お付き合い編
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今日は久々にぽん子の家に遊びに来ている。
付き合い始めたからといって相変わらず俺が誘いに来ないと滅多に家から出てこない彼女の為に…というよりは俺が会いたくて家に来たが、その家主はパソコンの前でリズム良く机を叩いている。
手には恐らく何年も使い続けているであろう万年筆が握られており、何やら難しい顔でそれをコツコツと上下させては筆を走らせ、止まってはまた上下を繰り返していた。
初めて見た仕事中のぽん子はちょっと怖いほど真顔になっている。
それがふと緩んだ時に筆がすらすらと進み、ぽん子の中で話が進んでいるのだろうということが伺える。
少し離れた所から座って見ていたが、少し飽きてきた俺は本棚に入りきれず床に積まれた物の中から一冊を手に取り、ぽん子のベッドへ腰掛けた。
パラパラと捲ると、どうやらそれは所謂ネタ帳という物だったようで単語や短い文などがあちこちに散らばっていたり、それらを矢印で繋げられていたりと中々面白い。
これまで書いてきた話も、これから書かれるであろう話もこの中にはあるんだろうなと思いながら目を通していると、赤く引かれた線に乗せられた単語で目が止まった。
「あっ!銀さん!それ探してた手帳です!どこにありました?」
顔を上げると、驚いた顔のぽん子が俺の手の中を指さしている。
どうやら物書きのほうはある程度進んだらしく、卓上はすっかり綺麗に整えられていた。
「本の山の中にあったけど」
「良かったぁ~」
ぽん子は嬉しそうに手帳に手を伸ばして引っ張ってきたが、俺はそれを手放すことなくむしろ強く力を入れた。
「えっ?銀さん?えっ、何です?」
明らかに狼狽えたぽん子が一瞬力を弱め、再度引っ張ってきたがそれでも俺は力を緩めない。というよりこれを離すつもりが無い。
先程目が止まった所には、見過ごす訳にはいかない単語が並んでいたのだ。
「片思い」
「片思い?」
「叶えられない」
「えっ、なに?銀さん一体何を?」
「隊服」
「………」
「………」
「……あっ!真選組との恋!」
黙っていたら、ぽん子が思い出したのかハッとした顔で閃いた!と言わんばかりの顔で答えたがその顔に若干腹が立つ。
「ぽん子ちゃん、何これ」
自分でも大人気ないと分かっているが、思い切り不機嫌な声で問いかけると焦ったようにぽん子は両手をぱたぱたと左右に振った。
「ただのネタですよ!担当者から、流行るかもしれないから警察官との話をって打診があったんです!考えてみたけど想像できなくて、とりあえず真選組って書いただけで!」
そりゃ勿論ただのネタだとは分かっている。それは重々承知なのだが、その後に続く単語については忘れているのかぽん子は焦りまくったまま困った顔をしている。
「いや別にね、ぽん子ちゃんが仕事のために考えてるってのは分かってんだよ?分かってんだけどさ」
「な、何をそんなにお怒りで…」
ギラッと睨みを効かせ、ぽん子に開いたページのある部分を指さしながら突きつけると、俺はその部分を読み上げた。
「『 副長さん、かっこいいだけでなく可愛い所も有り。良し』って何だろうね?
