出会い編
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高密度な粒子の塊は天高く我等を見下ろす月の高さにまで登りつめ、眩い光となって降り注ぐ。
まるで地球上の全エネルギーが爆発したような衝撃波を生み出した私の目の前には、塵一つ残すことは無かった。
そうして己の力の偉大さを目の当たりにした私はククッと喉を鳴らし、未だ反動に震える手を握りしめた。
そうだ、私はついに全能の神となったのである…。
カチャカチャと指を滑らせながら下らない妄想文をパソコンへと入力し、ぶふっと吹き出す。
本業として書いている物語が行き詰まった時に行う、ちょっとしたストレス解消である。
「この物語でもし万が一何らかの受賞でもあった日には、今まで培ってきた作品への自信を失ってしまうわ」
天人が存在している以上こういった可能性は全くないとも言いきれないが、私の人生においては恐らく別世界である物語をまとめて消去し、ぐーんと背中を反らした。
一旦休憩しようと椅子から立ち上がると、コンコンと窓を叩かれ驚きに肩が跳ね上がる。
窓を見れば、どうやら背の高い男性らしき人が立っているようだ。
少しでも落ち着こうと作業着の上に羽織だけ重ねて、なるべく肌が見えないようにすると、再度コンコンと叩かれ、意を決して窓に手を掛ける。
一体誰かと恐る恐るカーテンを開けると日光がさんさんと差し込み、きらりと眩しく一瞬目を細めた。
それから顔を覗かせる人物に目が飛び出そうになったが、慌てて窓を開けると、その人は悪びれもなく手をひらひらさせながら笑った。
「よぉぽん子ちゃん。相変わらず引きこもってんな~。つか女の一人暮らしで通りに面してんのに、一階で面格子も無ぇのは不用心なんじゃねぇの~?」
「ちょ、ちょっと!脅かさないで下さいよ!」
銀さんは呆れたように窓枠に腕を乗せ、反対の手でコンコンと冊子を叩いた。
今更ながら髪も整えず対面したことに慌ててカーテンを閉め、ささっと髪を手ぐしで整えていると銀さんの笑い声がして、私はカーテンの間から顔だけを覗かせる。
文句のひとつでも言ってやろうと口を開いた瞬間、銀さんの大きな手のひらで口を塞がれた。
「ん!」
「しーっ!こんな所で話してたら目立つだろうが!玄関に回ってくっから、鍵開けてくんね?」
自分から話しかけておいて勝手な事を言い出すこの男に、もはや言い返す気も言い負かす自信も失せた私は大人しくこくんと頷き、彼が玄関に回るのを見てから窓の施錠をした。
最近、銀さんはよくうちに顔を出すようになった。
彼曰く、私が引きこもってばかりなのが気にかかって…だそうで、こうして近くを通った時なんかに連れ出されるようになった。
とはいえ月に数回といったところだが、ストレス解消になっているのか筆の進む速度も以前よりは早まったような気がする。
それに、やはり好意を寄せる一人の女としては彼を独占し、彼女のような気分を味あわせてもらえて悪い気はしない。
「ヘェ、ここは本だらけの紙だらけなんだな」
通りに面している部屋が見たいと言い出した銀さんの要望に応え、仕事部屋へと案内すると銀さんは本を手に取ってぱらぱらと捲ってすぐに閉じた。
「あーダメだ。頭痛がしてくらぁ」
床に積んでいた山の中へと一冊を戻しながら、わざとらしく銀さんは目頭を押さえてやれやれと首を振っている。
「それにしても、窓から呼びかけるなんてどうされたんですか?」
首を振る度に銀色の髪がふわふわと揺れたのを微笑ましく思いながら、羽織りを脱いだ私は銀さんへと問いかけた。
こちらを見た銀さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにまた本棚へと向き直り咳払いをした。その頬はほんのり弛んでいる。
「今もしかして胸元見ました?」
「見てねえし」
「……」
「見てねえから!えーとだな、今日はその…アレだよアレ」
「…アレ、とは?」
「アレったらホラ、面格子!女の一人暮らしでその窓はやべーだろ」
びしいっと音がなりそうなほど勢いよく窓を指さした銀さんに気圧されながらも、改めて窓を見る。
今までとくに危険に思うことは無かったが、たしかに台風の時は割れたらどうしようかと恐れた時もあった。
「なるほど、さすが万事屋さんです。面格子を付ける為に来られたのですね」
「ちげーよバカ」
わざとらしく手のひらに拳を乗せながら答えると、銀さんは冷めた目でこちらを見た。
「前から思ってたけどよ、もうちょい安全な場所に住んだ方が良くねぇ?」
「ええっ、でもここならこんびにもお団子屋さんも近くて便利ですし…」
「お前、団子以外はしょっちゅう通販やら配達頼んでんだろーが。んなもんどこに引っ越したって変わんねーだろ」
「うっ…バレてましたか…」
「こんだけ段ボールがありゃ誰でも気付くわ」
