりどこか余裕があってズルいのに、そんな期待を込めたような顔をされて、嫌だとは言えないではないか。
「またラーメン食べさせてください」
「オッケー」
そうして私達は、夜道を帰るのであった。
あてもなくペタペタと歩き続けていたが、ちらちらと見える星が気になった私は縁側にちょこんと座り込んだ。
まだ少し肌寒さの残る夜、考え事と言うにはあまりにしょうもない考え事をしていて眠れなくなってしまった私は、庭でも見て心を落ち着かせようと思ったのだ。
と、大袈裟に現状を整理してみたものの、実際のところはこうだ。
ただ単に明日の休みをどう過ごそうかと考えていたら段々と目が冴えてしまい、次に早く寝ようと思えば思うほどに眠れなくなってしまった、というだけのよくある話。
「ふー、遠足前の子供のような気持ちだわ」
やれやれと独り言を呟いて空を見上げると、遠くでちらちらと見えていた星が真上にもしっかりと広がっていた。
今日は空が澄んでいるのか、よく見える。
「こんなに綺麗なのに、みーんな寝ちゃって見てないんだもんなぁ。もったいない」
放り出した足をぶらぶらさせながら、ごろんとそのまま後ろに倒れれば、ひんやりとした感触に包まれた。
もう夏が近いといっても、まだ夜は冷える。
全然眠たくなる気配もなく、ため息をついた時、ガサッと植木が揺れる音がして慌てて飛び起きた。
「なっなっ何?!」
あまりの驚きに裏返った声を上げれば、ガサガサと葉を揺らしながら出てきたのは真っ黒い服に身を包んだ山崎さんだった。
いてて、と言いながら砂をはらう山崎さんは、忍者のような格好をしているところを見ると、任務の帰りだったのだろう。
「あれっぽん子ちゃん?こんな時間に何してるの?」
心臓をばくばくさせながら狼狽える私とは対照的に、山崎さんはいつものあっけらかんとした態度でこちらに問いかけてきた。
そのブレないメンタルは流石監察と言ったところだろうが、あまりにも変わらないその態度に軽く得体の知れない恐怖すら感じてしまった。
「い、いや、ちょっと眠れなくて…」
「へぇー、まぁそんな時もあるよね。あっところで夜食とか無いよね…?」
「そうですね…もう前部片付けちゃってるかと…」
「だよねぇ…腹減ったなぁ…」
ガッカリした様子の山崎さんは、あっ!と閃いたような顔をしてこちらに近づいてきた。
そして私の隣に座り込むと、いたずらっぽい顔でにひひと笑っている。
「ぽん子ちゃん、お腹すいてない?」
「えっ…と……、小腹が空いてる…かなぁ」
「おっしゃ、じゃあちょっと内緒で出かけようか」
「えっ!で、でも女中は安全対策で夜間は外出は……」
「あー……」
いい考えでしょ!と言わんばかりの顔でニコニコされていたが、今もし勝手に出たのがバレたら、私も山崎さんも副長にお説教をくらうのは目に見えている。
副長にいつも叱られている山崎さんは慣れっこかも知れないが、私は真面目に働いているからあのテンションで詰め寄られては泣くか漏らしてしまうかもしれない。いや実際は漏らさないけどね。
「俺がいるし、大丈夫でしょ」
そんな不安をあらわにした私を他所に、山崎さんは軽く笑って言いのけると、汚れ落としてくるから待っててね~と急ぎ足で立ち去ってしまった。
「山崎さんとだと、余計に怒られちゃいそうなんだけど…大丈夫なのかな」
ぼそっと失礼なことを呟いても、誰も教えてはくれない。
このまま部屋に戻っても、結局布団の上でゴロゴロしているだけだろうし、夜間の外出…しかも内緒でなんて、本当はちょっと楽しそうだなんて思い始めていた私は履物だけ取りに行くと、縁側に戻って山崎さんを待つことにした。
そうこうしているうちに、まだ少し濡れた髪のままの山崎さんが走って戻ってきてくれて、こっそり塀を乗り越えて外に出ることに成功した。
よく漫画や小説なんかで目にする冒険への出発シーンは、こんな気持ちなのだろうか?なんてことを考えながら夜道を歩けば、ポツポツとお店の明かりが目に入ってきた。