もしかしてぽん子ちゃんアイツと親しいワケ?てか最後の良しって何?何が良し?」
ビシビシと指で叩きながら問い詰める俺に相当びびっているのか、ぽん子はオロオロとたれ眉になり泣きそうな顔になっている。
その顔に少し冷静になった俺は、そっとぽん子の手に少ししわの入ってしまった手帳を返すと「悪ぃ」と小さく謝った。
ぽん子はまだ困った顔をしているが、俺のとなりに腰掛けるとページを開いて「副長さん」の文字を指先でなぞっている。
「一応、書くなら観察してみようって思って真選組の近くを通ったんです。そしたら副長さんは煙草じゃないものを咥えてらして、何だろうって見ていたら飴だったんですよ」
ぽん子はしょんぼりと頭を垂れて呟いているが、俺はぽん子の言葉にピタリと思考が止まる。
「それで怖い人だと思っていたけど可愛い所もあるんだなって思って、作品のモデルに良しって書いてたんです…
銀さんは副長さんと仲悪かったですよね?嫌な思いさせてごめんなさい…」
まさか俺とマヨラーが入れ替わっていた時に見られていた上に、己の行動でアイツの株を上げるような真似をしていた事に嫌な汗が背中を伝う。
悲しそうな様子がぽん子からヒシヒシ伝わってきて、己の愚かさがズンと頭にのしかかって来たがそれを払拭すべくぶんぶんと顔を振った俺は、ぽん子の肩を抱き寄せた。
「い、いやぁ俺も大人げなかったよな。ぽん子ちゃんは悪くねぇよ!怖がらせてごめんな。俺がアイツと馬が合わねぇったってぽん子ちゃんの仕事に口出すなんて俺が悪かったです。本当にごめんなさい」
後半がやや早口になってしまったが、ぽん子はほっとした顔で俺の方を伺っており、焦りしかなかった俺の頭は、あっやだ可愛いと一瞬にして邪な気持ちに攫われた。
そして少し考え込んだような顔のぽん子がイタズラっぽい表情に変わり、そのままにんまりと口角が上がった。
「銀さん、もしかしてヤキモチですか?」
嬉しそうな目元が妙に色っぽくて、丁度座っているところはベッドだし押し倒しちゃおうかな?でもまだ俺たちキスもしてないのに階段登りすぎたらぽん子から嫌われるか~なんて、さっきよりももっと邪な思いに頭がいっぱいになりかけた時、ぽん子がちぇっと唇を尖らせた。
「違ったみたいですね。残念」
頬を少し膨らませ視線を落としたぽん子の、その小さな唇に吸い寄せられるように触れると、ぽん子の長い髪が俺の頬をさらっと掠めた。
「……えっと…可愛くて、つい…」
「あっはい、えっと、ありがとうございます?」
「……ぷっ」
「ふふっ」
驚いた顔のぽん子だったが、しどろもどろに言い訳をする俺に何故かお礼を言って思わず吹き出してしまうと、ぽん子も楽しそうに笑顔を見せた。
「初めてのキスってもっと特別な時にするものと思ってたから、驚いちゃいました」
「あー…そりゃ悪かったな」
「いいえ!…嬉しいです、銀さんとできて」
もう本当にこの子ってば、こんな場所でめちゃくちゃ煽ってくるじゃねーの!エロい事されても文句言えませんよ!
なんてお母さんみたいなセリフが頭をよぎる中、ぽん子は遠慮がちに俺の肩に頬を擦り寄せて目を伏せた。
「銀さん、大好き」
思わず反対側を向いた俺の鼻息が、強く吹き出したのは言うまでもない。
物書きさんのお宅にて、初めてのキスをした。
付き合い始めたからといって相変わらず俺が誘いに来ないと滅多に家から出てこない彼女の為に…というよりは俺が会いたくて家に来たが、その家主はパソコンの前でリズム良く机を叩いている。
手には恐らく何年も使い続けているであろう万年筆が握られており、何やら難しい顔でそれをコツコツと上下させては筆を走らせ、止まってはまた上下を繰り返していた。
初めて見た仕事中のぽん子はちょっと怖いほど真顔になっている。
それがふと緩んだ時に筆がすらすらと進み、ぽん子の中で話が進んでいるのだろうということが伺える。
少し離れた所から座って見ていたが、少し飽きてきた俺は本棚に入りきれず床に積まれた物の中から一冊を手に取り、ぽん子のベッドへ腰掛けた。
パラパラと捲ると、どうやらそれは所謂ネタ帳という物だったようで単語や短い文などがあちこちに散らばっていたり、それらを矢印で繋げられていたりと中々面白い。
これまで書いてきた話も、これから書かれるであろう話もこの中にはあるんだろうなと思いながら目を通していると、赤く引かれた線に乗せられた単語で目が止まった。
「あっ!銀さん!それ探してた手帳です!どこにありました?」
顔を上げると、驚いた顔のぽん子が俺の手の中を指さしている。
どうやら物書きのほうはある程度進んだらしく、卓上はすっかり綺麗に整えられていた。
「本の山の中にあったけど」
「良かったぁ~」
ぽん子は嬉しそうに手帳に手を伸ばして引っ張ってきたが、俺はそれを手放すことなくむしろ強く力を入れた。
「えっ?銀さん?えっ、何です?」
明らかに狼狽えたぽん子が一瞬力を弱め、再度引っ張ってきたがそれでも俺は力を緩めない。というよりこれを離すつもりが無い。
先程目が止まった所には、見過ごす訳にはいかない単語が並んでいたのだ。
「片思い」
「片思い?」
「叶えられない」
「えっ、なに?銀さん一体何を?」
「隊服」
「………」
「………」
「……あっ!真選組との恋!」
黙っていたら、ぽん子が思い出したのかハッとした顔で閃いた!と言わんばかりの顔で答えたがその顔に若干腹が立つ。
「ぽん子ちゃん、何これ」
自分でも大人気ないと分かっているが、思い切り不機嫌な声で問いかけると焦ったようにぽん子は両手をぱたぱたと左右に振った。
「ただのネタですよ!担当者から、流行るかもしれないから警察官との話をって打診があったんです!考えてみたけど想像できなくて、とりあえず真選組って書いただけで!」
そりゃ勿論ただのネタだとは分かっている。それは重々承知なのだが、その後に続く単語については忘れているのかぽん子は焦りまくったまま困った顔をしている。
「いや別にね、ぽん子ちゃんが仕事のために考えてるってのは分かってんだよ?分かってんだけどさ」
「な、何をそんなにお怒りで…」
ギラッと睨みを効かせ、ぽん子に開いたページのある部分を指さしながら突きつけると、俺はその部分を読み上げた。
「『 副長さん、かっこいいだけでなく可愛い所も有り。良し』って何だろうね?