ビシッと指さされた先には、紐で括っておいた資源ごみが寂しそうに佇んでいる。さほど重くもないしと纏めていて、明日こそ出そうと思っていたものだ。
「つーことで物件巡りだ」
「ええ…」
文句言いませーん。とドラマのお母さんのような言い方で私を箪笥の前に連れていくと、てきぱきと着物を選んで次々と手渡していく。
「はぃ、じゃあ着替えてー」
私は諦めてため息をつくと、銀さんの指示に従うことにした。
そしてまず不動産屋から案内されたのは自宅近くの見るからにお高めの部屋で、内覧も何も家賃が払えないとお断りすれば、次はやや離れた所にある住宅地だった。
そこもまた一軒家より長屋で生活する方が管理が難しくないので…とお断りすれば、段々と自宅から遠ざかってはいるがそれなりに賑やかな長屋へと辿り着いた。
「ここなら今の所と家賃も変わんねーし、防犯対策もまぁまぁだろ」
「たしかに……少し歩けばお茶屋さんもありますね!悪くは無いです」
「よし!じゃあここで!」
「かしこまりました。では一旦事務所へ戻って契約のお手続きを…」
悪くは無いが、即決とも…と言うより先に銀さんに決められてしまい、初めから計画していたかのように不動産屋からも話を進められてしまった。
慌てて口を挟もうとするも、既にお二人は私を置いて玄関へと向かっている。
「ええ!あの、ちょ…」
「はい退散、退散」
「ええ…」
あっという間の流れでお店へ戻り、にこやかに書類を並べる銀さんの笑顔に諦めて手続きを済ませば、すぐさま自宅へと帰された。
勿論銀さんも一緒に戻り、慣れた手つきで冷蔵庫からお茶を二本取り出して寄越すと、どっかりと畳に座り込んだ。
「突然来て人の家屋にいちゃもん付けたかと思うと引越しの手続きまでさせるなんて、驚きですよ」
「まぁまぁ良いじゃないのぽん子ちゃん。俺も心配しての事なんですよ」
「それにしては急すぎでは…」
「まぁまぁまぁ!んじゃ、荷運びは俺ら万事屋でやるからよ。ぽん子ちゃんは早めに荷造りして引っ越す準備整えておいてな?」
一体何を考えているんだろうと思いながらも、この悪そうな笑顔を向けられると言葉に詰まってしまう。
きっと銀さんもそれを分かっているのだろう。とても狡いと思うが、もうそれに対して抵抗することは私は彼がわが家に立ち寄るようになってからすっかり諦めてしまっている。
「分かりました、宜しくお願いします」
頭を下げると、銀さんは私の髪がくしゃくしゃになるほど撫でながら嬉しそうに笑っていた。
かくして、私の引越しは銀さんの手によって彼の思うがままに、まんまと決められてしまったのである。
まるで地球上の全エネルギーが爆発したような衝撃波を生み出した私の目の前には、塵一つ残すことは無かった。
そうして己の力の偉大さを目の当たりにした私はククッと喉を鳴らし、未だ反動に震える手を握りしめた。
そうだ、私はついに全能の神となったのである…。
カチャカチャと指を滑らせながら下らない妄想文をパソコンへと入力し、ぶふっと吹き出す。
本業として書いている物語が行き詰まった時に行う、ちょっとしたストレス解消である。
「この物語でもし万が一何らかの受賞でもあった日には、今まで培ってきた作品への自信を失ってしまうわ」
天人が存在している以上こういった可能性は全くないとも言いきれないが、私の人生においては恐らく別世界である物語をまとめて消去し、ぐーんと背中を反らした。
一旦休憩しようと椅子から立ち上がると、コンコンと窓を叩かれ驚きに肩が跳ね上がる。
窓を見れば、どうやら背の高い男性らしき人が立っているようだ。
少しでも落ち着こうと作業着の上に羽織だけ重ねて、なるべく肌が見えないようにすると、再度コンコンと叩かれ、意を決して窓に手を掛ける。
一体誰かと恐る恐るカーテンを開けると日光がさんさんと差し込み、きらりと眩しく一瞬目を細めた。
それから顔を覗かせる人物に目が飛び出そうになったが、慌てて窓を開けると、その人は悪びれもなく手をひらひらさせながら笑った。
「よぉぽん子ちゃん。相変わらず引きこもってんな~。つか女の一人暮らしで通りに面してんのに、一階で面格子も無ぇのは不用心なんじゃねぇの~?」
「ちょ、ちょっと!脅かさないで下さいよ!」
銀さんは呆れたように窓枠に腕を乗せ、反対の手でコンコンと冊子を叩いた。
今更ながら髪も整えず対面したことに慌ててカーテンを閉め、ささっと髪を手ぐしで整えていると銀さんの笑い声がして、私はカーテンの間から顔だけを覗かせる。
文句のひとつでも言ってやろうと口を開いた瞬間、銀さんの大きな手のひらで口を塞がれた。
「ん!」
「しーっ!こんな所で話してたら目立つだろうが!玄関に回ってくっから、鍵開けてくんね?」
自分から話しかけておいて勝手な事を言い出すこの男に、もはや言い返す気も言い負かす自信も失せた私は大人しくこくんと頷き、彼が玄関に回るのを見てから窓の施錠をした。
最近、銀さんはよくうちに顔を出すようになった。
