今日はちょっと学校で嫌なことがあった。
お昼休みに神楽ちゃんと妙ちゃんと話していたら、沖田くんが割り込んできて、いつものドS全開で話しかけてきた。
別にそれはいつもの事だし、最初はなんて事も無かったのだが、今日の沖田くんは私に対するいじり方がしつこくて、私は沖田くんに言い返したのだ。
そしたら沖田くんはムッとした顔で「うっせーブス」とか言って、教室を出ていってそれきり会うことは無かった。
銀八先生は、私と沖田くんが喧嘩したからサボってるとか言い出すし、まるで私のせいのように言われたのが頭にきて仕方がなかった。

「何よ！何よ！腹立つ！」

ベッドサイドに腰かけてぼすぼすと枕を殴りながら怒っていると、ベッドに銀ちゃんがぴょんと飛び乗ってきた。

『珍しく荒れてんなー、どしたぁ？』

今日は飴でも舐めているのか、頬っぺを片方だけ膨らました銀ちゃんが私の前で腕組みしながら話しかけてきて、その姿に銀八先生を思い出してムッとしてしまった。

「ちょっと嫌なことがあっただけ」

ぷいっと横を向きながらそう言うと、銀ちゃんはフーンとだけ言って、枕の上で固く握りしめていた私の拳をそっと撫でてきた。
ふわふわとした温かな感触にハッとして手を開けば、銀ちゃんは『手が痛くなんぞー』と言って、ニカッと笑っている。

「銀ちゃん、枕叩いてごめん。物は大事にしなきゃだよね」
『生きてる限り誰しもそんな時があるだろ。今宵の枕はサンドバッグになる運命だったんだろーよ』

銀ちゃんはふわふわと髪を揺らしながらテーブルに戻ると、私が置いていたスマホで動画の続きを見始めた。
器用にホルダーを立ててスマホに傾斜をつけ、いい角度になったのか寝転がって動画を見るその後ろ姿は、まるで居間で寛ぐオッサンのようでちょっとだけ笑えてくる。
そんな姿を眺めていたら、何だか怒っていたのが落ち着いてくるから不思議だ。
もしかして神様の力？なんて思うけど、それはきっと気の所為だから無かったことにして、枕を置いた私は銀ちゃんのふわふわの頭を撫でることにした。

「枕を殴るよりも心が落ち着くよ、銀ちゃん」
『おー、そりゃ良かったな』
「うん」

まるで小型犬でも撫でているような気持ちで、銀ちゃんの頭をひたすら撫で続けると、銀ちゃんは鬱陶しくなってきたのか私の手から逃れるようにゴロリと回転して逃げ出してしまった。
そして私に振り返ると、やっぱり迷惑そうな顔をした銀ちゃんからじとりとした目を向けられてしまった。

「ごめん銀ちゃん」
『いや、いいけどな。別に良いけどちょっと頭取れるかと思って。次から気をつけてくれたらいいから』
「ご、ごめんなさい…」
『分かったなら良し』

そう言って、今度はあぐらをかいて動画を見始める銀ちゃんはすっかりいつも通りのふわふわした雰囲気に戻っていた。
銀ちゃんを見ていたら、ついつい頭を撫でたくなってしまうのは仕方が無いと思う。
あんなふわふわを触らずに居られるわけが無いのだが、先程は本当にやりすぎてしまったようだから、今は反省している。

『つか寝なくていいのかよ』
「うーん、寝なきゃだけど…」
『何？眠れねーの？』
「んー…」

ベッドに横になっても、すぐには眠れるような気がしなくてもごもごと口篭ると、銀ちゃんはまた私のところにひょいと戻ってきてくれた。
そして心配そうに顔を覗き込んで、小さな手で頭を優しく撫でてくれる。
ぶっきらぼうだけど、人の心を読み取るのが上手い銀ちゃんは私が落ち込んでいたりすると、こうしてそばに居てくれたりもする。
まるで犬や猫みたいなんて言ったらめちゃくちゃ怒るので言わないけれど、やはり不思議な力があるんだろう。

「ありがとね」
『おー、何かあったら言えよ』

まるで彼氏のような、お父さんのような口ぶりに自然と頬が緩んでしまう。
そんな私を不思議に思ったのか、銀ちゃんは首を傾げて眉をひそめていた。
だが次の瞬間目を見開き、古典的だが手を打って閃いた！とでもいうように銀ちゃんの顔がドヤ顔に変化した。

『わかった！お前、寂しいんだろ』
「えっ」
『眠れるまでそばにいてやるよ』

そう言うと、銀ちゃんは私の顔のそばでごろりと横になって腕枕をしながらこちらを見ている。
満足気なその顔を見ていたら、あんなにも腹が立っていたのに学校での嫌なことなんて忘れて、私はすっかり笑顔に戻っていた。

「ありがと、銀ちゃん」
『良いってことよ』

部屋の電気を消して常夜灯にすれば、いつもはキラキラと眩しい髪の毛がほんのり温かな色に光っている気がして、こちらを見つめる銀ちゃんのその髪をひと撫でした。
今夜はいい夢を見られそう。
そう呟くと、銀ちゃんはフンと鼻で笑って呟いた。

『神様がそばにいるんだから、あったりめーよ』