もしかしてぽん子ちゃんアイツと親しいワケ?てか最後の良しって何?何が良し?」
ビシビシと指で叩きながら問い詰める俺に相当びびっているのか、ぽん子はオロオロとたれ眉になり泣きそうな顔になっている。
その顔に少し冷静になった俺は、そっとぽん子の手に少ししわの入ってしまった手帳を返すと「悪ぃ」と小さく謝った。
ぽん子はまだ困った顔をしているが、俺のとなりに腰掛けるとページを開いて「副長さん」の文字を指先でなぞっている。
「一応、書くなら観察してみようって思って真選組の近くを通ったんです。そしたら副長さんは煙草じゃないものを咥えてらして、何だろうって見ていたら飴だったんですよ」
ぽん子はしょんぼりと頭を垂れて呟いているが、俺はぽん子の言葉にピタリと思考が止まる。
「それで怖い人だと思っていたけど可愛い所もあるんだなって思って、作品のモデルに良しって書いてたんです…
銀さんは副長さんと仲悪かったですよね?嫌な思いさせてごめんなさい…」
まさか俺とマヨラーが入れ替わっていた時に見られていた上に、己の行動でアイツの株を上げるような真似をしていた事に嫌な汗が背中を伝う。
悲しそうな様子がぽん子からヒシヒシ伝わってきて、己の愚かさがズンと頭にのしかかって来たがそれを払拭すべくぶんぶんと顔を振った俺は、ぽん子の肩を抱き寄せた。
「い、いやぁ俺も大人げなかったよな。ぽん子ちゃんは悪くねぇよ!怖がらせてごめんな。俺がアイツと馬が合わねぇったってぽん子ちゃんの仕事に口出すなんて俺が悪かったです。本当にごめんなさい」
後半がやや早口になってしまったが、ぽん子はほっとした顔で俺の方を伺っており、焦りしかなかった俺の頭は、あっやだ可愛いと一瞬にして邪な気持ちに攫われた。
そして少し考え込んだような顔のぽん子がイタズラっぽい表情に変わり、そのままにんまりと口角が上がった。
「銀さん、もしかしてヤキモチですか?」
嬉しそうな目元が妙に色っぽくて、丁度座っているところはベッドだし押し倒しちゃおうかな?でもまだ俺たちキスもしてないのに階段登りすぎたらぽん子から嫌われるか~なんて、さっきよりももっと邪な思いに頭がいっぱいになりかけた時、ぽん子がちぇっと唇を尖らせた。
「違ったみたいですね。残念」
頬を少し膨らませ視線を落としたぽん子の、その小さな唇に吸い寄せられるように触れると、ぽん子の長い髪が俺の頬をさらっと掠めた。
「……えっと…可愛くて、つい…」
「あっはい、えっと、ありがとうございます?」
「……ぷっ」
「ふふっ」
驚いた顔のぽん子だったが、しどろもどろに言い訳をする俺に何故かお礼を言って思わず吹き出してしまうと、ぽん子も楽しそうに笑顔を見せた。
「初めてのキスってもっと特別な時にするものと思ってたから、驚いちゃいました」
「あー…そりゃ悪かったな」
「いいえ!…嬉しいです、銀さんとできて」
もう本当にこの子ってば、こんな場所でめちゃくちゃ煽ってくるじゃねーの!エロい事されても文句言えませんよ!
なんてお母さんみたいなセリフが頭をよぎる中、ぽん子は遠慮がちに俺の肩に頬を擦り寄せて目を伏せた。
「銀さん、大好き」
思わず反対側を向いた俺の鼻息が、強く吹き出したのは言うまでもない。
物書きさんのお宅にて、初めてのキスをした。