「わーっ、久々に夜道歩くとウキウキしちゃうなぁ」
真選組の女中になって一年ほどになる私にとっては、夜の街は遠い昔のことのように感じた。
そんなに遊び歩くようなことは無かったのだけど、やはり悪いことをしているという自覚がある分、ちょっとしたスリルに浮かれているのは事実だ。
「ウキウキしちゃうんだ。ぽん子ちゃん可愛いね」
そんな私の言葉に、山崎さんはくすくす笑ってさらりと可愛いなどと口にしてきた。
この人もしかすると、普段からこうやって人たらしをしているのかもしれないとじとりと見ているうち、山崎さんはちょいちょいと手招きをしてお店に着いたと声をかけてきた。
「おおっ、ラーメン屋さん!」
「やっぱ夜食はラーメンでしょ~」
カラカラっと軽い音を立ててほら開けられた引き戸から漂ってくるラーメンのいい匂いを私は鼻をすんと鳴らして吸い込んだ。
山崎さんは迷わずカウンター席に座り、私はその横にちょこんと腰掛けて出されたお冷に口をつけた。
「ぽん子ちゃんはちょっと少なめがいいかな?」
「そうですね、普通の量は入らないかも…」
「オッケー。すみません、注文いいですか?」
迷わず注文する姿は常連客そのもので、店員さんも慣れた様子で山崎さんと世間話をしている。
あっという間に出来上がったラーメンを目の前に出されると、食べられそうにないと言ったものの思わずお腹が軽くぐぅと鳴るほどに食欲をそそられてしまった。
こっそりお腹を隠しながら山崎さんを見たら、視線はバレバレだったのかニコッと微笑んでこちらを見られていて、お腹が鳴った音はしっかり耳に入れられてしまっていたようだ。
「頂きまぁす」
「俺も。頂きます」
ほわほわと湯気をたてるラーメンはとても美味しくて、私はあっという間に食べ終えてしまった。
隣りの山崎さんも、セットで頼んだはずなのにすっかり食べ終えてきちんと箸を置いて、ご馳走様でしたと満足そうな表情を見せている。
そして私がお財布を出す間も口を挟ませる暇もなくお会計を済ますと、それが自然なことのように私の腕を掴んでお店の外に出た。
「んじゃ、副長にバレたら面倒だし…帰るとしますか」
「あっ、はい」
お店を出て直ぐに手は離されたが、あまりのスマートさに私は驚きを隠せなかった。
普段はあんなにポンコツなのに、やはりそこは大人の魅力というものか、何もかもが先回りされていて、この人まさか意外と遊び人だったりするのではと疑いたくなるほどだ。
「山崎さん、絶対女遊びしてるでしょ」
「何急に恐ろしいこと言い出してるの、この子?!してないから!」
「だってあんまりにも扱いに慣れてる感じが…」
じろりと見ながら問えば、山崎さんは笑っているがその眉は困ったように垂れ下がっていて少し可愛い。
「女性にって言うより、人に慣れてるんじゃないかな?ほら、仕事柄敵地にもどこにでも潜り込む必要があるからね」
彼女も居ないしなぁ~と笑う山崎さんは、本当のことを話しているようでちょっと寂しそうに見えて、私は何故だか胸がきゅっとなってしまった。
そして、いつの間にか器用に結ばれていた短い襟足をきゅっと掴んで、ちょっとだけ力を入れて引っ張る。
「いだァ!!何?!」
「何となく」
「何となくで髪掴まれるとか意味がわからないよ!」
「ごめんなさい」
「えぇー…ぽん子ちゃん、情緒不安定なの?」
「…そうかも知れない」
山崎さんを見ていたら、気持ちがモヤモヤしたり楽しくなったりして今日は何だかおかしい。
きっとこんな夜更けに外出してしまったからだろう。
「ねえぽん子ちゃん」
「何ですか?」
「また今度、内緒で出かけようか」
ピンと立てた指を唇に当てて、イタズラな笑みを浮かべる山崎さん。
やっぱりどこか余裕があってズルいのに、そんな期待を込めたような顔をされて、嫌だとは言えないではないか。
「またラーメン食べさせてください」
「オッケー」
そうして私達は、夜道を帰るのであった。