彼曰く、私が引きこもってばかりなのが気にかかって…だそうで、こうして近くを通った時なんかに連れ出されるようになった。
とはいえ月に数回といったところだが、ストレス解消になっているのか筆の進む速度も以前よりは早まったような気がする。
それに、やはり好意を寄せる一人の女としては彼を独占し、彼女のような気分を味あわせてもらえて悪い気はしない。
「ヘェ、ここは本だらけの紙だらけなんだな」
通りに面している部屋が見たいと言い出した銀さんの要望に応え、仕事部屋へと案内すると銀さんは本を手に取ってぱらぱらと捲ってすぐに閉じた。
「あーダメだ。頭痛がしてくらぁ」
床に積んでいた山の中へと一冊を戻しながら、わざとらしく銀さんは目頭を押さえてやれやれと首を振っている。
「それにしても、窓から呼びかけるなんてどうされたんですか?」
首を振る度に銀色の髪がふわふわと揺れたのを微笑ましく思いながら、羽織りを脱いだ私は銀さんへと問いかけた。
こちらを見た銀さんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにまた本棚へと向き直り咳払いをした。その頬はほんのり弛んでいる。
「今もしかして胸元見ました?」
「見てねえし」
「……」
「見てねえから!えーとだな、今日はその…アレだよアレ」
「…アレ、とは?」
「アレったらホラ、面格子!女の一人暮らしでその窓はやべーだろ」
びしいっと音がなりそうなほど勢いよく窓を指さした銀さんに気圧されながらも、改めて窓を見る。
今までとくに危険に思うことは無かったが、たしかに台風の時は割れたらどうしようかと恐れた時もあった。
「なるほど、さすが万事屋さんです。面格子を付ける為に来られたのですね」
「ちげーよバカ」
わざとらしく手のひらに拳を乗せながら答えると、銀さんは冷めた目でこちらを見た。
「前から思ってたけどよ、もうちょい安全な場所に住んだ方が良くねぇ?」
「ええっ、でもここならこんびにもお団子屋さんも近くて便利ですし…」
「お前、団子以外はしょっちゅう通販やら配達頼んでんだろーが。んなもんどこに引っ越したって変わんねーだろ」
「うっ…バレてましたか…」
「こんだけ段ボールがありゃ誰でも気付くわ」
ビシッと指さされた先には、紐で括っておいた資源ごみが寂しそうに佇んでいる。さほど重くもないしと纏めていて、明日こそ出そうと思っていたものだ。
「つーことで物件巡りだ」
「ええ…」
文句言いませーん。とドラマのお母さんのような言い方で私を箪笥の前に連れていくと、てきぱきと着物を選んで次々と手渡していく。
「はぃ、じゃあ着替えてー」
私は諦めてため息をつくと、銀さんの指示に従うことにした。
そしてまず不動産屋から案内されたのは自宅近くの見るからにお高めの部屋で、内覧も何も家賃が払えないとお断りすれば、次はやや離れた所にある住宅地だった。
そこもまた一軒家より長屋で生活する方が管理が難しくないので…とお断りすれば、段々と自宅から遠ざかってはいるがそれなりに賑やかな長屋へと辿り着いた。
「ここなら今の所と家賃も変わんねーし、防犯対策もまぁまぁだろ」
「たしかに……少し歩けばお茶屋さんもありますね!悪くは無いです」
「よし!じゃあここで!」
「かしこまりました。では一旦事務所へ戻って契約のお手続きを…」
悪くは無いが、即決とも…と言うより先に銀さんに決められてしまい、初めから計画していたかのように不動産屋からも話を進められてしまった。
慌てて口を挟もうとするも、既にお二人は私を置いて玄関へと向かっている。
「ええ!あの、ちょ…」
「はい退散、退散」
「ええ…」
あっという間の流れでお店へ戻り、にこやかに書類を並べる銀さんの笑顔に諦めて手続きを済ませば、すぐさま自宅へと帰された。
勿論銀さんも一緒に戻り、慣れた手つきで冷蔵庫からお茶を二本取り出して寄越すと、どっかりと畳に座り込んだ。
「突然来て人の家屋にいちゃもん付けたかと思うと引越しの手続きまでさせるなんて、驚きですよ」
「まぁまぁ良いじゃないのぽん子ちゃん。俺も心配しての事なんですよ」
「それにしては急すぎでは…」
「まぁまぁまぁ!んじゃ、荷運びは俺ら万事屋でやるからよ。ぽん子ちゃんは早めに荷造りして引っ越す準備整えておいてな?」
一体何を考えているんだろうと思いながらも、この悪そうな笑顔を向けられると言葉に詰まってしまう。
きっと銀さんもそれを分かっているのだろう。とても狡いと思うが、もうそれに対して抵抗することは私は彼がわが家に立ち寄るようになってからすっかり諦めてしまっている。
「分かりました、宜しくお願いします」
頭を下げると、銀さんは私の髪がくしゃくしゃになるほど撫でながら嬉しそうに笑っていた。
かくして、私の引越しは銀さんの手によって彼の思うがままに、まんまと決められてしまったのである。